第19話「買い出しデートのはずだった」
【星野夜空】
「それで、USBってどこに売ってるんだ?」
札幌駅行きの地下鉄に乗った俺たち。ただ、実際のところ、俺はどこに向かうのかはよく分からなかった。
「え、えっとねぇ……一応は駅近のビッ◯カメラにでも行こうかなって思ってるんだけど……だめかな?」
「いや、別にダメとかはないけど……せっかく2時間くらい猶予があるからな。どっか寄らないかって……」
「あぁ……確かに――いやでも、やっぱり授業中だしダメっ。これでも私たちは今、実行委員の立場で行くんだからっ」
俺の甘い誘う文句に釣られそうになる森香。あともう一歩のところだったがさすが、時と場合を弁えている彼女には及ばなかった。
「まぁ、そっか」
「うん……で、でもっ——あれじゃん? お昼も私たち作業してたんだしさっ、ご飯くらい食べてもいい……気がする」
「ん?」
「あ、いや……やっぱりなんでもないっ」
「違う違う、そうじゃないっ! 俺も行きたいから、な、どこかファストフードでも行こうぜ」
「う、うんっ! あっでもこれは、もしかしたら駄目なことだから…………っ、二人だけの内緒ね?」
学校を出て数分。
電車の隅でコショコショと耳打ちされるシチュエーション。ありきたりなのかもしれないが、平日の昼間からされるのは少しだけ背徳感がある。
それに、わざと耳打ちするところがあざとい。
「っ——!? あ、あぁ」
「じゃ、久々のデートを楽しも!」
「で、デートなのか……これ?」
「男女だし、デートじゃないの?」
「ま、それはそうだが……やっぱりただの買い出しだし——っ」
「面倒なことはいいのっ! いいからいこっ!」
「うわっ——」
腕をガシッと掴まれ、わざとかと思うくらいにタイミングよく着いた電車を出て、俺たちは併設してある電気屋さんへ向かった。
「うわっ、意外と高いんだな……USBって」
「ちょ、ちょっと……ここ、お店の中だよ!」
ぼそっと本音が出てしまった俺にさっと近寄り、肘打ちをかます我が幼馴染。その小さな身体から放たれた打ち込みはまさにクリティカルヒット。俺のあばらとお腹の間に突き刺さった。
「っ——う!」
「あっ——」
そんな彼女の一撃に俺はよろけるも、その場にあった柔らかいものを右手で掴み、何とか持ちこたえることができた。
「っあ、あぶねぇ……」
「っあぁ……ぁ、ちょっ……ぁ……」
「ど、どうした? 森k—————っ⁉」
その瞬間、俺は気づく。
まさに、この場所。
ビック〇メラ、5階のメモリーカードコーナーにて、小さな悲鳴が響き渡る。
「っ~~ひゃ!」
一瞬にして、短い悲鳴。
聞き慣れた幼馴染の声とは違った、羞恥のこもった甲高い声だった。
「え」
しかし、気づいたときには遅く。
恐る恐る、変な感覚がする右側に視線を向けると————まさに俺の右手が柔らかいものを掴んでいた。
柔らかいもの。
無機物ではない、有機物。
ほのかに香るいい匂いと、肌から伝わる優しい温かさ。
まさに母性の塊である胸、いや——おっぱいを思春期なる俺の右手ががっしりと掴んでいた。
「お、おふっ――」
弾力と粘力。
どこか滑ッとした感触。
Eカップの化け物級のマシュマロが俺の手の中でムニュリと揺れる。
「——ご、ごめっ」
「っ~~~~~~もう‼‼」
身を丸めるように自らの胸を抱え込む彼女。
その場に座り込み、涙目で睨みつけてきたと思えば――その瞬間。
張り上げる様な頬の痛みと同時に、
先ほどの小さな悲鳴に加えて、乾いた音がパチンと響き渡った。
次回、デート編その2
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