第10話「フラグ回収もりかちゃん!」
【星野夜空】
それからまた数十分後、俺は早速文化祭実行委員会が開かれる会議室に来ていたのだが————それにしても凄まじい過疎っぷりだ。
俺を含めて、先程扉前でもらった実行委員の腕章をつけているのは9、10、11、12——そして俺を含めて13人。いくら自己申告制でクラスから一人出す必要はないからと言って、その数の少なさには目が点になるな。
これは、森香がギャーギャー言っていたのがよく分かる。文化祭の初仕事で重労働に加えて、聴衆に囲まれながら男子を振るとか——勝ちなのか負けなのか良く分からんムーブをかましていたと考えると目から涙が出てくるぜ。
目から涙。
それすなわち、当然で当たり前至極当然であるがな。
とはいえ、本当に人数が少ないがこんなんで惰性の生徒会とやる気満々な学級委員長会と人数不足な実行委員会で文化祭なんか作れるのだろうか、甚だ疑問だ。
もういっそ、生徒会と学級委員長会を変えてしまえばいいと思ってしまうがそんなこと、無理だろう。
それにまあ、今はとりあえず森香の勇姿を眺めるとしよう。
それから数分後、大会議室に総勢50人近くが集まった後、第一回文化祭会議が始まったのだった。
【君塚森香】
ようやく、文化祭だ。
今年は絶対、良いものにするぞ!
そんな意気込みの中、張り切った私は少し恥ずかしめを受けるということをこの時の私はまだ知らないのである。
「それでは、これから生徒会主導の下、文化祭実行委員会を始めます。まずは学級委員長会代表の2年、君塚森香さんよろしくお願いします」
「はいっ」
背筋を正し、スイッチを切換える。
皆の前に出るときは決してへまをしない、そんな委員長の自分に心を入れ替える。
スラリと立ち上がり、揺れる黒髪を横に流しながら生徒会副会長の隣に向かった。資料を置き、ここにいる全員の手元に配ると私は口を開いた。
「副会長から預かりました、2年の君塚森香です。昨年に続けて、今年も文化祭の実行に関われて光栄です。今年もいいものにしていきましょうっ」
カッカとプリントを机に叩き、髪の毛を耳の後ろに掛ける。
そして胸ポケットから眼鏡を取り出して、深呼吸をした。
「……それでは、早速進行させていただきます。私からは実行委員会の紹介です。これからは実行委員会の方々とも本格的に仕事をしていくので、お互いに名前を覚えておいてください。では、1年生から名簿順に自己紹介お願いします」
私がそう言って、座ると後ろの方に座っている1年生から自己紹介が始まった。ニコニコと自信気に話す女子生徒や面倒そうにボソっと呟く男子生徒もいて、その色は様々だったが今年の実行委員はそれなりには良さそうなのは確か。
これなら、私の計画する文化祭も出来そうだし、実行委員長もすぐに決まってくれそうだ。
「では、2年生もお願いします」
1年生がひとしきり自己紹介に突入する。1年生よりも見知った顔が多いこの学年は始まる前に目を通しているため、プリントを眺めながら終わるのを待っていると——
「2年の星野夜空です。皆さんをサポートできるように尽力していくのでよければ仲良くしてください。よろしくお願いします」
ん、空耳か?
思わず首を傾げたが、恐る恐る声の聞こえる方へ目を配るとその疑問は確信へと変わる。
「ええええ⁉ なんで空君がいるのっ—————ぉ、ぉ……ぁ」
――――あ。
時すでに遅し。
そんなことわざがこの状況に最も合っているだろうか。
考えられるだけマシだったが、コンマ1秒の時間が経つに連れ、私は内側から熱くなっていく。見なくても分かる、凄まじく顔が真っ赤である。
そんな真っ赤なりんごのようになった顔をゆっくりと周りに向けると、会議室にいる先生も含め全員がすでにこちらへ驚きの視線を向けていた。
「あ……t、ぉ」
口から零れ出たのは言葉にもならない星屑。
その瞬間、私は理解する。
恥ずかしいことをしてしまったのだ、と。
やばいやばい、手が震える。
恥ずかしすぎる。
言ってしまった、空君って、愛称で言ってしまった。私以外の子は絶対にそうは言わないから、分かりやすすぎてやばい‼‼
しかも、君付け! 微妙にみんなの前であることを分かっているような言い方だよ!!
あはは―—と笑いながら照れる空君自体はかなり可愛く映ったが——私の心情はそれどころではない。
先生もいる、後輩も、先輩もいるこの空間で幼馴染がいることに驚き、あろうもことか愛称で叫んでしまった。
こんな恥ずかしめじゃ、もうお嫁に……腹を切るしか……。
ここはもう切腹しか——っ。
と自らのボールペンを手に持つと、その瞬間。
私の動悸がおかしいことを察したのか、空君の隣に座っている優しそうな女子が自己紹介を再開した。
なんてイイ子……心の底から恥辱と妙な関心が湧き出て、ぶるぶると震える。
一生その子の顔は忘れないと神に誓いながら、意気消沈しかけた心の中で大声で叫ぶ私。
ナイス、女子!
あんたはもう親友だよ‼‼
顔が真っ赤になっているだろう私はすぐさまプリントで顔を隠したが——その後の進行が同様でぐちゃぐちゃになったことはここだけの秘密にしておきたい。
「先輩っ」
会議終了後、恥辱に苦しめられた私が自らの席で撃沈している最中。
優しい声と共に、ポンポンポンと肩に暖かい何かを感じた。
「ん……あぁ」
「大丈夫ですか?」
「むぅ……大丈夫なわけないでしょぉ~~」
「ははっ、そうですね。あれはもう、笑えましたねっ……っっ、だめだ、思い出すと笑いが——っはは!」
後ろの方でくすくすと鼻息が聞こえる。
こやつ、私の事が好きだったんじゃないのか。
「笑うなぁ……もう」
「いやぁ、先輩もあんな顔するのかって思いまして……まぁ、さすがに笑っちゃいましたけどっ」
「わ、笑うなし‼‼ 私だって――――あんなつもりじゃ……」
「分かってますよ? でも、先輩って意外とおちゃめな部分もあることが分かって良かったですよ~~」
「……それはいじめだよ!」
「いじめてないです、事実です!」
ぐうの音も出ないが————女心というのを分かっていないぞ、この小童は!
って、いつまで経っても空からの告白待ちな私も小童小僧なのかもしれないな。
———―じゃなくて‼‼
「……もう、いじわるぅ……」
「ははっ、涙目になってぇ~~先輩も可愛いですね」
「か、可愛いとか言わないで‼‼ 余計に恥ずかしくなるからやめて‼‼」
ほんとうざいよ、この後輩。
池上君と一緒に居ると気が狂ってしまうし、どうにもあしらうこともできないし、隙を見せたらこうやってやられるから、苦手だ。
「ははっ、最高ですね」
「もう、嫌い」
「二度目ですね」
「え?」
「先輩から振られるのは二回目ですねっ」
ニコっと笑みを浮かべる池上君。
この笑みも、また少し苦手だ。
「……もう、うるさいし」
「ははっ、じゃあ僕も帰りますね、先輩っ!」
「……はいはい、じゃあね」
ぼそっと顔も見ずに手を振って、私は一人、教室に残った——————
―――――――わけではなかった。
「……森香」
「なぁに……えっ、あ——空」
<あとがき>
文化祭編スタートということですが、コメディと恋愛混ぜながら書くのは結構難しいですね、真面目に十万文字まで告白させない衝動を抑えられるか分からないですが頑張ります(笑)
まあ、女の子は適度に照れてた方が好きです。
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