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 その声の主は、探すまでもなく簡単に見つかった。人垣から数歩離れた場所から、見慣れない男がその中心を静かに見下ろす姿がそこにあった。


「シャッフルしてもらったカードの中から、先ほど選んでもらったカードを言い当ててみせます」


 問い質そうと近寄るこちらに気が付いたか、男は観察するようにこちらをじっと見返し、遅れて驚いたように目を見開く。どうやら、こちらには男の姿が見えていないと過信しきっていたようだった。


「この子が選んだカードは……この、ハートの10です」


 これではっきりと分かった。これは透視でもなんでもない。


「最低だな、こんなのイカサマじゃないか!」


 巻き起こる拍手をも遮るように声を張ると、途端にぴたりと拍手が止み、その場がしんと凍り付く。皆が一斉にこちらを振り返るが、誰一人として隣の男を見る者はいなかった。恨めしく思い見上げた男は、気まずそうに表情を引きつらせると、助けを求めるように彼を見遣った。


「どうしてそう思うの?」


 慌てもせず、怒りもせず、首を傾げると静かに彼は問いを投げた。その表情は一貫して微笑を湛えたままだ。

 観衆が二人を避けるように道を開ける。そうして遮るものが無くなって初めて、彼の視線を真っ向から受けた。まるで作り物のようなその目はただただ美しいばかりで、一つの感情も訴えかけてはこなかった。

 インチキを暴かれた怒りをひた隠している様子は特に無いことに少し驚いたが、一歩踏み出すと力強く彼を見返した。


「お前はカードを言い当てたんじゃない、選ばれたカードを教えてもらっただけじゃないか!」

「……誰に?」


 おかしそうに小さく笑いながら聞く彼の態度が妙に気に障る。不正を指摘すればパフォーマンスは台無しになる筈なのに、この男はどうしてこうも平然としていられるのだろう?

 ともかく、聞かれた事には素直に答えてやろうと後ろに居るはずの男の方を振り向くが、既にその姿は跡形も無く居なくなっていた。そうして白を切るつもりなのだろう。姑息な手段を使う彼に、段々と腹が立ってきた。


「さっきまでここに居た男だ! お前の式神なんだろう?!」

「道香! おまん、大概にしぃ!」


 観衆の中にどうやら知り合いが居たらしく、制止の言葉が飛んでくる。見ると観衆がこちらに向ける視線は、そのどれもが彼の味方をしているようだった。

 悔しくて悔しくて、目の奥がつんと熱くなった。誰も話を聞いてくれなかったから、なんていう稚拙なものじゃない。皆が分からないからといって堂々と不正をしていたことも確かに許せなかったが、誰しもが使えるとは限らない神秘的な力を、こんな事に使っているのが、どうしても許せなかったのだ。


「もういい、勝手にしろ……!」


 ぶつける場の無い憤りや悔しさを、観衆を隔てた先に今も居るだろう彼に吐きつけるように言い残し、踵を返すと大股に歩き出す。外でまでこんな思いをするだなんて、今日はとんでもない厄日だ。

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