第2話:不死鳥
リナの家にきょうだい集合してるのは、とりあえず集まってみたかったから。こうしてみんな揃うのはいつぞやの温泉以来だ。
「……ふおぉ……」
「ぁう」
父さんも揃えば、ほんとうにそうなのだ。
赤子に戻った父はルピィに抱っこされてじっとしている。
「ばあちゃん、わがまま聞いてくれてありがとな」
「ふふ。リナリアのわがままなんて滅多にないもの。おばあちゃん嬉しくなっちゃう」
連れてきてくれたおばあちゃんは朗らかに撮影中。
その足元には三毛猫がまとわりついて、父さんの方を見上げている。
「……そのにゃんこちゃん、お名前あるの?」
「ミケミケ。シュビィ命名」
なぜ……?
疑問に思っていると、ファープが問いかける。
「マケマケから取ってるの?」
「そうみたい」
イースター島の神さまかー。
「なーぅ」
「ぁう」
「なぅん」
「ぁぁぁ……」
ふふ、交信してるね。……なにかが見えてるっぽいカルがすごい顔してるけどなんかあるのかな。
気付いたリナがひそひそと話していた。
でもまあ、危険はないでしょ。
僕はおばあちゃんとのおしゃべりも楽しみだったんだ。
「おじいちゃんと妹ちゃんたちはどうしてるの?」
「今日は大学に行ってるわ。そっちもきょうだい集合なのよ」
「へー!」
「オウキは人が多いの苦手みたいだからこっちにきたの」
「こっちも多いけど大丈夫なの? 来てもらっといてなんなんだけど……」
それで父さんが不快だというのなら無理はさせないであげたい。
「あなたたちなら大丈夫。わからないなりに、あなたたちのこと好きみたいだから」
あっ、泣きそう。ていうかカルとルピィが泣いた。
「フォリア、父さん受け取って……宝石落ちちゃう」
「あ、うん」
「ぁー!」
「……」
僕も泣く。
「あら、オウキ。フォリアの抱っこ嬉しいのね。初めてだものねえ」
父さんは僕の頬をぺしぺしと叩いてくる。それだけで死にそうなくらい幸せだった。
「…………リナ受け取って……」
「……はいはい」
唯一泣いていない弟へ託すと、父は眠たげに目を細めた。
本日のおばあちゃんは野望を抱いてやってきたのだとか。
「ユーフォはどんどんお姉さんになるね」
「ぁう!」
魔法の巻尺を使って、ユーフォの体を採寸している。
しゅるしゅると蛇のように、それでいて新体操のリボンのごとく滑らかに動く巻尺はおばあちゃん謹製だ。制御は持ち主の魔力によるのでセンスが要求される。
続いてアスちゃんの方へ巻尺を向ける。
「アスちゃんはセーターだったよね」
「はい。よろしく、お願いします……!」
本日はステラちゃんも含め、おばあちゃんに編み物や縫い物を教わるつもりみたい。
「ステラちゃんはユーフォの冬服。と、できればコートだったね」
「はい!」
ステラちゃんが会釈する。
「作っていただいたカワウソさんポンチョ、ユーフォがすごく気に入ってるんです。お出かけに使ってます……!」
「まあ! 嬉しい。また可愛いお洋服作るからね」
「ありがとう……!」
仲良しな女性陣が尊い。
「そうだ。ステラちゃんの服、ユーフォとお揃い作ろっか?」
「っっ……そそ、そそそんな。わたしなんて、目立たない服がちょうどいいんです……!」
「そう? ……ねえリナ? ステラが可愛いお洋服着たら嬉しい?」
「嬉しい」
迷いのない即答にステラちゃんが赤面する。
「じゃあ作っちゃお! ユーフォ、お母さんとお揃いだからねー♡」
「ぁー!」
「かーわいぃ……ステラちゃんごと食べたい……♡」
祖母の発言がこわくて視線を外せば、その先ではリナリアとファープが父さんをベビーベットに寝かし、三毛猫を投入するところだった。
ミケミケは父さんにそっと寄り添ってくれている。
「ぁーうっ、ぁー、ぁう」
「なぅん」
「ぁー……」
毛皮を小さな手でもふもふ。父さんの幸せそうな顔からミケミケへの好意が伝わる。
前にも猫のモビールに興奮してたり、ぬいぐるみに愛着を持ったりしてた父さん。猫好きなんだなあ、と。
そんなふうに和んでいると、カルが不思議そうなのを見つける。
彼は最も父さんのことをよく知るきょうだいだ。
「どしたの?」
「あ、えーと……猫、好きなの意外だなって」
「?」
父は生き物全般好んでいたと聞くんだけど……
「別に猫だけ特別好きな様子は……ていうか、むしろ、ネコ科動物だけは作ったところを見たことない……」
「??」
「あっ、えっと! 気にしないで。うん、赤ちゃんになってから猫好きなのかもしれないし」
「そ、そう? わかったよ」
僕たちが話す間にも、父さんはミケミケのお腹に包まれてふにゃふにゃとしゃべっていた。
ベビーベットのすぐそばをユーフォが駆け抜けていく。
リナが追いかけて、ユーフォはファープが受け止めるのだ。
「はーい、あんよ上手さんだね」
「ぁう!」
尊い。
「兄さん、無言で泣かれると怖いんだが」
「あ……ごめん。冥界に来る小さい子たち思い出しちゃって」
「……」
「ユーフォちゃんが幸せで嬉しいよ。リナとステラちゃんが良き親だからだね」
「ありがとな」
子どもは幸せに守られていてほしいんだ。リナたちならそれができると思うから、心配なんてしてないよ。
「さてその。お部屋借りてもいいかい?」
「姉ちゃんと話すんだろ? いいよ。廊下進んで2番目の部屋空いてる」
「ありがとね。ところで、なんでルピィは『姉ちゃん』で僕は『兄さん』なの?」
「ん? 気にするとこか?」
「もちろん……そもそも前はルピィも『姉さん』じゃなかった? 距離縮んだの?」
「兄さんには関係ないと思う」
「そうだけど!」
パーソナルスペースのセキュリティが強いリナ相手にどうすればそうなるのかわからないけどさ! なんかこう、なんか……普段は冥界にいるとはいえきょうだいなんだしさ……
このもどかしさをどう伝えよう。
悩む僕の肩をルピィが叩く。
「せっかく部屋貸してくれるってんだから、さっさと部屋行こうぜ、兄ちゃん」
「……」
「なにその目」
「キュンとした。ありがとう」
「……。さいですか」
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