第2話 エヘッ! 2

「私の名前はおみっちゃん! 夢はお江戸で歌姫になることです!」

 おみっちゃんの夢は歌姫になること。ちなみに歌姫とはアイドルみたいなものである。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子ですよ!」

 夢を叶えるために茶店で看板娘のアルバイトをして銭を貯めている。

「実は私、幽霊なんですけど。エヘッ!」

 おみっちゃんはエヘ幽霊である。


「拾った1円玉は交番に届けよう! ああ~良いことしたな!」

 おみっちゃんは純粋な心の持ち主。

「何言ってるんだい? 1円玉なんか交番に届けても拾得物届を書くお巡りさんは有難迷惑だよ。」

 茶店の女将さんがツッコム。

「私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 おみっちゃんは可愛い幽霊でした。

「そんなことはどうでもいいから銭をいっぱい稼ぐんだよ。イヒッ!」

 守銭奴の女将さん。

「女将さんって、本当にお金にうるさいですね。」

 お金の話に嫌気がさしているおみっちゃん。

「世の中、銭が全てだよ! イヒッ!」

 年季の違いを見せつける女将さん。

「ガッキーはどう思いますか?」

 おみっちゃんはガッキーに尋ねてみた。

「私は女将さんの言うことが正しいと思うな。だって私もお金があったら茶店強盗なんかしなくてもお金を出して堂々とお茶とお団子を食べに行けるもの。」

 ガッキーはおみっちゃんの予想とは違いまともな意見を述べる。

「ガッキーの裏切り者!」

 嘆くおみっちゃん。

「だってお給料をくれるのは女将さんだもの。ガハッ!」

 強いモノに媚びを売る餓鬼の無限食欲の爆食女王のガッキー。

「いいのかい? おみっちゃん。真面目に働かいないと給料を減らすよ。夢が叶うのが遠のくよ。それでもいいのかい?」

 子供の弱みに付け込むパワハラ・オーナーの女将さん。

「それだけはご勘弁を! 私が悪うございました! お許しください! 神様! 仏様! 女将さん様!」

 時給を人質に取るオーナーに弱いアルバイトのおみっちゃん。

「分かればいいんだよ。真面目に働きな!」

 包容力のある女将さん。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! どら焼きですよ!」

 てんぱりながらも働くおみっちゃん。

「うちはどら焼き屋じゃないよ!」

 女将さんの厳しい激が飛ぶ。

「間違えちゃった。私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 エヘ幽霊はこういう奴である。


「俺にもお茶とお団子を寄こせ! 私の名前は天狗だ!」

 天狗が茶店に現れてお茶とお団子を要求してくる。

「商売の邪魔だね。おみっちゃん、退治しちゃいな。」

 女将さんはおみっちゃんに餓鬼を倒す様に言う。

「ええー!? また私ですか!? ガッキーに言ってくださいよ!?」

 お友達のガッキーを売る薄情なおみっちゃん。

「食べていいんですか! いつもお腹が空いてるので何でも食べれますよ! ガハッ!」

 涎を垂らして食欲を抑えることができないガッキー。 

(まずい!? このままでは私の出番が減るじゃないか!?)

 出番を取られそうで焦るおみっちゃん。

「分かった。その代わり時給を1円上げてやろう。夢の叶う日が近づいてきたね。」

 女将さんは銭儲けに忙しいので戦いには興味が無かった。

「やります! やらせていただきます! 例え1円でも時給が上がるなら! 夢を叶えるために私は戦います!」

 時給アップと夢を叶えるために簡単に釣られるおみっちゃん。

「ああ~。食べたかったな。」

 悲しむガッキー。

(危なかった!? 完全拒絶はやめておこう!)

