気まずい空気
お見合いをしたことはない。
でも、お見合いの場ってこんな感じなのかとは思う。後はお若い二人で、と言い渡されたら、こんなに気まずい気持ちになるに違いない。いや、お見合いの場に来た時点で双方に気持ちがあるのなら、これはお見合い以上に気まずい場なのでは。
押水は目眩がした。
「ごめん、僕これから会議なんだ。じゃあ押水さん、杵崎くんのことお願いしても良い?」
東がそう言って、杵崎を残し、がさがさと机の上の資料とノートPCを持つ。
「待ってください、東さん……!」
「まずは杵崎くんのPC、セットアップして。さっき社内の紹介は済ませておいたから。今日、本店行くよね? 一緒に連れて挨拶してきて。出来たら業務の説明も!」
的確な指示。上司としては満点であり、尊敬できる点ではあるが。
押水の伸ばした手は取られることなく、東に置いていかれた。
残された二人。
「……座りましょうか」
荷物を持ちっぱなしの杵崎に対して、押水は気持ちを押し殺した声で隣の椅子を引いた。
「失礼します」
杵崎はスマートにその椅子に座り、持ってきたPCをデスクに置く。腕時計を確認して押水は口を開いた。
「二時半には出ます。それまでにPCのセットアップをして……本店の場所は分かりますか?」
「青山ですよね。電車移動ですか?」
「本当は車で行きたいところなんですけど」
窓の外を見る押水に倣い、杵崎もそちらを向く。青空、炎天下、猛暑。
梅雨が去ったと思えばこれだ。年々増す最高気温。温暖化は止まらず、熱中症で人類が倒れる未来の方が見える。
「駐車場が小さいので……電車で」
「分かりました」
その後、二時半までに杵崎のPCをセットアップし終えた押水と共にビルを出た。炎天下の中、二人で駅まで歩く。
何か世間話をしなくてはならない、と押水は考えていたが、暑さでその全ての話題が吹っ飛んだ。尤も、杵崎の方はそんな気もないようで気怠げな表情もせず、淡々と道を進む。
漸く電車の中で涼んだ押水は息を吐いた。
「杵崎さん、暑くないんですか?」
ワイシャツの袖は捲られているが、涼し気な顔。押水はスカートの中の太腿に汗が伝ったのを感じた。
「暑いです」
「……あの」
杵崎の視線が押水へ向く。車窓には、ビルと人とコンクリートとビル。空の青さがどこにも入ってこない。
伏し目がちな押水の睫毛の陰が落ちているように見えた。一瞬だけ。
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