第10話 ファン1号
20名しかいないはずの会場のボルテージは急騰し、熱風のような暑さが漂った。
今にもスプリンクラーが作動しそうな欲にまみれた歓声が沸き上がる。
純美の発言に男たちの頭は理性が飛んでいた。
OπTAIの衣装はローライズの小さなデニムショーパンにレザー調に光沢したツイスト・バンドゥ・ビキニは豊満で今にも飛び出しそうな山々を押さえつけていた。その大きく実った果実を彼女たちの体格には不釣り合いな法被は山々の間を一つのボタンで留めていた。
つまり、脱がすためにはそのボタンに手を掛けなければいけない。
予測であるが、ボタンを外せばその豊満な山脈は至近距離で飛び出すだろう。
男たちは罪悪感と理性のはざまに引き釣り込まれていた。
「まずは、私、純美からです。お手数ですが脱がせていただける方はいませんか?」
少女の夢のようなおねだりに男たちは一瞬躊躇する。
そんな中、ひとりの勇者が手を挙げた。
ニキビ面に顔と共に太った男は鼻息を荒げていた。
勇者と呼ぶには相応しくないが、観客たちはいの一番に手を挙げた男に尊敬の眼差しと拍手を送る。
「ありがとうございます!それではこちらまでお願いします!」
礼儀正しくお礼をし、純美は勇者である男を丁寧に対応しステージに上がってもらった。
純美がその勇者の目の前に立つと、勇者は頭が真っ白になるような緊張感を感じた。
端正な顔立ちに、華奢で細い手足は胸元に着いた大きなスイカには不釣り合いな程、現実味を帯びていなかった。
目の前にいる女性はほんとに3次元の同じ人という生き物かと思えるほど、純美と勇者は対照的な外見であった。
「失礼かもしれませんがお名前を伺ってもよろしいですか?」純美が尋ねる。
「山田健之助といいます。35歳です」男は自身について返答する。
純美とは一回りも上の男に純美はもう一度感謝示し、胸元を差し出す。
「健之助様ですね?本日はお越しいただいた上に私を脱がしていたくことになり大変嬉しいです。私の御着替えを始めてしてくれた男性として覚えさせていただきます」純美の口上に健之助は今にも倒れそうなほど酸欠を起こしていた。
こんなにも綺麗な顔立ち、華奢な体、大きな胸を持った少女に『初めての男性』などと言われれば、30年間童貞な男にとっては思考回路がおかしくなってしまいそうになるのも当然であった。
「は、はい。僕も純美ちゃんを大事にします?!」まるで、結婚式の誓いの言葉のような発言に観客たちは少し引いたが自身もこうなれるのかと思うと希望の星だった。
「それでは、ボタンをはずして脱がせてください。これから、健之助様は私のファン第一号としていかなる時でも私も大事にしたいと思います。これからも応援してくれますか?」
守りたくような上目遣いをする純美に健之助は頷く。
「それでは」と純美が催促するかのようにその豊満な胸を近づけた。
震える手を制御しながら、中央のボタンに恐る恐る触れる。震えてしまった拍子に手が胸に触れてしまったらどうしようかとも考えたが、自然な純美の表情を見て落ち着きを取り戻す。中腰になり純美の方よりも自身の体を小さくする。ボタンを外す。
大きな法被は脱皮したかのように肩から滑り落ちた。踊った後もあって汗も染みついていたのだろう。覆われていた法被からは出てきた淫乱な絶景が健之助の目の先に現れた。あまりの近さに健之助の鼻息は純美の大きな果実に掛かり、「ぁあっ」と思わず吐息が漏れた。興奮する健之助に純美は先程脱げた法被を膝の上で丁寧に畳み差し出す。
「これは、健之助様が私のファン第一号である証です。受け取っていただけますか?」手渡された法被に震える手で受け取る。もう既に平常な判断を失っていた健之助は純美の前で脱ぎたての法被を顔にうずめ、大きく匂いを鼻に入れた。甘く、酸っぱい匂いに幸せそうな表情を浮かべる健之助は傍から見ると気味が悪かった。
「喜んでいただけて嬉しいです!」純美は人間としては最早グロテスクな健之助に感謝を述べた。
純美に続き、可憐、葵達も同じように法被を脱がされた。始めは躊躇していた観客たちであったが、純美と健之助の光景を見てもはや理性の歯止めが利かない状態であった。
脱がされたメンバーは1人目のファンになってくれた者たちにそれぞれ感謝の気持ちを伝えていた。
1人目のファンとなった者たちは少女たちから脱がした法被を大事そうに抱えて観客席に戻っていった。
アイドルのライブ公演が一瞬にしてピンクの蒸気を纏ったアメリカン・バーレスクのようであった。
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