ミニクーパーと横顔
世間が梅雨入り宣言に憂いを隠せなくなった頃、いつものベンチの横に青いミニ・クーパーが止まっていた。
運転席の小さな窓から見慣れた顔が現れる。
「ね!ドライブしようよ!」
「車なんか持ってたんだ」
助手席に乗り込んでシートベルトをしめる。
「一応ね、最近はあんまり使わないけど…」
その言い方は少し含みを持っていたが特に聞き返す理由もなかった。
僕らは夜にしか会わない。僕は彼女が昼間どこで何をしているか知らないし、彼女も同様に僕についてなにか聞くこともなかった。
この、名前の無い関係がどうも心地よかった。
「ドライブってどこ行くの」
「んー、ここじゃないどっか遠く」
「そっか」
心做しか疲れたような横顔に何かを言いかけたが、何を言おうとしたかは今でも思い出せない。
この夜から、一台の青い車がありもしない目的地を目指して彷徨うようになった。
まだなお眠れぬ僕らを乗せて。
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