保護

縁というものは憑き物かもしれない。少女とであったのはそれから三日後だった。両親に古い知り合いが死んだから葬儀に参列するとのことだった。嗅覚が死んだ者を仲間だと判断する。獣臭だ。その孫娘として少女はいた。


少女はどう見ても人間だった。私達の五感がそうそう間違えるはずもない。人間に先祖返るなんて逆パターンもあるのだろうか?他の家族を見てみる娘は狼、旦那は人間、孫息子はハーフ、孫娘が人間、ハーフならハーフの気配がする。


血に混じった獣の遺伝子は人間と狼と完全に分けたりしない。優性遺伝子だからなのか遺伝子の仕組み自体が違うのかはわからないが。

「パパ、なんであの子だけ人間なの?」


「人様の家のことは詮索するものじゃないよ」

「でも、あの子、遠吠えしてた公園で、言葉にはなってなかったけど意味は通じた。おばあちゃんが死ぬのを感じ取って鳴いてたんだ」


「それは本当かね?…まずいなぁ。ちょっと待ってなさい」

パパが少女の両親と喋っている。パパに頭を下げたまでは良かった。そのまま無理やりどこかに引きずられていく。私は後をつけた。


父親に引っ叩かれて、母親に蹴られる。人の見えないところでいきなりである。

「人の居るところで鳴きまねするなと言ったろうが、お前は人間なんだ鳴き声なんてあげるもんじゃない」

「だってばーちゃんが死んでく。ばーちゃんが教えてくれた」


また二人で蹴りからかす。父親は男だし、母親は獣人だ。その威力は内臓を破裂させかねない。とんで前に出て唸り声を私は上げた。威嚇である。母親が獣人語で私に話しかける。


『何故、邪魔をするの、貴方には関係ないでしょう。身内のことよ』

『この子10歳は超えてる口で叱れば解るはず。告げ口した身としてはほっとけない』

『交通事故で知能をやられてるわ。言ってもわからない。体で覚えさせる』

『貴方達本気で蹴ってた。わかる前に死んじゃう。それでも親』


「そのこは人間だ。私が人間だとしても人間は生まれない。拾い子だよ」

「なら、何故拾った子に死ぬような真似させるのよ」


『拾ったのは母よ。私が車で事故を起こしてその子の両親を殺したわ。その責任をとると言って母が引き取ったの。私には思い出したくない事故、でもこの子がいる限り忘れることもできないの。食わせてるだけでもましなのよ。死んだって…』


『知能が遅れてるただの人間の子が戒律破ったからそれを理由に殺すの?言ってわからないなら殴られてる意味も解らないでしょう』


「私、解る。でもばーちゃん愛してくれた。吼えずにはいられなかった」

「獣人語がわかるの?」

「喋れないけどばーちゃんが教えてくれた」


「なにが知能が遅れてるよ!普通より頭がいいくらいじゃない」

『獣人の知能に比べたら人間なんて…』

『なら、なんで人間と結婚してハーフまで作ってるのよ』

『………』


私は女の子に振り返った。

「名前、何?」

「風鈴」

「私は狼刃、男の子みたいな名前でしょう。親が女の子の名前考えてなかったの」


「いらない子なのでしょう?連れてくわよ。文句は言わせない」

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