第4話 エヘッ! 4

「私の名前はおみっちゃん! 夢はお江戸で歌姫になることです!」

 おみっちゃんの夢は歌姫になること。ちなみに歌姫とはアイドルみたいなものである。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子ですよ!」

 夢を叶えるために茶店で看板娘のアルバイトをして銭を貯めている。

「実は私、幽霊なんですけど。エヘッ!」

 おみっちゃんはエヘ幽霊である。


「小さい子供が迷子なら一緒にお母さんを探してあげよう! ああ~良いことしたな!」

 おみっちゃんは純粋な心の持ち主。

「何言ってるんだい? あんた幽霊だから子供がビックリして泣いちゃうよ。」

 茶店の女将さんがツッコム。

「そうでした。私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 おみっちゃんは可愛い幽霊でした。

「せっかく茶店で働く仲間が増えたので自己紹介でもしましょう。」

 おみっちゃんは新しく茶店で働くことになったカッカッと親睦を深めたい。

「私は幽霊のおみっちゃん。夢はお江戸で歌姫になることです。エヘッ!」

 歌姫になって煌びやかで輝く世界に行きたいエヘ幽霊。

(えっ!? おみっちゃんが江戸に行って歌ったら江戸が壊滅しちゃうよ!?)

 カッカッはおみっちゃんの夢に恐怖を覚えてガクガク・ブルブルした。

「これは餓鬼のガッキー。こっちは天狗のテンテン。詳細は省略。」

 自己紹介も簡略化された。

「酷い扱いだ!?」

「あんまりだ!? 略し過ぎだろう!?」

 ガッキーとテンテンは前に自己紹介したのでこんな感じ。

「私は河童のカッカッ。夢は大河童になること。河童の中で1番偉い人になるんだ。カッカッカ!」

 カッカッの夢は大河童になることだった。

「あれ? どこかで似たような夢を持っている人がいたわね。」

 おみっちゃんは何かを思い出せない。

「私だ。私も大天狗になることが夢なのだ。」

 テンテンの夢はカッカッの夢と似ていた。

「嘘。あんたの夢は中華料理の茶店を出すことでしょ。」

 冷たく言い放つおみっちゃん。

「うんなアホな!?」

 この時、テンテンは肉まんならコンビニとコラボできると虎視眈々と野望を心に秘めていた。

「みんなで夢に向かってがんばろう!」

「エイエイオー!」

 気合を入れるおみっちゃんたち。

「そんなことはどうでもいいから仕事をしな! 4人いるんだから売り上げ4倍にならなかったら給料を減らすからね! イヒッ!」

 全ては銭のための女将さん。


「最初は私一人だけだったけど、お友達が増えると大分仕事が楽になってきたです。みんな、ありがとう。」

 おみっちゃんが茶店の開店準備を一人でやっていたが、今ではガッキー、テンテン、カッカッがいるのでとても楽になった。

「こちらこそ。おみっちゃんに出会っていなかったら、私は今頃、道端でホームレスをやって屍になっていた頃よ。毎日残ったお団子をお腹いっぱいに食べられるから、私はおみっちゃんに出会えてとても幸せよ。ありがとう。おみっちゃん。ガハッ!」

 食費が浮いて助かって大喜びのガッキー。

「私もそうだ。おみっちゃんに出会っていなかったら、自分が一番偉い、自分が一番優秀だと思い、努力もせずに遊び惚けていたはずだ。おみっちゃんと戦って上には上がいるということを教えられた。今の私が真面目に勉強や修練に取り組んでいるのはおみっちゃんが私の天狗の鼻をへし折ってくれたおかげだ。私もおみっちゃんに出会えてよかった。ありがとう。おみっちゃん。」

 夢の大天狗になるために精進するテンテン。

「それなら私もだ。もしもおみっちゃんに出会っていなかったら、きっと今も川で流れて遊んでいるだけの詰まらない人生を送っていたはずだ。おみっちゃんに茶店の仕事を進めてもらって自分の適材適所というものを知ったんだ。私の毎日はとても充実している。ありがとう。おみっちゃん。おみっちゃんに出会えて良かったよ。私。」

 更に水芸や料理を上達させるカッカッ。

「でも、みんなと出会えてお友達になれて一番良かったのは私です。茶店の開店準備を女将さんが手伝ってくれないから早出の開店2時間前に来て準備して、閉店作業も女将さんがさっさと帰るので私一人でサービス残業の2時間も働いていたんですよ。私が幽霊で死なないからって過酷な労働をさせ過ぎです。」

 おみっちゃんの残酷過労死物語(幽霊なので死にませんが)。

「大変だったんだね。」

「それに比べれば私たちは恵まれていたんだな。」

「泣かないで。これからは私たちが一緒に手伝うから。」

「ありがとう。みんな。大好きです。エヘッ!」

 慰めてくれる仲間に感謝するエヘ幽霊。

「こら。おみっちゃん。私のことを悪く言っていると時給を下げるよ。」

 そこに女将さんが現れる。

「女将さんのイケズ。」

 悲しむおみっちゃん。

「いいのかい? おみっちゃん。文句を言っていると給料を減らすよ。夢が叶うのが遠のくよ。それでもいいのかい?」

 子供の弱みに付け込むパワハラ・オーナーの女将さん。

「それだけはご勘弁を! 私が悪うございました! お許しください! 神様! 仏様! 女将さん様!」

 時給を人質に取るオーナーに弱いアルバイトのおみっちゃん。

「分かればいいんだよ。真面目に働きな!」

 包容力のある女将さん。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お団子ですよ!」

 てんぱりながらも働くおみっちゃん。

「やればできるじゃないかい! イヒッ!」

 温かい女将さん。

「ほめられちゃった。エヘッ!」

 エヘ幽霊はこういう奴である。


「私にもお茶とお団子を寄こせ! 私の名前は提灯お化けだ!」

 提灯お化けが茶店に現れてお茶とお団子を要求してくる。

「商売の邪魔だね。おみっちゃん、退治しちゃいな。」

 女将さんはおみっちゃんに倒す様に言う。

「ええー!? また私ですか!? カッカッに言ってくださいよ!?」

 お友達を売る薄情なおみっちゃん。

「水仕事に忙しくて戦闘まで手が回らないよ。」

 荒い物が大変なカッカッ。 

「分かりました。私が戦うから女将さん、少しは自給を上げて下さいね。エヘッ!」

 おねだりするエヘ幽霊。

「分かった。時給を3円上げてやろう。夢の叶う日が近づいてきたね。」

 女将さんは銭儲けに忙しいので戦いには興味が無かった。

「やります! やらせていただきます! 例え3円でも時給が上がるなら! 夢を叶えるために私は戦います!」

 時給アップと夢を叶えるために簡単に釣られるおみっちゃん。


「私の名前はおみっちゃん! 私がお相手致します!」

 おみっちゃんが提灯お化けに立ち塞がる。

「何を! 止めれるものなら止めてみろ!」

 提灯お化けはおみっちゃんに襲い掛かる。

「これでもくらえ! 必殺! 口から火!」

 提灯お化けは口から火を出して、おみっちゃんを攻撃する。

「ギャアアアアアアー!」

 提灯お化けの攻撃を食らったおみっちゃん。

「口ほどにもない。」

 渋い提灯お化け。

「誰が口ほどにもないんですか。エヘッ!」

 倒されたはずのおみっちゃんが笑って立っていた。

「なに!? 確かに倒したはず!? どうしておまえがそこにいる!?」

 提灯お化けには理解できなかった。

「私、幽霊なので攻撃を食らわないんです。エヘッ!」

 幽霊のスキルのスルーが自動発生し、提灯お化けの攻撃はおみっちゃんには当たらなかった。

「バカな!? そんなのありか!? イカサマだ!?」

 提灯お化けはクレームを言う。

「私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 可愛い子ぶるエヘ幽霊。

「クソッ! こうなったら妖力を上げて攻撃してやる! 必殺! 口から炎! ドドドドドドドドドー!」

 提灯お化けは妖力を上げておみっちゃんを攻撃する。

「なんだか怖いのでステルス!」

 おみっちゃんは幽霊のスキルのステルスで透明になり姿を消した。

「どこに行った!? おみっちゃん!?」

 提灯お化けにはおみっちゃんの姿が見えないので攻撃を当てる術がない。

「おみっちゃん。茶店とお客様が燃えちゃうから降参しておきな。」

 女将さんがおみっちゃんに茶店とお客さんの安全が第一だと降参を命令する。

「参りました。私の負けです。」

 姿を現しておみっちゃんは提灯お化けに降参する。

「やったー! おみっちゃんに勝ったぞ! これでお茶とお団子は私のものだ! わ~い!」

 大喜びの提灯お化け。

「あの~お願いがあるのですが、私の夢はお江戸で歌姫になることなんですが、最後に歌を歌わせてもらっても良いでしょうか?」

 謙虚にお願いするおみっちゃん。

「まあ、いいだろう。歌ぐらい歌わせてやろう。ワッハッハー!」

 勝利して上機嫌な提灯お化け。

「ありがとうございます。それじゃあ、思いっきり歌わせてもらいますね。エヘッ!」

 歌が大好きなエヘ幽霊。

「耳栓用意!」

 女将さんは耳に耳栓をして衝撃に備える。

「1番! おみっちゃんが歌います! 曲は夜霧よ、今夜もこにゃにゃちわ! 聞いてください! どうぞ!」

 おみっちゃんが歌い始めた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「ギャアアアアアアー!? なんだ!? この歌声は!? 頭が砕けそうだ!?」

 提灯お化けはおみっちゃんの歌声に耐えられないで苦しんでいる。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更に気持ちよく歌を歌い続けるおみっちゃん。

「こうなったら私の火でおみっちゃんの歌を燃やしてやる! おみっちゃんの夢を消し去ってやる! 必殺! 口から火炎放射!」

 提灯お化けはおみっちゃんの歌声に火炎をぶつける。

「そんな!? 私の歌声が!?」

 おみっちゃんの歌声が火に燃やされていく。

「見たか! 私の火炎放射を! どれだけ歌おうとも全て燃やしてやる! おまえの夢は叶わない! 歌姫になるのは諦めろ! この音痴!」

 音痴。それはおみっちゃんには言ってはいけないワードである。

(音痴・・・・・・・音痴・・・・・・音痴・・・・・・私は歌姫になりたいのに実は音痴・・・・・・。)


プチン!


