第3話 プレゼント

 二人で射撃に行ってから二週間ほどが経った。その間、市内で一緒に食べに行ったり、映画を見に行ってたりしていたわけだが、どうもこの頃リーシャの様子がおかしい。


「リーシャ?」

「はっひゃい」


 ただの呼び掛けにまで舌を詰まらせてしまっている。やっとの事で視線を合わせたり、手を繋いだりしても動じ無くなってきたのだが、逆に肝心のリーシャが動揺を露わにしている。


「その… 手離そうか? どうも様子が気になるんだが」

「いえ! 大丈夫です」

「にしても、少し赤いぞ?」

「全然平気ですってば!」


 とこちらを向き、視線が合って数秒後、すぐに視線を逸らされてしまった。私が何かしたか?

 今はリーシャに連れられ、通りを歩いている。行き先はまだ不明だった。


「しかしリーシャ。いったいどこに向かっているんだ?」

「いいから付いて来て下さい」


 言われるがまま、黙って引っ張られていると、町外れのとある店の前でリーシャの足が止まる。そこは明らかに、銃を取り扱っている店だった。


「拳銃のおじさーん。前言ってたリボルバーあるー?」


 十七の少女が話すにはいささか物騒な単語を放ちつつ、店の中に押し入る。拳銃のおじさんと呼ばれた人は、ちょっと待っとれ、と言い店の奥に行ってしまった。


「リーシャ。なぜ銃砲店なんだ?」

「おじさんが戻って来てからのお楽しみです」


 そう言いながら、笑顔で周りを見渡している。銃を見ているリーシャの碧い目は、いつもよりまして輝いていた。

 店の奥からおじさんが戻ってくる。手に長さ三十センチほどの箱を持っていた。


「これは?」

「こちら来た時、動かなくなっていたのを貰ったんです」


 箱が開けられ、三十センチ程のリボルバーが姿を現した。奇妙な迷彩が彫ってある事以外は普通のものである。


「珍しい柄だな。さては最近流行りのあれか」

「はい。魔力で弾を撃てるんですよ」


 確か、軍でも魔力を使った銃が試験的に採用されたと聞いたが、どうにも胡散臭い。


「ただ、扱いが難しいので… 私が見つけた時にはもう動かなくなっていました」

「そんなに繊細なのか?」

「はい。でも、直しておきました。私も使っていましたので。どうぞ」


 その奇妙で美しい銃を手に取る。グリップの形状は特注品かと思えるほど手に馴染んだ。


「それではハインさん。撃ってみましょう!」


 そして店の奥に連れて行かれる。奥には、小さめの射撃場があった。


「なぁ リーシャ。前に検査を受けたが適性はほとんど無かったぞ?」

「大丈夫です。そこに銃を置いて下さい」


 言われた通り正面の机に銃を置く。直後、リーシャが笑顔で私の右手を掴みあげた。


「リーシャ?」

「…ちょっとあっち向いてて下さい」

「ああ」


 リーシャが見えないように横を向く。十秒程何も起こらなかった。しかし、次第に指が生暖かい感覚に襲われる。そして何か堅いものが手の神経に直接、刺激を与えていた。

 慌てて現状を確認する。


「リーシャ!?」


 予想外、いや予想通りと言うべきか、リーシャが私の人差し指を咥えている。その口元から右手の平にかけて、拳銃に彫ってある柄に似た模様が浮かび上がっていた。

 そして数秒後、右手が解放される。


「これはいったい?」

「ちょっと… 細工を…」

「細工?」

「魔力を使い易くしたと言いますか…」


 確かに言われてみれば右手が少し軽くなった気がする。


「しかし… その、そういう方法しか無いのか?」

「…サービスです」


 ああ、この感覚。体内の緊張の矛先が心臓に向く感覚。そしてリーシャが赤面して目を逸らしているのを視認してこちらも恥ずかしくなってしまった。


「と、とにかく、これで撃てるはずです。これ、どうぞ」


 といって銃を押し付けてくる。その銃を右手で掴み、左手を添えた。正面に構え、照準を標的に合わせる。


「ダブルアクションですので、そのまま引き金を引いて下さい」


 引き金に指を掛ける。その瞬間、銃と手の神経が繋がったような感覚がした。

 そのまま指に力を入れる。撃鉄が上がり、シリンダーに何かが吸い込まれ、撃鉄が再び同じ位置に戻った時、銃口から弾丸が放たれる。通常のものより甲高い、金属が掠れる音が響き渡った。


「これが…」

「流石本業ですね! 私は最初全く撃てなかったんですよ?」

「ああ。だが、もう撃てん。体から魂が抜けそうだ」

「魔力切れですね。今日はこれだけにしておきましょう」


 たった一発で限界とは、我ながら情けない。やはり、通常の銃の方がいい。


「それで、結局私の魔力適性が見たかったのか?」

「はい。少し心配だったので…」


 何か心配をかけるような事をしただろうか。心の中で記憶を遡っていると、リーシャが銃を箱に戻す。

 

「これ… 誕生日プレゼントです!」


 よし、今日からこれを使おう。

 それより誕生日?今日が?私の?そう言えば、去年もこの日にハイデル家に呼ばれた気がする。


「確かに、今日がそうだったな。しかし良いのか? この銃高そうだが…」

「ダメになった内の一つです。全部直したお礼に一丁貰いました」

「そうか… リーシャの誕生日はいつなんだ? 私も君に何かあげたいのだが…」


 完全に失念していた。誕生日を祝うのは普通の行事だ。忘れていた方がおかしい事なのだろう。にしても、よく分かったものだ。エルムに聞いたのだろうか。


「三月八日です。楽しみにしてますね」

「来年だな。よし任せておけ。ちなみに欲しい物とかは…」

「それはハインさんが考えて下さい」


 それはそうか。相手の好む物を的確に予測できるのが愛の証と言った所だろう。

 

「まぁ 強いて言うなら…」


 もしかして教えてくれるのか?確かにそちらの方がありがたいのだが。


「指輪とか…」

「ふぇ?」

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