ナビと遮断機


「わ、海の匂い」

まだなお過去を儚む僕の意識が、微かに感じた磯の香りと彼女の嬉しそうな声で現実に引き戻される。

思えば海なんていつぶりだろうか。少し鼓動が早くなるのを感じる。これが高揚感なのか、はたまた恐怖なのかは自分でも分からない。

音質の悪い後付けのナビが右に曲がれと繰り返す。狭い十字路を曲がると踏切が現れる。上がりっぱなしの遮断機の横を通り過ぎようとした時彼女が急に車を止めた。


嫌な予感がした。

「ね!線路の上歩いてみようよ」


そう、彼女はそういう人だ。


わかりやすくはしゃぐ彼女を見て記憶の奥の方がざわめく。

僕は知っていた。

「線路上は鉄道会社の私有地だから無断で入ったら犯罪らしいよ」

「げっ、そうなの」

何故こんなことを知っているか、結論から言うと僕も同じことをしようと思ったことがあったからだ。

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