 おみっちゃんの中で何かが弾ける。夢と現実の狭間で何かが覚醒する。

「誰が音痴だ! 音痴の何が悪い! 私は夢を諦めない! 夢は見る物じゃない! 夢は叶えるものなんだ! 私は絶対に歌姫になるんだー!!!」

 おみっちゃんは気合をいれてフルスロットルで歌を歌う。

「おみっちゃんの夢が強大に膨らんでいく!? どこにそんな力があるというのだ!?」

 思わず提灯お化けもたじろぐ。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 もう誰にもおみっちゃんの歌は止められない。

「ギャアアアアアアー! 私の火をもってしてもおみっちゃんの歌を消しきれない!?」

 気圧される提灯お化け。

「分かるまい! 他人の夢をバカにするおまえには! 私の夢は誰にも奪われない! 夢を見るのは自由だ! 夢は努力で手に入れるものだ! 私の心が諦めない限り、私の夢は終わらない! 私は絶対に歌姫になるんだー! うおおおおおおおー!」

 おみっちゃんは絶対に歌姫になりたいという強い気持ちが自分を強くしてくれている。

「なんという執念だ!? これがおみっちゃんの夢を叶えたいという思い!? ・・・・・・参りました! 私の負けです! 何でも言うとおりにしますから、どうか命ばかりはお助け下さい! ギャアアアアアアー!」

 提灯お化けは無条件降伏した。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 歌を歌い終えてご満悦なエヘ幽霊。

「それではチョウチョウ。」

 おみっちゃんは提灯お化けのことをチョウチョウと名付ける。

「チョウチョウ!? 私はアゲハ蝶ですか?」

 提灯お化けはチョウチョウと呼ばれることになった。

「チョウチョウ。早速お皿洗いから始めてもらうわよ。」

 おみっちゃんはカッカッに皿洗いを命じる。

「私、手が無いんだけど。」

 提灯お化けは手が無いのでお皿が洗えなかった。

「え? なんですと!?」

 不意を着かれたおみっちゃん。

「残念! 私はお皿洗いがしたかったのに、手が無いんじゃ洗えないな。ワッハッハー!」

 裏腹に笑いまくるチョウチョウ。

「擬人化すればいいじゃないかい。」

 そこに女将さんの神の声が。

「え?」

 チョウチョウも不意打ちを食らう。

「そうか。その手があったか。妖怪も擬人化させればいいのよ。さすが! 女将さんです! エヘッ!」

 強い者には媚びへつらうエヘ幽霊。

「働かざる者食うべからず。手が無ければ手を付ければいいんだよ。それとも茶店の入り口で火あぶりの刑がいいかい?」

 提灯としての本来の役割を果たすことも選択できる。

「人間の姿になってお皿を洗います! だって提灯は体の中が大やけどしちゃうんだもの。」

 やっぱり提灯は熱かった。

「素直でよろしい。エヘッ!」

 少し偉そうなエヘ幽霊。

「チョウチョウも新作のお団子を考えてみて。」

 おみっちゃんは新しい仲間に新作のお団子のアイデアを聞いてみた。

「私の火炎放射で焦がしお団子とかどうかしら?」

 チョウチョウは焦がしお団子を提案する。

「それはテンテンが先に考案しているのね。」

 残念。

「それなら提灯型のお団子なんてどうかしら?」

 火は終わっているので形を変えることにしてみた。

「そうか。お団子にも色々な形があっていいんだね。なかなかやるね。チョウチョウ。」

 女将さんも納得の新しい発想であった。

「お褒めいただきありがとうございます。女将さん。」

 謙遜もできるチョウチョウ。

「良かったね。チョウチョウ。」

 仲間の成功を素直に喜ぶおみっちゃん。

「ありがとう。おみっちゃん。」

 新しい環境に適応しようとがんばるチョウチョウであった。 

「チョウチョウ。私たちもよろしくね。」

 ガッキーたちが新しい仲間のチョウチョウを笑顔で迎える。

「みんな。よろしく。」

 チョウチョウの茶店生活が始まる。 

「これにて一件落着! エヘッ!」

 勝ち誇るおみっちゃん。

「終わったんなら働きな。お茶とお団子をお客様に持っていきな。」

 仕事には厳しい女将さん。

「は~い! 喜んで!」

 おみっちゃんの夢はいつ叶うのか。

 つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る