練乳好きの彼女を落とす最善の方法は、苺に練乳かけるより、私にかけることでした。

はんぺんた

練乳好きの彼女を落とす最善の方法は、苺に練乳かけるより、私にかけることでした。

 

 ツイてない日というのは、とことんツイてないことばかり起こるものだ。

 だけど今日は最後に良い事があった。その良い事をもたらしてくれたのは、初めて入った定食屋の店主さんだった。

 古めかしくどこか懐かしさを感じさせる店の外観。そこからは想像もつかないくらい、その人は凛として美しかった。

 彼女にしたら、大した事ではないかもしれないけど。

 私にとっては心を救われた、忘れられない出来事なのだ。

 それは黒く荒んだ心に、白く甘く沁み入っていく。


 まるであの練乳みたいに。



 仕事でミスが重なり上司からの叱責、更にやり直しの為の残業で、タイムカードを押したのは21時を回っていた。

 SNSの通知には、最近合コンで知り合った男性からのメッセージがいくつも届いていた。

 今週末会おうとか連絡ほしいとかの催促は、今の私の精神状態に更に追い討ちをかけてくるものだ。

 既読スルーして、スマホを鞄にしまい込む。疲れてクタクタの頭と身体を早く休めたかった。寝たい、だけどお腹はグウグウ鳴っている。

 人の三大欲求の二つを同時に求めているなんて、私は欲求不満の塊だろうか。最近、一人暮らしを始めた私は外食やお弁当ばかりの日々を過ごしている。実家にいた頃の母が作るご飯のありがたさにようやく気付いたばかりだった。疲れた身体で、コンビニ弁当を食べる気にはなれなかった。

 そんな時、ふと目の前に定食屋があるのに気付いた。引っ越してきてから、この場所にあるのは知っていたがなんとなく入り辛くて、いつも素通りしていた店だ。

 いずみ食堂と書かれた看板は文字がかすれて年季が入っている。飾られているメニューの食品サンプルを見ると、色褪せてあまり美味しそうには思えない。

 だけどそこにあった「豚汁定食」の文字に私のお腹はググ〜っと鳴って、これが食べたいと反応した。

 ガラガラと少し立て付けの悪い扉を開ける。そこは平成生まれの私にも、昭和を感じさせる雰囲気だった。

 カウンターにテーブル席が二つ。古くてこじんまりとしているが、清潔に保たれた店内は懐かしさを感じさせ心が落ち着いていく。


「いらっしゃい。どこでも好きな席にどうぞ」


 店内をキョロキョロ見渡していた私は、いきなり声を掛けられビクッとしてしまう。そうしてキッチンから出てきたその人の姿に私の目は釘付けになった。

 一言で説明すると美人。それも、今まで見たことがないくらいに。

 ショートカットの髪がよく似合う凛とした顔立ち。それでいて、大人の女性の色気を感じさせる瞳と口元。長身のスラリとしたスタイルの良さは、シンプルなエプロン姿でもモデルのような格好良さを感じさせた。

 ドギマギしながらも、他に客がいないのでカウンター席に座ることにした。


「はい、お水どうぞ。ご注文決まったら呼んで下さいね」


 軽く微笑まれただけなのに、私はフワフワと浮いたような心地になる。


「あ、あの! 豚汁定食を」


 そこまで言ったとき、私のお腹はグググウ〜ッ! と信じられないような大きい音で鳴ってしまう。

 驚いたような顔の店主さんと目が合う。恥ずかしさでいっぱいになった私は、顔から火が出そうなくらい赤くなり固まってしまう。


「はい、豚汁定食ですね。すぐ作るから、もうちょっとだけ待っててね」


 そう言うとそのままキッチンへ向かう彼女。後ろ姿がちょっと笑いを堪えてるように見えたのは気のせいだろうか。出された水を飲み、気持ちを落ち着かせる。

 キッチンで手際よく料理をする美しいその人をそっと眺める。気付かれないように見ていた筈なのに目が合ってしまった。


「お姉さん、あと少しでできるからね。あ、先にこれだけ食べてて!」


 そう言って、カウンター越しにきゅうりとかぶの漬物を出してくれた。よほどお腹が空いてると思われてるのだろう。いや、実際かなり空いているのでとてもありがたい。

 きゅうりの漬物をひとつ口に入れる。


 すごく美味しい……!


 空腹のせいだけではない、この良い塩梅で漬かったきゅうりの美味しいこと。とにかく美味しくてポリポリパクパクと次々に食べていく。


「はい! お待たせ!」


 漬物の小鉢が空になったと同時に、美人な店主さんが豚汁定食を私の前に置いてくれた。

 ホカホカご飯と豚汁から食欲をそそる湯気が漂う。副菜にはこれまた美味しそうな玉子焼きときんぴらごぼうがお皿に盛られている。

 手を合わせながら、いただきますと小声で言うと店主さんがどうぞ、と返して微笑んでくれた。


「あっ、漬物おかわりする?」


「……っ! いただきます!」


 フウフウしながら熱々の豚汁を飲むと、旨味が身体に染み渡るようだ。玉子焼きやきんぴらごぼう、漬物、と次々に勢いよく食べ尽くす。

 ご飯を口いっぱいに頬張っていると店主さんがニコニコとこちらを見ていることに気付いた。

 食べながら何かおかしな顔をしていたのだろうか。気になった私は勇気を出して店主さんに聞いてみる。


「……っ。あの? なにか……?」


 すると店主さんは、少し申し訳なさそうな顔をしながらも優しい瞳で私を見つめてくる。


「あっ、ごめんね。ジッと見ちゃって。お姉さんがとっても美味しそうに食べてくれるから嬉しくて」


「すごく美味しいです! こんなに美味しいなら、もっと早く来れば良かったです」


 お世辞などではなく、心からそう思う。その気持ちを伝えたいのに「美味しい」しか言えない自分の語彙力のなさに少し悲しくなる。


「ふふ、ありがとう」


 それでも、店主さんはとても嬉しそうに笑ってくれた。

 その笑顔にまた私は見惚れてしまうのだった。





「ねえ、お姉さんまだお腹に入る?」


 きれいに豚汁定食を食べ終えたところに、店主さんからまた声をかけられた。


「え? は、はい。まだ少しなら」


 また漬物だろうか? 美味しかったからお替りできるなら嬉しい。


「じゃあ、これデザートにどうぞ」


 そう言って差し出されたのは、練乳がかかった苺だった。


「お姉さんの食べっぷりが嬉しかったからサービス」


 ウインクしながらそんなことを言われたので、私はまたドギマギしてしまう。


「あ、ありがとうございます!」


 苺を一つ口に入れる。

 苺の甘酸っぱさと練乳の甘さが、とても美味しい。ここ何年も食べてなかった懐かしい味だ。


「久々に練乳をかけた苺を食べました。懐かしいし、やっぱり美味しいです」


「ふふ。私、練乳が大好きだから今でもよくかけて食べるの」


 とろけそうな笑顔。

 舐めたらきっと練乳みたいに甘いだろうな、とか不埒なことを考えてしまう。





「ありがとうございました。また来てくださいね」


 はい、とだけ答えて定食屋を出る。

 お釣りを受け取るときに少し触れた指先の感触にドキリとして、最後はまともに目を合わせられなかった。

 店を出ると、外の景色がさっきまでとは違って見えた。ほんの数十分前までは心が重く、黒く荒んでいたのに。

 お腹が満たされたせいか、疲れもどこかに行ってしまったようで驚くほど身体が軽い。

 あの店主さんの笑顔と優しい心遣いのおかげだろう。

 今日一日ツイてないと思っていたけど、すべては最後にくる幸せのためだったのかもしれない。

 また来よう、と心に決めて家路に着く。

 今日はもうスマホは見ない、とも心に決めて。





 あの日から一ヶ月。

 週に三、四回ほどいずみ食堂に通うようになった。

 私はすっかり常連さん認定され、初めは牧原さんと苗字で呼ばれていたが、香菜ちゃんと名前で呼ばれるまでそう時間はかからなかった。

 今ではすっかり店主さんとも親しく話をさせてもらえるようになった。

 店主さんの名前が和泉朝子さんということ。女手で一つで育ててくれたお母さんが亡くなって、家業の食堂を継いだこと。

 独身で、恋はしばらくしていない、ということを知るくらいには仲良くなれた。


「香菜ちゃん、今日も苺あるけど食べる?」


 今日も仕事帰りにいずみ食堂に寄っていた。他にお客さんがいないときだけ、出してくれる練乳がけの苺。

 なるべく二人きりになりたくて、私はいつも遅めの時間に立ち寄る。

 皆に内緒で食べるデザートが二人の秘事のように思えて、私の心を甘く満たすからだ。


「はい! 食べたいです!」


「ふふ、待っててね。えっと、練乳は……あっ」


「どうかしましたか?」


「あ〜、ごめんなさい。練乳切らしてたの忘れてた。今日は苺だけで我慢してね」


 申し訳なさそうな顔で苺の乗ったお皿を出してくれる。

 サービスしてくれているのだから、そんなに気を遣うこともないのに、と思いつつも朝子さんに気にかけて貰えることがとても嬉しいのだ。


「私、さっきちょうど練乳買ったので持ってます! これ使って下さい」


 そう言ってスーパーのレジ袋から練乳を取り出す。

 いずみ食堂に寄れない日でも、朝子さんと食べる練乳がけの苺を味わいたいと思い買ってきたのだ。


「えっ、でも……」


「いつもサービスしてもらってますし! これ、差し上げますから」


「頂けないって! 私が一緒に食べたいだけだし」


「それじゃ……一緒に使いましょう。置いておいて下さい」


「えっ、一緒に?」


「ボトルキープならぬ、練乳キープってやつです」


「……プッ! 練乳キープって……! アハハハ、香菜ちゃん面白すぎる!」


 朝子さんの笑いのツボに入ったのか、本当に面白そうに笑い、涙まで拭っている。


「そ、そうですか?」


「うん! 最高。ちょっと天然ボケ入ってるし、香菜ちゃんって可愛いし、モテるでしょ?」


「……そんな全然モテませんよ。誰かと付き合ったりしたこともないですし」


「そう? でもデートに誘われたりはするんじゃない?」


「実は明日……その。ずっと誘われてたから、一緒に出かけることになって」


 合コンで知り合った人と出かけなければならない事を思い出し、少し憂鬱な気分が蘇る。


「えっ⁉ そうなの? そっかー、じゃあ初デートだね。どこに行くの?」


「えっと、苺狩りに……」


「へー、それじゃ苺いっぱい取ってきて! そしたら、その苺また一緒に食べよう」


 とびきりの笑顔でそう言われた私は、ズキンと胸が痛くなった。

 なぜだろう。朝子さんの笑顔がこんなに辛く感じるのは。

 いつもなら、朝子さんの笑顔で元気を貰えるのに。こんなに素敵な人と仲良くなれて毎日楽しくなったのに。仲良くなればなるほど、胸が痛むのはなぜだろう。

 モヤモヤした気持ちを悟られないように、私は苺に思いきり練乳をかけた。

 この練乳の白さで、心を塗りつぶすように。


「香菜ちゃん、練乳かけすぎだよ。ほら、指についちゃってるよ」


「あ」


 指で摘んだ苺にかけてたはずが、気付いたら指自体に思いっきりかかっていた。

 苺を皿の上に置いて、ティッシュで拭き取ろうとカバンを漁るが、なかなか見つからない。


「あ、待って。もったいないから」


 朝子さんはそう言うと、自然な動作で私の手を取り、人差し指を口の中に入れた。


「……っ!」


 朝子さんの口内の熱さとぬるりとした柔らかさ。

 舌先で指にからんだ練乳を舐め取られる感触にゾクゾクする。

 私の指を口に含む朝子さんの表情は、なぜだかとても扇情的に見えた。

 仕上げとばかりに指に唇を這わせながらチュウチュウと吸われる。

 最後にチュッと小さく音を立て、私の指を解放する。

 指先が朝子さんの唾液で濡れて光っている。

 突然のことに私は全思考が停止したかのように固まってしまう。

 心臓のドキドキが止まらない。顔が火照って熱い。お腹の下のほうがくすぐったいような切ない気持ちが溢れそうだ。


「……美味しかった。ごちそうさま」


 ペロと舌先を少し出し、唇を舐める仕草に思わず目がいってしまう。

 あの舌で、唇で。

 この感情はなんだろう。

 考えがまとまらない間に朝子さんはキッチンからおしぼりを取ってきて、私の指先を拭いてくれた。

 拭かなくていいのに。

 なぜか私はそんなことを考えていた。





 翌朝は晴れて絶好のデート日和。

 だけど、心は靄がかかったように全く晴れない。

 待ち合わせ場所に行くと、嬉しそうに手を振る彼の姿があった。

 合コンで出会ってから、SNSでやり取りしたり電話したりして、良い人なんだろうなとは感じる。

 楽しませようとしてくれるし、顔だってイケメンだし、合コンの時だって男友達の中心で、本当に仲良さそうだったし、皆から好かれるタイプだろう。

 そんな人から好意を寄せられて悪い気はしない。

 でも、恋愛感情を持っているかと聞かれたら、今はまだないと答えるしかない。

 このまま付き合えば、そのうち好きになっていけるだろうか。


「牧原さん、ほら大きい苺あったよ。はい、あーん」


 彼が練乳をかけた苺を持って差し出してくる。


「えっ⁉」


 かなり困惑したが断ると雰囲気が悪くなりそうだと思い、おずおずと口を開ける。


「……あ、あーん」


 舌先に触れる練乳の甘さ。


 口いっぱいに広がる甘酸っぱさ。


 朝子さんと二人で食べた秘密の苺の味。


 味は一緒なのに。


 とろけるような彼女の笑顔がここにはない。


 今日一日、思い出すのは彼女のことばかり。


 私は、なんでこんなにも鈍いのか。


「どう? 美味しい?」


「ごめんなさい。私、もう会えません」


「え?」


 彼の笑顔が固まる。

 だけどもうこれ以上、一緒にいることは出来そうにない。


「他に好きな人がいるんです」


 彼女の笑顔がない場所で、練乳をかけた苺はもう食べたくない。

 だって練乳の甘さが毒のように回り、こんなにも胸が苦しくなるのだから。





 彼が車で送ると言ってくれたのを丁寧に断った。

 こんなに身勝手な私に対して最後まで優しかった。


 ありがとう、ごめんなさい。


 心の中で呟いてそっと連絡先を消去した。電車を降りると、人混みをかき分け走る。


 朝子さんに会いたい。


 走る。


 走る。


 どうしてこんな想いに気付かなかったんだろう。


 好きが溢れてようやく気付いた。


 土曜日の昼すぎのいずみ食堂。


 きっとまだお客さんでいっぱいだろう。


 だけど、もう伝えずにはいられない。


 呼吸を整え、店の扉に手をかける。


 …………。


 ……開かない。


 よくよく見ると、のれんも出ていなし、すりガラスからは電気の明かりも感じられない。定休日でもないのに、どうしたのだろうか。


 まさか急病?


