第30話 新宿ダンジョン中層領域探索クエスト
新宿ダンジョン中層領域探索クエスト当日。新野と最寄り駅で待ち合わせをした俺は、新宿駅地下の東京メトロ新宿ダンジョン行き改札前へと向かった。
現在、新宿ダンジョンは上層にDランクの立ち入り制限、中層以降はBランクの立ち入り制限が行われているという。
初心者向けで戦前に踏破された新宿ダンジョンにはBランク以上のプロの冒険者はほとんど立ち寄らない。中層以降は実質的な立ち入り制限が行われているのと同義だった。
一週間と少し前、偶然遭遇したイービルウルフによる関所への襲撃だったが、どうやら俺たちが考えていた以上の大事だったみたいだな……。
今回の中層探索はその原因を調査するのが目的だ。おそらくダンジョン内に一泊することになるため、家族には友達の家に泊まると言って家を出てきた。小春には「おにぃに泊めてくれるような友達居たんだ……」なんて失礼なことも言われたが。
新宿駅地下の改札前に到着すると、既に見知った顔が集合場所に集まっていた。
その内の一人は秋篠さんだ。《虎斬丸》を重そうに抱えながら、背の高い女性と外はねショートの女の子と話をしている。
他に顔見知りが居るのかと言えば、改札前で冒険者協会の職員らしきスーツの女性と打ち合わせをしている男性五人組のパーティ。確かパーティ名は《NW(ナイトワーカー)》だったか。
件の関所襲撃事件の折に、関所に駐屯していたBランク冒険者のパーティだ。
「よお、来たな。お前たちで最後だぜ」
NWのリーダー、戦斧を背負った浪川信也(なみかわ・しんや)さんが俺たちに気づいて声をかけてくれる。すると他の面々も俺たちに気づいたようで、自然と周囲に集まってきた。
NWと秋篠さんたち、それと俺と新野を加えてちょうど10人か。ここに居る面々が新宿ダンジョン中層領域探索クエストに参加するメンバーというわけだ。
「お、おはよう土ノ日くん! 新野さんもっ!」
「おはよう、秋篠さん」
俺が何気ない挨拶を秋篠さんと交わすと、
「あれが例のカレですかね?」
「だろうね。なかなか悪くないじゃないか」
彼女の後ろに居た二人が顔を寄せ合ってこそこそと言葉を交わす。秋篠さんのパーティメンバーだとは思うのだが、俺のことを知っているのだろうか?
「初めまして。私は綾辻冬華。古都が所属するパーティのリーダーをしている。君たちの話は古都から聞いているよ。一緒のクエストに参加できて光栄だ」
背が高く手足がスラっと伸びた大人びた印象の女性。綾辻さんは凛々しさを感じさせる声音で自己紹介をする。彼女は手に細長い袋を持ち、背中には矢筒を背負っていた。どうやら弓使いのようだ。
「次はわたしですねっ! 初めまして、先輩方。わたしは水瀬美奈津って言います! 高1です! 宜しくお願いしますっ!」
明朗快活にそう自己紹介すると、水瀬はぺこりと頭を下げた。すると彼女が背負っているギターケースに自然と視線が吸い寄せられる。中身はそのままギターというわけではなく、武器を持ち歩くためのカモフラージュだろうか。
「顔合わせは済んだか? そんじゃ、新宿ダンジョンに向かいながらミーティングだ」
浪川さんの音頭で俺たちは新宿ダンジョン行きの電車へ乗り込んだ。5両編成の車内には俺たち10人の他には誰も居ない貸し切り状態。おそらくランク制限の影響だろうな。
「見知った顔ばかりだが改めて、今回の中層領域探索クエストでリーダーを務める浪川信也だ」
全員が席に着き、列車が動き出したのを見計らって浪川さんの自己紹介からミーティングが始まる。
「今回、俺たちが新宿ダンジョン中層に派遣された理由は一つ、お前らも身をもって知っているイービルウルフの上層への進出。その原因究明だ。あれから一週間経ったが、あの後も何度か関所にイービルウルフが押し寄せたらしい。警備体制を強化していたから対応は容易だったようだが、これは明らかに異常事態だ。必ず何らかの原因があると俺は考えている。……くれぐれも気を抜くな。こういう時のダンジョンは何が起こっても不思議じゃねぇからな」
浪川さんは特に俺と新野を見て特に念を押した。Dランクに昇格したとはいえ俺たちは冒険者になりたてのペーペーだ。ダンジョンでの日を跨ぐ本格的な活動も今日が初めてなことを考えれば、先輩冒険者の忠告は肝に銘じておくべきだろう。
その後、今日の段取りと探索範囲の確認をしている内に列車は新宿ダンジョン内の駅に到着した。列車を降りた俺たちは浪川さんたちNWを先頭に一路中層を目指す。
上層を最短ルートで進み、ものの10分ほどで中層との境目である関所に到着する。
浪川さんが駐屯していた冒険者に通行証を見せ、関所のコンクリート製の重厚な扉が開かれた。その先は中層。俺と新野は初めて足を踏み入れる領域だ。
「山田、水瀬、ここから先はお前ら索敵スキル持ちが頼りだ。気合入れていけ」
「あいよ、リーダー」
「了解ですっ!」
NWメンバーの山田さんと水瀬を先頭に、周囲を警戒しつつ関所から中層へと続く下り坂に足を進める。中層に入っていくにつれて道幅は狭くなり、次第に明るさも少なくなっていく。
上層の壁面には光を放つ苔があったが、どうやら中層ではその苔の繁殖が限定的のようだ。明るさは目が慣れてくれば問題ない範囲だが、中層は道幅が狭く入り組んでいた。そのために視界は悪く、上層にはない圧迫感が絶え間なく押し寄せてくる。
「……この先の空間に何かがあります」
モンスターとの接触もなく50分ほど進んだ頃、先頭を歩いていた水瀬が左手を挙げて立ち止まった。二列目の浪川さんがその報告を受け、懐中電灯で照らしながら地図を確認する。
「この先はそこそこ広い空間が広がっている。イービルウルフやコボルドとの接触が考えられるな……。各員、戦闘に備えろ……!」
浪川さんの指示で俺たちは各々の武器を構え、慎重にこの先の広間へと向かった。
そして広間で俺たちを出迎えたのは、干からびたイービルウルフとコボルドの大量の死骸だった。
「なんだ、こりゃ……?」
その異様な光景に浪川さんは疑問符を浮かべる。イービルウルフも、コボルドも、体内の水分がすべて失われたかのように干からびている。目立った外傷は二か所の刺し傷のような痕が残るだけで、どこかを切断され血抜きされたような痕はない。
……これは。
この傷跡を俺は前世の世界で見たことがある。
「……まずいわね」
同じく覚えがあったのだろう、新野は頭上を見上げて絞り出すような声を紡いだ。
……ああ、非常にまずい。
広々とした空間。高い位置にある天井に蠢く無数の影。
ここは、吸血鬼蝙蝠(ヴァンパイアバット)の棲み処だ。
〈作者コメント〉
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