どこまでも獣人

私は狼の姿のまま地面に伏せた。人型になれは素っ裸だ…相手もだが…

「負けたんだ。肌ぐらいみせろって言ってるんだよ。交尾されてえのか」

なるほど、オスとしてメスの姿を品定めさせろと言われてるのか。私は人型になった。両腕で肝心な場所は隠す。


「恥じらいがあるか。経験はないな。つきあえ、拒否権はやんないぞ」

「一応、直系なんだけど…」

「喧嘩で負けてるんだ。そんなの意味なさねぇ。襲ってもいいって言ってるんだ」


そう、それが獣人の世界だ。負ければそのまま押さえ込み交尾されても文句は言えない。人に戻りつきあえといってるだけ猶予は与えられてる方だ。気を失った風鈴が目を覚まし私に近寄ってくる。幸い今までの会話は聞かれてないはずだ。


「風鈴、お兄ちゃんと帰りなさい。もう私たちの事をひきあいに出しちゃだめよ」

「はーい」

「明日の三時半、公園のモニュメントにろ。さっそく味見だ」

「わかったわよ。でも時間は四時」


私は成り行き上、彼氏が出来てこれからデートなのを友達につげ冷やかされながらもいそいで公園に走る。

「なんだよ走ってきたわりには制服も着替えてないのかよ」

「高校生はそんなにひまじゃないの。これでも急いできたんだから」

「そうみたいだな港付属ってと高校でもきょりあるもんなぁ。歩きか」


「貴方は自転車乗れるの?」

「いや四足歩行にそれ望むなよ」

「なら、聞かないで」


「こっち来いよ」

ぐいっとひっぱられると腰に手が回される。私は真っ赤になり抵抗するが動かない。

獣人の女の武器は速さだ。力では敵わない。

「恥ずかしい…離してよ。せめて手を握るくらいで…」


顔が近づいてくる。身構える私。口付けでもしようものなら引っ掻いてやる。

「自己紹介まだだったな兼蕩児猛(けんとうじたける)お前の男になる奴だ」

そういうと長い舌で耳を舐めあげた。


「ひゃん!なにするのよ馬鹿」

今の悲鳴だけで数人に振り向かれるが腰をだかれてるのである恋人達のただの戯れとしか見てもらえないだろう。


「結構、遊んでるって噂だったが男に免疫ないな。おもしれぇ、おもちゃ。感度も抜群だ。蟻賀田狼刃(ありかたろうは)。いい女だ」

「私はおもちゃじゃない。好きでもないのにつきあわされるんだから遠慮もしてよ」

泣きそうな声で言った。まじまじと猛は私を見て言う。出口近くの芝生に腰を降ろされ聞いてくる。


「じゃあ、お前はどんな男が好きなんだ?好きってなんだ?俺はお前を倒したときの征服感を忘れねぇ。マジ犯したくなった。男が女を求めてなにが悪い。好きってのは子孫残すのに役に立つのか?」


「好きになったひとがいるわけじゃないから、解らない。でも猛のやり方は横暴よ。

心がついていけない。どうしてそんなにオスなの。もう少し人間見習って紳士で居てよ。私は猛のよさがわからない」


「強いってだけじゃ駄目か?」

「オスならメスを組み敷くことなんて簡単でしょう。だからオスどうしで取り合う。だけどそこにはメスの意志は組み込まれてない。どこまでも獣的で人に混じって生きている意味を理解できてない」


「生き残るためだろう」

「それだけなの?獣人とはけもののひとと書くのよ?私達の人の部分はどこにあるの?猛はそれを理解しようとしてない」


猛は顔をぽりぽりとかきながら

「人の部分かぁ、女の意思かぁ、強さだけじゃ駄目なのか?面倒な奴だなぁ」

「普通でしょ。猛こそ女の人と付き合ったことないの?」


「五人付き合ってる。うち三人は孕ましたにもかかわらず降ろされてふられてるな。

産めばいいのに俺の子がそんなに嫌なのかね」

私は頭を抱えた。獣人では、けっしてめずらしくないがそこまで経験すれば普通改善してくる。この男学習能力0だ…


「例えばよ。私は高校二年生よ。大学にもいきたい。なら六年間は男の人なんて知らなくていいと思ってる。なのに貴方はもう私を抱くことしか考えてない。しかも避妊する気はないときてる。この次点で意見の相違で別れるに値するわ」


「だけど戒律104、喧嘩に負けし女人男に従うこと。戒律違反はおんなの法だぜ」

「そこでどうして女の子を戒律違反させるまでに追い詰めるわけ?」

「戒律違反させる?追い詰める?」


「だから抱いていい?の一言が言えないか?避妊ができないか、せめて今日は抱いても大丈夫そうな日か聞いてくれるだけで違ってくる。私が六年禁欲しろと言ったらわかったって言えないのかってこと。もっと平たく言えばこれからどこへ行く気だったの?いきなりラブホなんて答えた日には殺す気で向うわよ今度は」


「返り討ちにしちまうよ。昨日で強さは読みきった。六年も禁欲しろはそっちの我侭だろ。他に女作っちまうぜ。連れてこーとしたのはラーメン屋だよ」

「承諾なしに?私がパスタ食べたいと思ってたら?」


「パスタ食べたいのか?」

「そうじゃなくて食事はラーメンでいい?と一言くらい建前でも聞けってんの」

「面倒な女だな」


「言っとくけど私が面倒なんじゃなくて女が面倒な生き物なんだからね。それを理解してないからふられるのよ。子供が欲しいなら子作りしたいんだけどとあらかじめことわりなさいよ。強引だから降ろされてふられるのよ。避妊くらいしなさい。私達の体が人間の体とちがってピルを受け付けないのは知ってるでしょう?」


「めんどすぎ女別に作ってそいつとやるわ」

「どうぞ。さようなら。私の言う意味が理解できないのなら一生ふられるわよ」

「お前を手放すといつ言った」

「直系相手に二股かけて無事ですむと思わないでよ」

「そーいや、お前直系だもんな」

「そーよ。子供できたら降ろせないんだから。学校辞めて育てるしかないのよ。だから六年は経験しなくていいって言ってるの。同時に貴方がリーダーになる。人選をあやまった統括者ほど惨めなものはないんだからね」


「リーダーになる資質ならあるつもりだ」

「ただの狼ならね。人としての資質がかけてる」

「うるせぇ女だなぁ」

「なら別れてよ」

「いやだ、俺はお前の強さに感激したんだメスでこんなに強い奴はいねぇ」


「それだってあんたみたいのに捕まるためじゃないわ。好きな人と一緒になりたいから全て背負えるように強くなったのよ。生きられるなら人として生きたい」

私は睨みつけた。人間でいられなくなった日、せめて隣に居てくれる人は強さじゃなく、賢さじゃなく、愛情だけで選べるように私はがんばってきたんだ。


猛が私を包み込む。多分昨日から始めての優しさで

「狼の気質の強い俺にはわかんないけど、狼刃は人間の気質が強いんだな。それが直系に生まれて…随分と無理して生きてきたんだな。女のくせに頑張りすぎだ」



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