弐
1
「あんちゃんあんちゃん、さっきはすまんかったのぅ」
パフォーマンスに使った小道具を手早く片していると、先ほど場を収めてくれた男性がこちらにやって来て、彼女の代わりにか頭を下げてきた。
まさか改めて謝罪されるなんて思ってもいなかったので反応が遅れてしまったが、何の事か理解すると膝を折ったまま男性の方に向き直り、軽く手を振った。
「ああ、いえいえ。僕は取り立てて気にしていないので、そう謝らないで下さい」
彼女の言い分は本当の事でしたし、とは心中でのみ付け足しておいた。今はその話を蒸し返す必要は無いだろう。
「代わりと言っては何ですけど……彼女のこと、少しでもいいので教えてくれませんか?」
折角なので前もって確認乃至、情報収集が出来るのであればしておこうと思い、そう男に持ち掛ける。見上げる視線の先で男は僅かに言い淀むも、たどたどしく話し始めるのだった。
彼女は芦屋道香ということ。彼女が生まれ育った芦屋家というのは、有名な陰陽師を先祖に持つ由緒正しき家柄なのだということ。それに加えて、もう一つ。
「道香ちゃんはなぁ……えらく真面目な嬢ちゃんなんに、芦屋んとこの子にしちゃ、努力がちぃと報われとらんっちゅーか……」
恐らく、男の言い淀んだ理由の全てはそこにあるのだろう。男の話す内容の大まかを理解すると、聞きながらにしまい終えた荷物を担いで腰を上げる。
「いやぁ、ありがとうございました。話を聞けて、良かったです」
「こっちこそ、ええもん見せてもろたわ。きばりやね」
早々に立ち去ろうとするこちらに突きつけられた心付けを素直に受け取ると、簡単な挨拶を残してそそくさとその場を後にした。
『──んで? 彼女は今どこら辺に居る?』
さっさと追いたかったのに、余計とまでは言わないが変に足止めを食らってしまった。早足に歩きながら意識だけをそちらに傾ける。どこを見ても同じような景色ばかりの田舎道で、探し出せるかどうか不安だったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。比較的、位置の絞りやすい場所に向かってくれたようで、助かった。
『分かった、そのまま見ておいてね。それと、さっきの事なんだけど』
一つ、どうしても文句を言いたかったのだ。どうやら向こうも何を言われるのか分かっているらしく、分かりやすく視線が泳ぐ。
「どうせ誰にも見えないのに、恥ずかしがって隠れたりするんじゃないよ! 絶対に誤解されただろ?!」
大きな大きな一人言は、川のせせらぎに紛れてそのまま一緒に流されていった。
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