遠吠えの聞こえる日

御等野亜紀

女の子

いろんな趣で人が集まる夜の港沿いの公園。私も例にもれず学校の友人と夜更かしの遊びに興じる為にここで待ち合わせをしていた。


その中で突然近くで遠吠えを聞いて、思わずその方向を向く。


細い鉄の敷居に器用に座り、その少女は遠吠えを上げていた。上手かった。ただの鳴きまねならたいして人は気にもしなかったろう。だけど側に狼か野犬かが突然出現したのかと思えるほど、その声は近かった。


しかし、私が振り向いたのは、その他大勢の本物の遠吠えと一瞬間違えてとは違う。

遠吠えは言葉である。無意味に叫んだからと言って、それが近いものだからといって決してマネが言葉になるわけではない。もちろん知っててマネるならそのうち言葉にもなろうが。


私は少女と同じように遠吠えをあげようと思えばあげれる者だった。それもマネでなく本当の意味で。だからこそ振り返る。こんな人ごみの中、遠吠えを上げようとは思わない。


普通と言ってはおかしいが、学校で教育を受け、友達を作り、長期休みにはバイトをし、いずれ人が就職して良かったねと言われる職につきたければ、私が何者であるかは隠しておいた方がいい。そうでなければ悪くて異常者、軽くて変人である。


さらに悪いことになれば化け物として殺させるか見世物か研究材料だ。


3度目、彼女が遠吠えを上げた時には既に人々は関心を示さなくなっていた。丁度、その頃に5分遅れで来た友達と変な女がいるねと話を交わしながら私は公園をでていった。


ただ、その遠吠えは意味はなくても何故か気持ち惹かれるものだった。あまりにも悲しくて。それはまるで死を間近に感じてる人間の鳴き声に何故か思えるような気がしていた。そのせいかその声と共に小さな痩せすぎの少女が月に映えて鳴くその光景は瞼に焼き付いていた。


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