第57話 見直したか?

「〈魔力開放〉……っ!!」


 右手の薬指に嵌めた指輪から魔力が全身に駆け巡る。熱く、荒々しく、そして包み込むような優しい魔力。全身の傷がみるみる塞がっていき、体が嘘みたいに軽くなる。


 全身が熱い。燃えるように滾っている……!


「へぇ、面白いな……」


 俺のほうを一瞥し、久次さんは感心した様子で呟いた。


 新野から送られてきたMPのおかげでHPは全快、ステータスも大幅に強化された。それでも久次さんには遠く及ばないレベルだが、少なくとも足手まといにはならないはずだ。


『比呂くん、負けてられないよ!』

「そうだね。僕らも本気を出そうか、リイル」

『うん! ……来て、比呂くん』


 福留さんが大きく両手を広げると、それに合わせるように久次さんは両手を広げ二人の姿が重なった。


 久次さんのぼさぼさだった黒髪が、長く艶やかな白髪に変わる。元々童顔だった顔だちもさらに幼く、中性的に変化した。まるで久次さんと福留さんの顔写真を合成したかのようだ。


「土ノ日くんっ! たぶんあいつ、頭と同時に尻尾も潰す必要があるんだと思うの! どっちか任せてもいいかな!? 今の君なら大丈夫だよね!?」


「は、はいっ!」


 久次さんの口から紡がれた中性的な声に思わず面食らってしまった。


 降霊術や口寄せの類だろうか。どうやら久次さんの体に福留さんが憑依しているようだ。二人分のステータス……なんて単純なものではないだろうが、久次さんたちの奥の手なのは間違いない。


「……なら、尻尾は任せてください!」

「オッケー! 頼んだよ、土ノ日くん……っ!」


 タイミングを合わせ、俺たちは同時に駆け出した。ステータスでは圧倒的に上な久次さんが、先制パンチでまずは首を一本消し飛ばす。ナーガラシャは痛みに悶えつつも、残りの六本の首で久次さんに追いすがった。


 尻尾は……動きが遅い! おそらく首を全て失った後に活発化するのだろう。


 久次さんは立て続けに二本目と三本目の首を潰す。さっきまでよりも更に速く、キレのある動きだ。ナーガラシャの回復はまったく追いつけていない。


「今だよ、土ノ日くん!」

「はぁあああああああああっ!」


 久次さんの合図で俺はナーガラシャの尻尾に飛び移り、刀を尻尾に突き刺した。


 皮膚を貫いた刀は尻尾の内部で固い何かに当たり、刀身にピシッとヒビが入る。ナーガとの戦闘を持ちこたえてくれた刀の寿命が尽きようとしているのだ。


 だが、内部に届いた。


「〈魔力付与〉――燃え上れっ!!」


 新野の魔力が刀身を赤く染め、炎が噴き上がった。魔力は刀を通じてナーガラシャの内部へと流れ込み、灼熱の業火が内部からナーガラシャを焼き始める。ナーガラシャは全身から炎を漏らしながら断末魔の悲鳴を上げて身悶えた。


「これでラストっ!!」


 最後に残った蛇の頭を、久次さんの拳が粉砕する。首をすべて失い、尻尾を燃え上がらせたナーガラシャの巨体は地面に倒れ伏した。


 回復は、しなさそうだな。


 炎がナーガラシャの全身を覆い、その巨体は灰となって消えていく。それと運命を共にするように、俺の手にあった刀の刀身もぼろぼろと崩れ落ちていった。


 ……今までありがとう。


「……ふぅ」


 久次さんが小さく息を吐くと、半透明の少女の姿が彼の体から抜け落ちた。すると久次さんの髪は元のぼさぼさの黒髪に戻り、顔立ちもやや童顔の男性のものになる。


『お疲れさま、比呂くんっ! 土ノ日くんもっ!』


 福留さんは元気にあたりを飛び回って、久次さんと俺に労いの言葉をかけてくれた。


「ありがとうございました。おかげで助かりました」


 俺が声をかけると、福留さんは俺の傍まで下りてきて頭を下げた。


『いえいえ、さっきはわたしのせいでごめんね? ケガ大丈夫?』

「はい、なんとか」


 装備は血だらけだけど〈魔力開放〉の効果で傷は塞がっている。久次さんが届けてくれた指輪のおかげで、新野からの魔力供給を得ることができた。この場を切り抜けられたのは間違いなく久次さんと福留さんのおかげだ。感謝してもしきれない。


「二人とも無事でよかったよ。君の彼女……えーっと、新野さんだっけ? 心配してたから」

「新野は別にそういうのじゃ……」


 ……まあ、わざわざ訂正することもないか。


 俺は改めて久次さんと福留さんに礼を言い、小春のもとへ駆け寄る。


「大丈夫だったか、小春?」

「う、うん。おにぃ、すごいね……」


 俺の戦闘を見ていたのだろう、小春はただただ感心した様子で俺を褒め称えた。


「見直したか?」

「うん、少しだけ」

「少しかよ」


 俺が溜息を吐くと小春はくすりと笑みを零した。


「ありがとう、おにぃ。かっこよかった」

「なんだよ急に。照れちゃうだろ」

「えへへ」


 あまりにも素直に褒めてくるので気恥ずかしくなって頭を掻くと、小春も恥じらうように微笑む。


 ……守れてよかった。昨日はまさかこんなことになるとは思っていなくて、連れて来てしまったことを後悔したけれど、この笑顔が見られてほんの少しだけ救われた気持ちになる。


『おーい、土ノ日くんっ! これっ! なんか凄いの出てきた!』


 ナーガラシャの死骸の傍で福留さんが大きく手を振って俺を呼んでいた。いったい何が出てきたのかわからないが、行ったほうがよさそうだ。


「向こうで何か見つかったみたいだ。行こう、小春」

「うんっ!」


 俺と小春は手を取り合って、久次さんと福留さんの元へと駆け寄った。


 その後も色々ありはしたのだが、兎にも角にも俺と小春は久次さんと福留さんの案内で無事に地上へと帰還を果たしたのだった。


〈作者コメント〉

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