死装束と青い車

何となく、分かっていた。

車を走らせる彼女が、あの夜街灯の下でベンチに座っていた彼女と同じ目をしていたから。


「白いワンピースは死装束か」

「さすがに着物じゃやばいかなと思って」

「エヴァよりは長いエンドロールになりそうだな」

「今だったらお互い一番目に出てくるかもね」

「あーだから、、か」

「お、よくわかったね」

「線香花火は人生を表してるんだっけ」

「今は散り菊かな」

「もしかしてまだ伏線張ってる?」

「どうかな」

こちらを見つめる彼女が今まで見た事ないほどませた笑顔をしていたから、どうにも切なくなる。


「その感じだとやっぱりバレてた?」

「まあ、なんとなくそんな気はしてた」

満月が僕らを照らしている。

「…なあ知ってるか」

時々忘れてしまう。月もまた照らされていることを。

「ん?」

「『青い車』は心中の歌じゃないんだよ」

「え!うそ」

「まああくまで考察だけど」

「え〜…台無しだよ~…」

項垂れながら人差し指で水面をなぞる。映り込んだ月がぐにゃりと歪む。

「別に止めはしないよ」

「止めはしないって、君はいかないの」

「まあ、明日会議だからな」

「真面目か」

寂しそうにザバザバと海から上がってくる彼女がどうにも面白くて笑ってしまう。

「もういいよ、なんかさめちゃったし。しかも私だけ死んだら君帰れないでしょ」

「あ、確かに」

海水を目一杯吸い上げたワンピースの裾を絞る。したたり落ちたそれは白い砂浜を黒く染めて固めていく。


「帰ろっか」

彼女が呟く。

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