サンダルと街灯

僕らが出会ったのは確か去年の春、アスファルトに散った桜が姿を消した頃だった。


その日も僕は家を抜け出して暗い川沿いの夜道を歩いていた。真っ暗で何も見えないが規則的に水が流れる音が聞こえてくる。等間隔で並んだ街灯の下をくぐるたびに影が現れては消える。

別に行く宛てがあるわけじゃない。ただ、この夜の帳の先にがあるような、そんな気がして。


サンダルがアスファルトを蹴るたびにザリッと鈍い音を立てる。変な歩き方の癖が着いてしまってどの靴も左のかかとが磨り減っていた。心做しか右足に重心を傾けて歩いていると、街灯に照らされたベンチに人が座っているのが見えた。

こんな時間にこんなところで何をしているのだろうか。僕が言える話ではないけれど。

怪訝そうな顔をしていたのがバレたのか彼女は顔をあげて、僕と目が合う。今にも零れ落ちてしまいそうな大きな瞳がこちらも見つめている。タイミングを図ったかのように二人の間を風が通り過ぎて、彼女の小さな唇が動く。


「君も眠れないの?」

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