 連絡先も知らない私は、店の前で立ち尽くすしかない。


 会いたかった。


 この気持ちが昂ぶった状態で朝子さんに会いたかった。

 そうでないと、気持ちを伝えられそうにないから。


「……香菜ちゃん?」


 振り返ると、朝子さんが困惑したような顔で立っていた。


「どうしたの? 今日、デートでしょ?」 


「はい。もう終わったから帰ってきました」


「え? 随分早いのね」


「はい。あの、朝子さんに聞いてほしくて」


 気のせいだろうか。朝子さんの表情が暗く感じる。

 お店も休みにするくらいの何か重大なことがあったのだろうか。


「そ、そうなの? あ、とりあえず店の中に入りましょうか」


 朝子さんは鍵を開け、食堂の中に入る。後に続いた私は定位置のカウンター席に腰を下ろす。


「今日、お店どうしたんですか?」


「……えっと、少し気分が優れなくて」


 いつもとは違う、ぎこちない微笑みに心配になる。


「え⁉ 大丈夫ですか? 風邪ですかね」


「ちょっと寝不足なだけだから。それより、聞いてほしい話ってなあに?」


「は、はい。あ、その前にコレ約束してた苺のお土産です」


「……ありがとう。でもいいわ。香菜ちゃん、持って帰って」


「え? どうして?」


「彼と二人で食べた方がいいわ。あと、ここにキープしてた練乳も持って帰って」


「な、なんでですか? 二人で使おうって言ったじゃないですか」


「何も聞かないで。お願いだから全部持って帰って」


「そんな……。朝子さん、なんか変ですよ。急にどうしたんですか?」


「……そうよ、変なのよ! 私っ!」


「朝子さん……?」


「あなたの指にかかった練乳を舐めてから……またしたいって気持ちが抑えられないの!」


「……えっ⁉」


「変でしょ? 今日だって、もしかしたら初デートで練乳かけた指を彼が舐めるかも、とか考えたら眠れなくて!おかしいわよね……」


「おかしくなんかないです!」


 私は練乳を自分の指にかけ、朝子さんの口元に持っていく。


「……あ」


 ゴクリと朝子さんの喉がなるのがわかった。


「舐めて下さい。私も、朝子さんに舐めてほしいです。だって……」


 朝子さんの唇に練乳をかけた指で触れ、優しくなぞる。

 彼女は恍惚とした表情で私を見つめると、そっと手を取り、口の中に甘く濡れた指を含む。


 舌が絡みついて指を舐める。


 ぬるりとした感触。


 赤ちゃんのように、私の指をチュウチュウと吸う彼女を見ていると、自分がハッキリと欲情していると感じる。


「朝子さん……。私も舐めてみたいです」


 私の指から唇を離すと、とろんとした瞳をしながらコクンと肯いた。


「……ここ、練乳ついてますよ」


 朝子さんの唇の端についた練乳。緊張と興奮で震える舌先でチロリと舐める。


 甘い。


 だけど、こんなんじゃ全然足りない。足りないから、今度は上唇から下唇まで丁寧に舐め回す。

 朝子さんがくすぐったそうに身体をくねらすのが、たまらなく可愛く感じる。だけど、唇を舌で舐め回すだけでも足りない。


「……んっ、香菜ちゃっ……んむっ! ちゅっ……」


 初めて唇を重ねる。


 貪るように。


 朝子さんの中の練乳をすべて奪うように舌を絡ませる。

 彼女の中の練乳はまるで媚薬のようだ。飲めば飲むほど、愛おしさが湧いてくるのだから。

 どのくらいそうしてキスをしていただろう。

 ようやく唇を離すと、朝子さんは泣きそうな顔をしていた。


「どうしました?」


「彼は? 付き合うことになった報告にきたんじゃないの?」


「ちがいますよ! ちゃんと断ってきました。私……朝子さんのことが好きなんです」


「……っ! で、でも……こんな変態みたいなことして嫌にならない?」


「だったら、私も変態です。だって、朝子さんに舐められるの嬉しいから」


「本当に……?」


「多分初めて会ったときからあなたが好きなんです」


「私も……。だから苺をサービスしたの」


「ふふ、まんまと罠に嵌りました」


 罠に嵌った獲物?


 ううん、きっと罠に嵌らなくても私はあなたに落ちたでしょう。


 胸元に流れ落ちる練乳の甘い香りに包まれて、私はそんなことを思うのだった。




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