 おみっちゃんは心に誓った。


「私の名前はおみっちゃん! 私がお相手致します!」

 おみっちゃんが天狗に立ち塞がる。

「何を! 止めれるものなら止めてみろ!」

 天狗はおみっちゃんに襲い掛かる。

「これでもくらえ! 必殺! 竜巻&火炎!」

 天狗は天狗の羽団扇を扇いで竜巻を作り出し、火遁の術で火炎を作り出しおみっちゃんを攻撃する。

「ギャアアアアアアー!」

 天狗の攻撃を食らったおみっちゃん。

「口ほどにもない。」

 渋い天狗。

「誰が口ほどにもないんですか。エヘッ!」

 倒されたはずのおみっちゃんが笑って立っていた。

「なに!? 確かに倒したはず!? どうしておまえがそこにいる!?」

 天狗には理解できなかった。

「私、幽霊なので攻撃を食らわないんです。エヘッ!」

 幽霊のスキルのスルーが自動発生し、天狗の攻撃はおみっちゃんには当たらなかった。

「バカな!? そんなのありか!? イカサマだ!?」

 天狗はクレームを言う。

「私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 可愛い子ぶるエヘ幽霊。

「クソッ! こうなったら妖力を上げてやる! 必殺! 風火力! ビュンビュン! ボウボウ!」

 天狗は妖力を上げておみっちゃんを攻撃する。

「なんだか怖いのでステルス!」

 おみっちゃんは幽霊のスキルのステルスで透明になり姿を消した。

「どこに行った!? おみっちゃん!?」

 天狗にはおみっちゃんの姿が見えないので攻撃を当てる術がない。

「おみっちゃん。風と火で茶店とお客さんが吹き飛ばされて燃えちゃうから、降参しておきな。」

 女将さんがおみっちゃんに茶店とお客さんの安全が第一だと降参を命令する。

「参りました。私の負けです。」

 姿を現しておみっちゃんは天狗に降参する。

「やったー! おみっちゃんに勝ったぞ! これでお茶とお団子は私のものだ! わ~い!」

 大喜びの天狗。

「あの~お願いがあるのですが、私の夢はお江戸で歌姫になることなんですが、最後に歌を歌わせてもらっても良いでしょうか?」

 謙虚にお願いするおみっちゃん。

「まあ、いいだろう。歌ぐらい歌わせてやろう。ワッハッハー!」

 勝利して上機嫌な天狗。

「ありがとうございます。それじゃあ、思いっきり歌わせてもらいますね。エヘッ!」

 歌が大好きなエヘ幽霊。

「耳栓用意!」

 女将さんは耳に耳栓をして衝撃に備える。

「1番! おみっちゃんが歌います! 曲は幽霊ですが? 何か? 聞いてください! どうぞ!」

 おみっちゃんが歌い始めた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「ギャアアアアアアー!? なんだ!? この歌声は!? 頭が砕けそうだ!?」

 天狗はおみっちゃんの歌声に耐えられないで苦しんでいる。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更に気持ちよく歌を歌い続けるおみっちゃん。

「こうなったら私の風&火でおみっちゃんの歌を葬り去ってやる! おみっちゃんの夢を消し去ってやる! 必殺! 竜巻火炎!」

 天狗はおみっちゃんの歌声に風と火をぶつける。

「そんな!? 私の歌声が!?」

 おみっちゃんの歌声が風に吹き飛ばされ、火に燃やされていく。

「見たか! 私の風と火の威力を! どれだけ歌おうとも全て吹き飛ばして燃やしてやる! おまえの夢は叶わない! 歌姫になるのは諦めろ! この音痴!」

 音痴。それはおみっちゃんには言ってはいけないワードである。

(音痴・・・・・・・音痴・・・・・・音痴・・・・・・私は歌姫になりたいのに実は音痴・・・・・・。)

 おみっちゃんの中で何かが弾ける。夢と現実の狭間で何かが覚醒する。

「音痴の何が悪い!・・・・・・私は夢を諦めない! 夢は見る物じゃない! 夢は叶えるものなんだ! 私は絶対に歌姫になるんだー!!!」

 おみっちゃんは気合をいれてフルスロットルで歌を歌う。

「おみっちゃんの夢が強大に膨らんでいく!? どこにそんな力があるというのだ!?」

 思わず天狗もたじろぐ。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 もう誰にもおみっちゃんの歌は止められない。

「ギャアアアアアアー! 私の風と火をもってしてもおみっちゃんの歌を消しきれない!?」

 気圧される天狗。

「私の夢は誰にも奪われない! 夢を見るのは自由だ! 夢は努力で手に入れるものだ! 私の心が諦めない限り、私の夢は終わらない!」

 おみっちゃんは絶対に歌姫になりたいという強い気持ちが自分を強くしてくれている。

「参りました! 私の負けです! 何でも言うとおりにしますから、どうか命ばかりはお助け下さい! ギャアアアアアアー!」

 天狗は無条件降伏した。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 歌を歌い終えてご満悦なエヘ幽霊。

「それではテンテン。」

 おみっちゃんは天狗のことをテンテンと名付ける。

「テンテン!? なんかパンダみたいな名前だな。」

 天狗はテンテンと呼ばれることになった。

「テンテン。早速お皿洗いから始めてもらうわよ。」

 おみっちゃんはガッキーに皿洗いを命じる。

「ええー!? どうして私が皿洗いをしなくてはいけないの!?」

 抵抗するテンテン。

「何でもするって約束したでしょ。何ならもう一曲歌おうか? エヘッ!」

 女将さん仕込みでテンテンを脅すエヘ幽霊。

「それだけはご勘弁を! お皿でも何でも洗いますから! 歌だけは歌わないで下さい!」

 それほどおみっちゃんの歌は恐ろしいのだ。

「やったー! お皿洗いを卒業だ! ガハッ!」

 皿洗いから抜け出せてうれしいガッキー。

「何を喜んでいるのガッキー。お皿洗いの次はお湯呑荒いよ。」

 茶店のアルバイトは奥が深い。

「そんな!? とほほほ・・・・・・。」

 落ち込むガッキー。

「何ならもう一曲歌おうか?」

 おみっちゃんは文句を言うガッキーに尋ねてみた。

「やります! わ~い! お湯呑み洗いは楽しいな。ガハッ!」

 それほどおみっちゃんの音痴な歌を聞きたくないガッキー。

「これにて一件落着! エヘッ!」

 勝ち誇るおみっちゃん。

「終わったんなら働きな。お茶とお団子をお客様に持っていきな。」

 仕事には厳しい女将さん。

「は~い! 喜んで!」

 おみっちゃんの夢はいつ叶うのか。

 つづく。

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