どろっぷ!
鯵哉
年上の後輩
茹だる程の暑い日だった。
午前休なんてとらなければ良かった。いや午後休なら、この中を歩いて帰らねばならなかったのか。
ふらふらと考え、歩いているうちにビルの前まで来ていた。6階建ての、周りより一回り小さなビルの3階に押水のデスクがある。
受付嬢のいない入り放題なエントランスを抜け、エレベーターのボタンを押す。未だ外気の空気が強く、湿気と暑さがまとわりつく。ポーン、と昔ながらの音と共に扉が開いた。
3階についてビル掃除に入ってくれている
一つは昨年度退社して空席。他は係長ともう一人の同僚。どちらも店舗に回っているのだろう、とPCを起ち上げて今日のスケジュールを確認する。
同僚は外、係長は研修……研修とは。
ジャケットを椅子にかけて、押水は座る。とりあえず今日は本店へ行って、営業で使用する分の発注と、とスケジュールを組み立てた。
「おはよう押水さん」
声をかけられ、反射的に背筋を伸ばす。押水はそちらを向いて立ち上がり、「おはようございます」と頭を下げた。
仰々しいそれに
「早速だけど、紹介するね」
その言葉に押水は視線を上げた。東の後ろに見えた男性。押水よりは年上に見える。
空席だった販売部の席に異動になった人か、と押水は頭の中で繋げた。これで少しは一人の負担が減るだろう、と。
急に来ることには驚きだが、働くのなら今日が一番早く助かる。
「今日付で販売部に中途で採用になった
……中途、採用?
押水は聞き間違いかと、東を見た。
「今日から押水さんの後輩だよ」
「杵崎です」
聞いてない。
後ろの男性はしっかり無表情。それでも一般的にイケメンの部類に入りそうな感じの顔。背も低くなく、人生を順風満帆に生きているだろうというような。
押水は開いていた口を閉め、小さく頭を下げる。
「よろしくお願いします、押水と申します。私、今年三月にここへ中途採用されました、まだ若輩者でして」
ちら、と東を見た。
「勿論、押水さんが教育係だよ」
にこやかに東は言った。
聞いてない。
「よろしくお願いします」
杵崎は爽やかに返答した。
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