第4話:不死鳥
目が覚めたときには体がベッドに固定されていて、白い天井を見上げるしかなかった。
アリスちゃんの息遣いを感じるここは啓明病院。
そして養母が僕を見ている。
「起きたのね」
「ん……おはよう、ございます……」
床に降りて平伏し、挨拶を述べなければ。
「ここは私の国ではないからしなくていいのよ」
「……」
「ずっと、気づいてあげられなくてごめんね」
なぜ女王が謝られる。
……頬を撫でられると懐かしい。
「眠たいかしら。よく眠りなさいね」
「んー……」
「寝顔、昔とおんなじ。……大好きよ」
…………。なんだかすごく良い夢を見た気がする。冥王様と昔のように親子として接する夢。
考えようとしても頭がまともに働かない。
ただでさえちょっとアレな頭がますますやばいかも。
「フォリア、あーん」
「あ、あーん……」
「美味しいか?」
「うん……」
だってほら、院内だというのに普段着のアリスちゃんが僕にあーんしてくれてる。ありえない。都合のいい幻覚に我ながら呆れる。
「貴様私をなんだと思っている?」
「あれ、幻覚じゃないの!?」
「失礼なやつめ」
そう言いつつも笑ってくれるアリスちゃん。優しい微笑みに見惚れてしまう。
「母君はお前の退院まで見舞いに通うそうだ」
「……お忙しいのに」
「息子と話したいのだとか」
「…………」
「なぜ泣く?」
「……嬉しくて……」
周囲に揶揄われるのが嫌で、でも、母がやっかまれる方がずっと嫌で、かつて『これからは従者としていさせてください』と頼んだ。
そんなことをしたのに我が子と思ってくださるとは。
「泣き顔を写真にして送ってやろう」
「なんで連絡先持ってるの?」
「お前のことと、お前を育てた女神について聞きたかったから」
行動力と判断力がそれぞれご両親譲りだ。
「そ、そう」
僕のことってなんだろう……
「お前が《変幻》するたびに、性格や振る舞いが豹変することが気になった」
「…………」
「原因がどこかにないか気になったが、こちらの世界に来たお前は徹底的に雨を避けた。嫌なこととはわかりつつ、その体質でお前が困っているのなら助けになりたいと思ってな」
うれしい。
「そもそもだ。《変幻》のたび毎回変わるならそういうものなんだろうと納得……納得はしないが、確率でそうなるのは奇妙だ。気になって仕方がなかった」
「偶然って考えないの?」
「生命に偶然などあってたまるか」
彼女の狂気は恐ろしくも美しい。
「さて、執刀医としてあれこれ話そう」
「? え、手術したの」
「頭蓋が割れていたから」
「…………」
僕の《死因》。
「うむ、これがアリアやらひーちゃんやらなら、なぜお前が《変幻》を繰り返すことでそうなるのか突き止めようとするのだろうが……原因がかつての怪我にあったと突き止めたわけだから、私はこれ以上考えることなどない」
「え……」
「愛されているのだな、フォリアは」
「……」
目が熱いせいで、とても痛い。
「お前を見舞う冥王曰く、お前を心配する冥界の民がこちらに押し掛けんばかりだったのを封じ込めてきたそうだ。元気になったら許可を出すから、電話やら手紙やらでメッセージを伝えるといい」
「うん……」
にこにこなアリスちゃん。
何かいいことあったのかな?
「あったよ」
「さくっと心読むね」
「疲れているだろうから先読みするよ」
カルみたいだと思ってしまうけれど、彼女には予知能力も読心もない。あるのはとびっきりの頭脳だ。
「私は時間の余裕や相手の体調次第で先読みするかどうか選ぶ」
伴侶になるなら慣れてくれ、と付け加えた。
伴侶。はんりょ! ひゃああああ!!
「起きあがらせないからな」
「ハイ」
いまのは反射で興奮しただけなんです。許してください。
「あの……元気になったらプロポーズしていい?」
「うん」
アリスちゃんが良ければ指輪作りたいし、竜の文化に則って絹を……いやもう僕がドレス作りたい! アリスちゃんを着飾りたい!!
「冷静に見せかけて内心は発狂をガス抜き中。妖精にありがちな精神調整だな」
見抜かれた上に分析されるのも興奮。恋人がこんなにも賢くて可愛い。
しかし、僕だってだんだん冷静になってくる。
さっき彼女は……
「…………。返事、くれた?」
「うん」
「……っ」
「泣くな。……お前の脳髄を見て実感したよ。愛している」
なんてもので実感しているんだ。
そんなところもカッコイイ。大好き!
宝石が落ちないようタオルを巻いてくれる優しさにもうメロメロ。
「最近はお前のお陰で早上がりや非番の日をつくっているからな。できる限りそばにいるよ」
「ありがとう……」
「どういたしまして。……おやすみ」
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