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「私は、お前みたいなイカサマ野郎と話すことなんて一つも無いがな」


 歯に衣着せずに言うと男は「ふーん」と呟き、何かを考えているのか少しの間口をつぐんだ。

 一体何を考えているのか。今一度口を開くのよりも僅かに早く、男がその口を開いた。


「じゃあさ、イカサマだけじゃなかったってこと、今ここで証明してみせるよ」


 言いながら男は担いでいた荷物を一度下ろすと、その中から紙コップを一つ取り出した。訝しむようなこちらの視線も意に介さず、悠々と水を汲んで戻るとそのコップをこちらへと手渡し、唇に人差し指を当てるとウインクをした。

 その指でコップのふちをぐるりと一周なぞると、何かを念じるようにゆっくりと瞬きをする。すると、手渡されたコップの中に入っていた水は徐々にそのかさを増していき、最後には溢れて手を濡らした。

 ──何も知らなければ、きっとこれは不思議で素敵な魔法のように見えたに違いない。だけど私にとってこれは“不思議なこと”でも何でもなかった。


「……よく制御されているじゃないか」


 瞬きに合わせて、この男から力が溢れ出すのを感じた。恐らく何か能力を働かせたのだろう。

 こうして見せられる前から解ってはいたのだ。ああして式神と上手く連携が取れているという事だけでも、十分に見世物たり得る術であるということなど。私もただ何も考えないままに苛々を募らせていた訳ではない。

 考えれば考えるほどに気付かされて、悔しかったし、何より虚しかった。恐らく観衆の皆はそれを理解していたから、私ではなく彼の方を向いたのだ。

 こうしてまざまざと見せつけられると、やっぱりきついな。自分には得られなかった術を見世物として、こうも容易く扱う人が居るというのは、一番見たくなかった現実だ。

 延々思い詰めていると男は黙ったままそっとコップを持つ手に触れ、優しく包むように重ねてくる。そうされて初めて、自分の手が固く強張っていたことに気が付いた。


「出来るよ、君にも」


 男はこちらと視線を合わせたまま身を屈め、顔を覗き込むと優しく言い聞かせるように、だがはっきりとこちらに訴えかけてくる。


「何、無責任なこと──」

「例え同じことは出来なくても、君には君の力の表し方がある筈なんだ」


 彼の言葉は不思議とすんなり胸の奥まで入り込み、じんわりと染みわたっていくのを感じた。

 これも何かの能力なのだろうか? 奥まで見透かすような男の目から、不思議と目が反らせなかった。


「まだそれが上手く掴めていないだけなんだよ、きっと」

「……」


 そんな事、耳にたこが出来るかと思うほど散々聞かされてきた。でもそれは有能の親族からであって、外部の人から言ってもらえたのは、これが初めてだった。

 重ね合わされた手が、顔が熱い。根も葉もない言葉の筈なのに、こんなに浮足立っているのはどうしてだろう。そうか、やっぱりこれは魔法なんだ。でなければ、こんな言葉一つくらいで、こんなに世界が輝いて見える筈が無い。


「付き合うよ、練習。ここに滞在している間で良ければだけど」

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