第18話「文学少女、後輩との恋愛編その1」
【池上雄二】
一方その頃、僕はと言うと————大会議室にて最後の準備をしていた。それに今日は君塚先輩はいないし、しっかりやらないといけない。
まあ、もう一方で何があったのかは知らなんだけどな。
「はぁ……うぅ~~~~」
時間はもうすでに1時間が経っている。デスクワークで徐々に凝ってきた肩をグーッと伸ばすと、一気に疲れが現れてきた。
「いやぁ、案外疲れるんだなぁ」
自分のキャパはこれでも分かっているつもりだが、最近の無理が少し影響してきているのかもしれないな。
「ちょっと、外の空気吸ってこようかなぁ……」
そう言い捨てて、僕は文化祭準備で賑わう廊下を歩いて行った。
さすが、うちの高校は熱意が違う。
廊下に賑わう先輩や同学年の活気は想像以上だった。僕たち1年生も初めての文化祭にしては少し賑わいすぎるくらいにはうるさかったが、それ以上に先輩方の本気度はさらにその上をいっていた。
文化祭を作る立場である僕も若干気が滅入りそうだったのは内緒だ。
「あ、後輩君じゃんっ」
「え?」
すると、十分ほど学校中をぐるぐるし、玄関近くのベンチに座って休憩していると聞かない声がした。誰だろうかと思い、横を向くと——そこに居たのは同じ制服を着た見知らぬ女子生徒だった。
「ど、どうかなされましたか?」
「あぁ、でもそっか、話すのは初めてか……まぁ、初めまして後輩君」
「え、あぁ、初めまして……」
いや、誰なんだこの人。
すっごい馴れ馴れしいが僕は会ったことも話したことだってない。
「隣、いい?」
「ど、どうぞっ……」
何気ない顔で僕の隣に腰かけたが——ち、近いっ。ほのかにいい香りがしてきて、何故かドキドキしてしまっている。あぁ、駄目だ! 僕の好きな人は君塚先輩なのにっ。
「どうしたの、後輩君?」
「あ、いえ、何でもないですっ」
「そうかい? ならよかったぁ。あ、そう言えば自己紹介がまだだった。私は霧島魅音、よろしくねぇ」
「え、あ……よろしくお願いします。あ~~えと、僕は——」
「池上君だよね? 知ってるよぉ」
「え?」
「あれだよね、池上君がうちの森香に手を出したって言う後輩だよね?」
「——!? い、一応……そうですけど」
な、なんでそれを知っている?
そして、この言い方……もしかして僕、何か悪いことしたんじゃないのか?
うちの森香には手を出すんじゃねぇ‼‼
——みたいなこと、修羅場が待っているのでは?
くぅ~~、それはそれでめっちゃ熱いなぁ‼‼
「……いい笑顔だね」
「ーーっへ⁉ い、いや、これは‼‼」
「ははっ、何で怯えてるのよ……別に何もしないわぁ」
い、一体何なんだ。この先輩は。
中々表情が読めなくて、少しだけ話しづらい。
そして何より、君塚先輩に負けず劣らずの美しさと来た。やはり、男としての僕も心の奥底で疼いてくる。
「そ、それで……先輩はど、どうしたんですか?」
「え、あぁ、いや。森香に色々聞いてたからさぁ、そう言えば後輩君ってどんな感じなのかなってね、特に理由はないっ」
「そ、そうですか……君塚先輩が」
「うん、告白されたとか——どうしようかとかね……恋に迷う乙女、あれはあれでよかったわねっ」
ニヤニヤと笑みを浮かべていたが、少々気持ち悪かったのは言わないでおこう。見た目から感じる若干の腐女子感は否めない。
「……まぁ、なんとなく話したかっただけだからっ……何か、手伝ってほしいこととかある?」
「え、あぁ~~まあ、少しだけ?」
「今、森香も夜空君もいないからね、ちょっとお仕事しなきゃいけない感じ?」
「えぇ、まあ……多少はですね」
夜空って言うのは……あの幼馴染だって言う先輩の事か。もしかしたら、二人の関係性やら、大事なことが聞けるのかもしれない。
そう思い、俺は笑顔で口にする。
「じゃ、じゃあっ——先輩! 手伝ってくれませんか?」
「おっ、ちょっと、手——」
「こっちです‼‼」
そうして僕は不覚にも先輩の手を握り、なんの気もなく会議室へ連れて行った。
次回、森香と夜空のデート編。
お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます