夏の魔法と線路

あれは確か高校二年生の夏、いつものように夜を彷徨う左のかかとがすり減ったスニーカーは、小さな踏切にたどり着いた。


この先に何かがあると思った。

小中高と地元の学校で過ごしていた僕は、線路の先の景色を知らなかった。でも、理由はそんなことじゃない。

きっと、”夜の魔法”がに連れていってくれると、どこかでそう確信していた。

腕時計を確認するともう三時を過ぎていた。


翌日の深夜、同じ踏切まで歩いた。

すると、来るはずもない電車に耳をつんざくような警告音が鳴って遮断機が降りる。何が起きているのか分からず踏切に近づくと、二人の作業員らしき人がいた。

「お、坊主、踏切渡るか?」

一人の無精髭を生やした作業員がこちらに声をかけてくる。

「いや、線路を歩きたくて…」

口に出してみるとあまりにも馬鹿馬鹿しくて語尾がどんどん小さくなる。

「そりゃあ残念だが、やめといた方がいい」

そうして二人は僕の馬鹿げた希望に親切に色々教えてくれた。彼らは保守点検と言う仕事をしていること。深夜であっても線路は歩いてはいけないこと。思えば補導される年齢であったにも関わらず近くの自動販売機で缶コーヒーまで奢ってくれて、僕はそれを少しずつ飲みながら家に帰った。


あれがきっと人生で初めて飲んだBOSSのブラックだった。



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