筏の底

音澤 煙管

寝顔が話す我が半生……



「 ぼくの半生というか生き様は、

転覆した筏にしがみ付居ていた

様なもんさ。


親から生まれたわけだけど、

気がついたら筏に乗っていて

もう母親は居なかった。


例えるなら、

人の年月の経過では

数年間はその筏の上だった。


飲まず食わずの時が多くてね、

どうして生きていくかさえも

わからなかったんだ。


嵐になり大きな波に攫われて、

転覆した筏の底に居たんだ。


嵐も風も止んで空に光が射した時、

ココの家の人と出会ったんだ。


長い長い船旅だったなぁ……


でも、

今こうして呑気に、

どちらかと言えば幸せに、

何も不自由なく暮らしてるのは、

今の飼い主のお陰だったな。


ありがとうー

命の恩人さん…… 」





あれは10年前の事、

海岸沿いの職場近くの松林で、

汚れた仔猫を保護した。

あれからだいぶ大きく育ってくれた、

今じゃ寝顔が笑い顔に見えて、

ぼくには聞こえない猫語で、

こんな風に言っているのかなぁ?

と思うと滑稽な気持ちで堪らなくなった。


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筏の底 音澤 煙管 @vrymtl

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