第10話 未知への探求心

「つ、土ノ日くん。それじゃあ、わたしに頼みって……?」


「秋篠さん、俺たちにダンジョンの攻略法を詳しく教えてくれないか?」

「へ……?」


 予想もしていなかった頼みに、秋篠の脳は一瞬フリーズする。


 ダンジョンの攻略法? そんなものを知ってどうするつもりなのだろうか。


 そもそもどうしてダンジョンの攻略法を尋ねられているのだろう。秋篠は家族やパーティメンバー以外に冒険者をしていることは隠している。特に学校では目立ちたくないがために、友人やクラスメイト、部活仲間にもひた隠しにしていたのに……。


「えっと、ダンジョンなんて知らないよ……?」

「嘘ね」


 誤魔化そうと口にした言葉は、新野にあっさりと切り捨てられた。


「秋篠さん、俺の生徒手帳を拾ってくれただろう?」

「あれ、あたしがダンジョンで落としちゃったのよね」


「……えっ!? あっ」


 そういえばダンジョンで拾った土ノ日くんの生徒手帳を今朝渡したんだった! と秋篠は今更になって思い出す。どうやって渡せばいいかだけを悩みに悩んで、どこで拾ったかなどをまるで失念してしまっていた。


「ち、違うよ……? あ、あれは偶然教室で拾ったものでー……」


「それも嘘ね。目が泳いでるわよ?」

「はぅっ!?」


 近づいてきた新野にジトーっと見つめられ、秋篠は観念して肩を落とす。


「ごめんなさい、ダンジョンで拾いました」

「やっぱりね。素直でよろしい」


 秋篠の頭を撫でてようやく距離をとってくれる新野。彼女のプレッシャーから解放された秋篠は目じりにほんの少し涙を浮かべていた。


「まさか二人が本当にダンジョンに入っていたなんて……」


 生徒手帳を拾ったときは何かの間違いだと思った。そして今でも、秋篠の脳内ではコボルドを討伐した冒険者と目の前の二人を結び付けられていない。きっとコボルドが討伐された前後で偶然あの場に通りかかったのだろうと思っている。


「もしかして、秋篠さんが冒険者をしていることは秘密だったか……?」


「あ、き、気にしないで、土ノ日くん! 確かに秘密にはしていたけど、ぜんぜんたいした理由じゃないから!」


 本当にただただ目立ちたくないというだけの理由だったので、土ノ日と新野に知られたくらいでは大したダメージはない。ただ、それでもやっぱり目立ちたくはないので、二人には念のため秘密にしてもらうようにお願いしておく。


「わかった、秘密にする。そのうえで改めて、俺たちにダンジョン攻略のイロハを教えてくれないか?」


 秘密を黙っている代わりにダンジョン攻略についてレクチャーする。交換条件としては悪くないと秋篠は思う。土ノ日とも距離が近づくチャンス。秋篠としてもメリットはあり、レクチャーに関しては秋篠もやぶさかではなかった。


 ただ、了承する前に確認すべきことがある。


「二人は、プロの冒険者になりたいの……?」


 ダンジョン攻略を生業とし、生計を立てる人々。秋篠の両親や祖父母、兄弟も全員例外なくプロ冒険者だ。そして、自身もプロ冒険者を目指さざるをえない立場として、レクチャーするからには手を抜くわけにはいかない。


 生半可な覚悟なら断る。そのつもりで秋篠は問いかけた。


 土ノ日と新野は互いに顔を見合わせて、秋篠に向かって首を横に振る。


「結果的にプロ冒険者になるかもしれないが、俺たちの目的はそれじゃないんだ」

「冒険者になりたいんじゃなくて、ダンジョンが何かを知りたいのよ」


「ダンジョンが何かを……?」


「そ。人類に課された最終命題、ダンジョンとは何なのか。昔に滅びた超古代文明の遺跡か、はたまた異世界へ通じる門なのか。あたしはそれが知りたいのよ」


「それって……」


 プロ冒険者の中でも限られた極一部……Sランクへと到達した冒険者が口を揃えて言うセリフがある。


『我々は明日の食費を得るためにダンジョンへ潜るのではない。ダンジョンとは何かを知るために、ダンジョンへと潜るのだ』


 それはとある国の伝説的な冒険者が口にした言葉だったか、はたまたダンジョンを舞台にした冒険小説の登場人物のセリフだったか。どちらにせよ、秋篠がこれまで出会ったSランク冒険者はみなダンジョンの謎を解き明かしたいと語っていた。


(その探求心が、たぶんSランクの……)


 ただ稼ぎたいだけならSランクになる必要はない。Bランクでそこそこの報酬の依頼を受けているだけで、サラリーマンの生涯年収と同等かそれ以上の額を10年程度で稼ぐことができる。


 そういった稼ぎなどを度外視した先に居るのが、ダンジョン攻略最前線を突っ走るSランク冒険者たち。秋篠が憧れる存在だった。


 生半可な覚悟どうこうの話ではなかった。新野は秋篠が考えていたよりも遥か先を見据えている。断るという選択肢は秋篠の中からほとんど消え去った。


「土ノ日くんも……?」


「いや、俺はこいつに付き合わされているだけだ」

「ちょっと!?」


 仲良さそうに言い争いを始める土ノ日と新野。このまま何もしなければ、二人の距離はどんどん近づいていくのでは? そんな焦燥感が、秋篠の心を決定づける。


「わ、わかった! わたしにできることなら、協力するよ!」



〈作者コメント〉

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