第49話 いざ奥多摩へ

 翌朝、奥多摩へ向かう待ち合わせ場所には俺と新野の他に小春と安珠の姿があった。


「……ねぇ、なんか聞いてたよりもメンバー多いんですけど?」

「いろいろあってだな……」


 新野と二人きりで行く予定だったダンジョン攻略にどうして小春と安珠が居るのかと言えば、話は昨日に遡る。


 昨日、新野と解散したあとに俺は安珠から刀を受け取りに葛飾区へ向かった。そこで安珠から「儂も鉱石探しに同行させてくれんかのぅ?」と申し出があったのだ。


「いやの、父上に叱られたのじゃ。知りもしない鉱石で剣なんて作れるか、とのぅ。それからヒヒイロカネについて勉強を始めたんじゃが、せっかくなら採掘の現場から見てみたいと思っての。儂もついて行ってはダメじゃろうか……?」


「俺は別に構わないが、ダンジョンに入れるのか?」

「その点は問題なしじゃ」


 なんでも安珠は既に冒険者登録を済ませていて、Eランクにもなっているそうだ。父親が作った刀の試し斬りで幼い頃からダンジョンに同行していたらしい。


 それなら俺が断る理由もなかった。奥多摩ダンジョンの立ち入り制限はEランクで、それほど危険なダンジョンというわけでもない。安珠が居れば必要なヒヒイロカネの量もわかるだろうし、むしろ同行してもらった方がありがたいかもしれないな。


 そんなこともあって安珠の同行が決まり、その夜のこと。


「おにぃ。パパとママ、明日急に仕事が入ったって。暇だから私もダンジョンついていきたい」


 なんて言い出した小春に、俺はどう諦めさせたものかと頭をひねった。というのも、小春はまだ冒険者になって日が浅く、冒険者ランクはGのまま。奥多摩ダンジョンの立ち入り制限はEランクのため、今の小春では奥多摩ダンジョンに入ることができない。


「ランクのことなら大丈夫。これ見て」


 そう言って小春が見せてきたスマホの画面には、『低ランクでも有名ダンジョンに入れる裏技教えます!』と銘打たれたとある動画。冒険者だというマスクで口元を隠した赤髪の少女が、手書きの図を見せながらランク制限を超えてダンジョンに入る方法を解説している。


 抜け穴的なことの解説かと思いきや、あくまで合法的にダンジョンへ入る方法の説明のようだ。その方法とは簡単で、自分よりランクの高い冒険者とパーティを組むことだった。


「パーティを組めば一番ランクの高い冒険者に合わせてダンジョンに出入りできるのか」


「ん。おにぃがDランクだから、おにぃとパーティを組めば私もDランク制限のダンジョンまで入れる」


「…………Dランク制限はダメだ。まだ危険すぎる」

「でも奥多摩ダンジョンはEランク制限でしょ?」


「…………わかった。俺の傍を離れるなよ」

「やった」


 そんなこんなで今に至る。


「国友安珠じゃ。今日一日よろしくのぅ」

「よろしくお願いします、舞桜さん」


「……はぁ。仕方がないわね。…………せっかく二人きりで渡そうと思ってたのに」


「ん? 新野、何か言ったか?」

「何でもないわよ。さ、行きましょ。そろそろ電車の時間よ」


 新野に促され、俺たちは電車で新宿へと向かった。新宿から青梅までは中央線、青梅から青梅線に乗り換えて終点の奥多摩を目指す。


 電車が進むにつれて、徐々に車窓を流れる風景には緑色が増えていった。そして青梅線に乗ってからは緑豊かな山々や田園風景が窓いっぱいに広がる。東京から出ていないのに、地方を旅行している気分になった。


 奥多摩駅に降り立てば、四方八方が山々に囲まれた閑静な町並みが広がっている。ここからさらに協会が運営する予約制の直通バスで30分ほどかかるという。


 あらかじめ予約をして待ってもらっていたバスに乗り込み、俺たちは小さく息を吐いた。ここまでで大体2時間ほど。東京から出ないからと軽く見ていたが、結構な遠出になってしまった。


「なんかとんでもない秘境に来ちゃった気分だわ」


 隣に座る新野が、窓の外の風景を見ながらそんなことを口にする。普段見慣れた都心のビル街は一切見当たらず、窓の外に広がるのは雄大な大自然だ。さすがに秘境とまでは言わないが、遠くに来てしまった感は確かにある。


「それにしても、まさか小春の兄が本当にお主だったとはのぅ」


 前の席に座る安珠が座席の上から顔を出してこちらに話しかけていた。


「疑ってたのかよ」

「いやいや、そういうわけではないがの。世間が狭いと知ってびっくりしたのぅという話じゃ」


「私のほうがビックリしたってば。急に国友さんから話かけられて、『お主の兄に渡した刀の調子はどうじゃ?』なんて……。おにぃが犯罪に手を染めたのかと思ったし」


「そりゃ驚くわな」


 小春には前から怪しまれていたがバイトで押し通していたし、そこへ刀とくれば物騒な可能性がいくらでも浮かんでしまう。


「ところで小春よ。お主、兄の前だからと緊張しておるのか? 学校ではもっと明るい性格ではなかったかのぅ?」


「緊張なんてしてない。こっちが素だから。学校では猫かぶってるの」


「ほほぅ! ならば素の小春を知れて儂は役得じゃのぅ! ここまでついてきた甲斐があったというものじゃ!」


「何の得があったんだが……」


 座席の向こうから小春の溜息が聞こえてきた。よく見慣れた普段の小春だが、学校では猫をかぶっているのか。家では落ち着いている小春の明るい姿、ちょっとだけ見てみたい気もするな……。


 なんて会話をしている間にもバスはどんどん山道を進み、やがて奥多摩ダンジョンを管理する冒険者協会の奥多摩支部へと辿り着いた。




〈作者コメント〉

ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ

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