第9話 もしかして告白!?
「秋篠さん、放課後に時間をもらえないか? 話したいことがあるんだ」
なんて隣の席の気になる男子に言われたのは、数学と何の授業の合間の休み時間だっただろうか。反射的に「大丈夫だよ」と答えた秋篠だったが、時間が経つにつれて事の重大さを実感していく。
(は、話って何だろう!?)
待ち合わせ場所の屋上へ続く階段を一段進むごとに、心臓の鼓動はどんどんどんどん早くなっていった。
わざわざ放課後の屋上を待ち合わせ場所に指定するくらいだ。きっと、ほかのクラスメイトには聞かれたくない内容なのだろう。
(それって、もしかしなくてもそういうことだよね……!?)
放課後の屋上への呼び出し。そんなのもう告白以外には考えられない。
隣の席の男子……土ノ日勇は秋篠にとって初恋の男子だった。
初めて出会ったのは小学生の頃。六年間で何度か同じクラスになり、クラスの目立たない女子だった秋篠はクラスで一番足が速かった土ノ日が好きになった。
中学校では別々の学校になり、高校でまさかの再会。土ノ日はクラスで一番足の速い男子ではなくなっていたが、それでも不思議なもので秋篠の好きの気持ちは小学校からずっと変わらないままだった。
(ときどき変なところもあるけど……)
授業中に居眠りして叫びながら飛び起きたり、ノートに謎の文字を書き殴っていたり。そういうちょっと不思議なところも魅力的に感じてしまう不思議。
何よりあまり目立ちたくない性格の秋篠にとって、土ノ日勇という男子はクラスでの立ち位置的にちょうどよかった。そのちょうどよさも魅力的だった。
そんな彼からの呼び出し。心臓が飛び跳ねそうなほどに嬉しく、心臓が止まりそうなほどに緊張している。
(告白、だよね……?)
怖くなってチャットでパーティメンバーに聞いてみた。
ミナミナ「告白に決まってますよ!」
冬華「告白だろうね」
やっぱり告白らしい。
意中の相手から告白されるのはすごくすごくすごく嬉しい。けれどちょっぴり怖い。
そんな複雑な乙女心を抱えて、飛び跳ねたり止まったりしそうな心臓を抱えて、秋篠はついに屋上へと続く階段を登りきる。
一度、乱れた息を深呼吸で整えて、秋篠は意を決して外へと続く扉を開いた。
「あ、やっと来たわね」
「……ふぇ?」
第一声で聞こえてきたのは、凛とした雰囲気の少女の声。
「だから言っただろ、新野。わざわざ呼びに行かなくたって秋篠さんは来てくれるって」
続いて聞こえてくる思い人の声。
屋上で待っていたのは土ノ日勇だけではなかった。
「新野、さん……?」
どうして、転校生の新野舞桜さんが居るのだろう……?
風に靡く長く艶やかな髪。同性の秋篠でも見とれてしまうほどに整った美しい顔立ち。転校初日から絶世の美少女だと学校中で話題の新野舞桜さんがどうして土ノ日くんと一緒に……?
「悪いな、秋篠さん。わざわざ時間を作ってもらって。どうしても、秋篠さんと話がしたかったんだ」
「あ、うん。えっと……話って……?」
てっきり、土ノ日から告白されるものだと考えていた秋篠は、未だに状況を呑み込めていなかった。
二人っきりではなく、なぜか同席している新野舞桜。
秋篠は最悪の可能性に思い至ってしまった。
(も、もしかして二人って付き合ってる!?)
『秋篠さん。実は俺、新野と付き合うことになったんだ』
『悪いわね、秋篠さん。でも、早い者勝ちでしょ?』
(あ、あぅあぅあぁ~……っ!)
脳内で勝手に二人が付き合っている設定が組みあがってしまい、狼狽する秋篠。そんな彼女の脳内妄想は知る由もなく、土ノ日は話しかけてくる。
「秋篠さん、実は折り入って頼みたいことがあるんだ」
「もしかして結婚式の友人代表挨拶!?」
「いや、誰の結婚式だよ……?」
「だ、誰って土ノ日くんと新野さんの……」
「はぁっ!?」
秋篠の見当違いな発言に、新野が目を剥いて驚く。そして即座に、胸元を掴み上げんばかりの勢いで彼女は秋篠に詰め寄った。
「いったい何をどう勘違いしたらそんなことになっちゃうのよ!? 土ノ日と結婚なんて、あ、あるわけないでしょっ! ばっかじゃないの!?」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさいごめんなさいっ! ……じゃ、じゃぁ、二人は付き合ってるわけじゃないの……?」
「放課後に二人で居るだけで付き合ってる判定は過剰だと思うぞ?」
至極真っ当な土ノ日の発言に、秋篠は確かにと納得させられる。
「そ、そっか。そうなんだ……」
土ノ日と新野が揃って否定したことで、秋篠はようやく冷静さを取り戻すことができた。
安堵の息を一つ吐き、でもそれじゃあどうして呼び出されたんだろうと首を捻る。
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