獣人の世界

「ねえねえ、狼刃。今夜あたり、また繰り出さない?」

「いいなー。行きたいけど今、人の子を預かっててね、いわゆるDVってやつかな。それで保護したんで里親見つかるまでその子を面倒見なきゃなんだ。ごめんね」


「狼刃も大変だぁ。がんばんなよーおねーちゃん。妹か弟欲しい言ってたじゃん」

「末っ子だからね。居ればいたで面倒かな。遊べないもん」

「ぜいたくもん。けり付いたらまた一緒にあそぼーっ」


家に帰って戒律のことを風鈴に話す。その話は細部の話しになってきていた。


「戒律12、人前で獣人語をつかうべからず。風鈴の行為はこれに接触したの」

「わかってる104条丸暗記してる…」

「なら、なんだって…あんな人の多い公園で…遠吠えなんかしたの」


「ばーちゃんがね。昔はもっとおおらかだったって戒律なんてなくても人は獣人を認め獣人は人のために尽くしたって」


「…ひとが人として驕る前はね。獣人も異種族として認められてた時代もある。それは縮小していったけど第二次世界大戦前まではかくまってくれる村もあった。だけど戦争の道具として捕え研究をはじめられはじめてからは駄目


獣人はけもの、獣人は化け物、獣人はそんざいすべきものじゃないとされるようになった。ほかでもなく国があげて言った言葉だからね。今じゃそれも歴史の闇の中で私達はもともと存在しないものとされている。存在しないのならしなくていい。


私達は言葉を捨て、力を捨て、ただひっそりとひとにまぎれて生きる道を選んだ。でも生まれ持った能力は変わらないし、生まれてくる子は狼の姿をしているわ。完全に混じることはできないの。だから戒律がある。


あなたの、親、父親は人間だった。最近増えてきてるけど、それでも人を受け入れるのはとてもおお事なのよ。だから、できるなら庇ってほしかった。人間として人間の良心をみせてほしかった。だけど彼は獣人に選ばれたものとして驕ったわ。


人間の悪い所よ。だから同種争いも耐えない。もっとも獣人も力の世界。何かあれば争って決める。強いものがリーダーとなり、獣人の先頭に立ち他のものは従うわ。例外は治癒能力者。蘇生こそできないものの傷を癒す力は神秘とされ最高権力、統括者の地位につく。リーダーの上ね。だから思うよりおおきな争いは起きないの。


統括者はメスだからね。喧嘩ははしない。協力して狩りをすることはあってもね」

風鈴がとても不思議な顔をする。

「どうして?そんなに詳しいの」


私は苦笑して言った。

「ここがその統括者の直系だからよ。ママが統括者、私は継承者」

「じゃあ、ばーちゃんより偉いんだぁ。凄いや。風鈴は幸せものだ」


「どうして?」

「凄い人ばかりに助けられてる」

「確かにね。ママの人選に間違いはないと思うけど、何か問題があればすぐに相談に来るのよ?」

「うん。ありがとう」


風鈴は一週間ほどで里親の元にもらわれて行った。


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