記憶と居場所

僕が夜家を抜け出すようになったのは別に最近のことじゃない。

昔から僕は夜が好きだった。時折両親が寝静まる頃にそっと家を抜け出すことがあった。その癖が未だ抜けないまま、一人暮らしをしている今でも音をたてないようにそっと家を出てしまう。

別に自分探しの旅だなんて大層なものじゃない。第一、こんなもので見つかる”自分”ならもうとっくに見つけてる。

ただ、何を探しているかも分からぬまま夜を徘徊するのだ。


いつも見ている風景が全く違う世界のように見えて、もしかしたらこの世界に自分一人だけなのではなかろうかと錯覚するほどの静寂に包まれる、あの魔法のような時間が好きだった。


いつもどこかに帰りたいと思っていた。自分の居場所はここじゃないと無意識的に感じていた。もしかしたらそれを探していたのかもしれないけれど、果たしてどこにあるのか検討もつかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る