第17話「にっこにっこにー!」
【星野夜空】
「ねぇ、USBの空きなくなっちゃったから駅まで買いに行かない?」
俺がそう誘われたのは、文化祭まで残り1週間。
文化祭準備強化期間の5時限目のことだった。
返事は言わずもがな。
相手が幼馴染、君塚森香なら——
「うん、いいよ」
――もちろん、イエスの二つ返事だった。
いやいやお前、実行委員の仕事はどうしたかって?
それはもう、進んでるんだよなっ。
あのクソッタレ実行委員ty…………じゃなくて、桜井実行委員長から回されてきた雑用もすでに全て終わらせている。
加えて、ちょうど今やっている着物喫茶の外装もかなり順調に進んできている。
おかげで、今日の小テストは悲惨だったがな。
――とまあ、そんなことはともかく、俺はウキウキな気分の中。担任へ外出許可書を発行してもらい、玄関で彼女を待っていた。
「ごっ、ごめ~~んっ、遅れちゃった!」
「いやいや、大丈夫だよ」
「ほんとごめん! 空を誘ったのは私なのに……」
「いいからいいから、俺はそんなに待ってないから早くいくぞっ」
「う、うんっ。あ、ちょっとまって!」
「ん、どうした?」
「私の許可書……出してないよね?」
「あれは代行禁止だからな?」
「あぁ……ぁ……」
すると、口をぼーっと開けて固まる森香。
学校では胸張って委員長しているし、俺の前だけではあざとかわいいラフな面を見せる。
そんな彼女がいつもは見せないだろうまぬけな表情を拝められたのは——最高にごほうb——じゃなくて、最高に気分が良かった。
本当に今日は運がいい。
もしかしたら、今日の帰りは雨なのかもしれん。
「私、許可書出してくるっ——じゃ、待ってて‼‼」
「あ、あぁ……」
すると直ぐに反転し、階段まで颯爽と駆けていく彼女。
額に汗を浮かべ、焦った表情をしている森香を指しながら噂する下級生。
さすが、次期生徒会長候補様だ。
「お、あれが生徒会長候補の森香先輩!」
「……うぅ、憧れるわね。すっごくきれいだし」
「かっこいい……うちの担任とタメ張ってるぞっ」
「君塚先輩かぁ……だめだ、綺麗すぎて石になる……」
「なにあの人、めっちゃいい匂いしたんだけどぉ‼‼」
興奮する女子数名。
そして、見惚れる男子数名。
いやぁ、森香も森香だがこの後輩たちも分かっているではないか!
森香先輩かぁ……俺も呼んでみたかったが、実は俺の方が生まれは早いし、言おうにも言えない。それなら、Vtuberみたく「ママ」呼びしてみちゃうか――って、それはちょっと違うし。
うわ、そう考えると森香を狙って告白して玉砕したけどまだあきらめてなさそうな感じの後輩がすげえ憎く見えてきやがった。
「うぅ~~違う違う!」
そうだな。
絶対にアプローチ成功させなきゃなぁ‼‼
よしよし、燃えてきた‼‼
燃えてきたぁ‼‼
まあ、萌えてもきたけどな。
「——何が違うって?」
「いやぁ、それがな、森香のことママよb…………え?」
「森香の事をママ呼び?」
「うわぁああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼」
「むぶっ――ぶぼぼぼっ! ひゃぁ! な、何するんだよ‼‼ 夜空君‼‼」
「っはぁ、っはぁ、っはぁ……な、な、なんで……ってお前、だれ?」
すかさず口を塞いだが——誰だこいつ。
知らない顔だ。
三つ編みに、丸眼鏡、そして極めつけに……光り輝く真っ暗な目。
身長は森香ほどは小さくはないが——俺よりははるかに小さい。
言葉に表すなら文学美少女と言ったところだろう。
「……本気?」
「あぁ、もちろん」
「私、泣いちゃうよ?」
「え、ちょ――それは勘弁」
「……はぁ、まあ、そうだよね……私が期待したことが間違いだったわねぇ」
「お、おい。なんか始めた会った相手にひどい言われようなんだが……これは夢か?」
「夢じゃないわ。まあ、知ってるもん。クラスでは陰で椎名君のおもちゃみたいだしね、夜空君」
「ん、聞き捨てならない言葉が——」
ていうか、なんでこいつ。
俺の事を名前で呼んでやがるんだ。俺は真面目に知らないんだぞ、この文学美少女の事なんて。
「なんで名前呼び……」
「あぁ、そうね、自己紹介ね。私は霧島魅音、森香の親友——あぁ、まあ一応友達ってことろかも……なんか自分で親友って言うのは少し違う気がするしねぇ」
「と、友達?」
「うん、そうね。だから名前知ってるってだけかなぁ」
「そ、そうなのか……森香が」
「結構話聞くからね……そこで期待してたんだけど、これかぁ」
「おい、お前さすがにぶっ飛ばs——!?」
「まぁまぁ……よっとぉ」
俺が殴りかかろうとしたが、文学少女とは見違えるほど身のこなし。一瞬で交わされる。
「それでさ、ここで何をしてるの? 夜空君?」
「え? あぁ、いや、森香と買い出しいくんだけどさ。あいつが許可書出し忘れて、そこで待ってるってわけ」
「ふぅん……あ、噂をすればっ」
頷く霧島さんが指を指した先には疲れ果てた森香がよろよろの脚でこちらに向かっていた。
「お待たせぇ~~っはぁ、っはぁ……あぁ、ってあれ、なんで魅音が?」
「あぁ、すれ違ったんだけだよぉ~~」
「そ、そっか。あ、ごめんねっ空! 待たせた!」
「大丈夫大丈夫っ、よし、じゃあ行くか?」
「うんっ!」
(^▽^)/
まさにこのような笑顔、にっこにこ!
太陽の様に晴れる笑顔はまさに処方箋。
俺の薬であるのは間違いなかった。
【霧島魅音】
「いやぁ、アレは——両片思いっていうやつやねぇ。後輩君には悪いけど、君が入る余地はないかなぁ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます