第9話「触感と文化祭準備」


【星野夜空】


「やばぃ……忘れられねぇ……」


 その日の夜、俺は一人。

 自室で眠れずにいた。


 何を隠そう、数時間前。


 すでに帰宅した森香に危うく抱き着いてしまいそうになったからだ。


 いや、あろう事か、キスまでしようとしていたのだ。


 ほんとにまったく、やれやれだ。


 こうも制御不能になりかけると自分の性欲にも呆れてしまう。


 いくら彼女のことが好きだとは言え、段階がある。幼馴染だからいいとか言われても俺は嫌だ。


 本音を言えば、告白していない段階でそういうことはしたくはない。あくまで俺は——誠実に。そこは曲げたくはない。


 ん、なんだ、じゃあさっさと告白しろよって?


 うるさいわ、俺だってしたいんだよ‼‼ したいけど、できてないんだよ!!


 そんな御託はよしとして、とにかくだ。


 そろそろ学校祭もあるし、それに向けて色々算段を付けておかなければならない。何より、森香のことだ。また変な輩が告白しに来るかもしれない。


 後輩の事はもう終わったが、実際のところ脅威はそれだけじゃないしな。


「ふぅ……だめだだめっ。しっかりせねば!」


 そうして溜息を洩らし、俺は目を閉じた。





 翌週、ついに月末がやってくる。

 そこで、俺たちのクラスにもこんな話が回ってきていた。


「あと一か月でお待ちかね文化祭ということだが、文化祭の大まかな運営を指揮する実行委員会を今年も募ることになった。そこで、やりたい奴はいないかぁ~~、まぁ、いっつも大して集められないんだけどなぁ」


 苦笑いを浮かべながらぼやぼやと話す担任。


 確かに、毎年学校祭実行委員の数は少なく、そのおかげか生徒会や学級委員会に仕事が回ってくることが多い―—と森香が話していた気がする。


 心なしか、窓側に座って黒板を眺める彼女の表情が暗く見える。


 そんな彼女を見つめながら、俺は拳を固く握りしめていた。


 

 そう、ここは好機である。

 


 仕事と称して森香と一緒に居ることで他の男をより付けない! という建前で巡回と称して、一緒に文化祭デートをする! という本音を兼ね備えた千載一遇のチャンスなのだ。


 名前にして、「一緒に文化祭作って付き合ってしまおう‼」作戦、である。


「おい、どうしたよ、ニヤケ面してよぉ」


「——おっと、なんでもない」


「? 夜空がそうやってニヤケてるのは大抵……妄想している時だからなぁ、どうせ、あれじゃないのか、君塚さんとの文化祭想像してるんじゃないのか? ははっ」


「……違う」


「おお、こぇぇ」


 隣でごちゃごちゃと言ってくる翔也を一瞥し、すぐに俺は手を挙げる。


 あまり人気のないものに手を挙げる人は珍しいのか、クラス全員がこちらへ視線を向けてくるが——今更、決意は変えない。


「お、星野やるか?」


「はい、僕やりますっ」


「そうか、まあ委員会も入ってないもんな。分かったよ、俺が生徒会にそう言っておくわ」


「お願いしますっ」


「あいよぉ~~、んで他にやりたい奴はいるかぁ?」


 

 ぼやけた先生の声が再び響くが、結局、クラスで手を挙げたのは俺だけとなった。







【君塚森香】


 この後は——実行委員会への仕事の割り振りと、あの腐った生徒会に色々仕事回したりしないと……ってあぁ!! もう、考えることが多すぎる‼‼


 と、6限目の実行委員会決めの時間。


 私はすでにこの時間のことは考える必要もない上、なにより文化祭が近づいてきて仕事が増えてきたためか頭の中はそれどころではなかった。


 だが、ここは自宅ではない。頭を抱えるわけにもいかずに平然を装いながら頭をフル回転していく。


 生徒会長たちには挨拶を決めてもらうことやら、全体的に簡単に作ったシナリオ台本を配ったりすることや、今日中に決まる実行委員会メンバーへ送る仕事表も作らなきゃでいっぱいいっぱい。


 ほんと、あの惰眠を貪る生徒会のせいでもある。何とかしてほしいとは思っているが今更、何を言っても変わらないことは分かっている。


 何も言えないのが辛い所だ。


「はぁ……」


 



 そうこう考えているといつの間にか授業は終わっていた。


「あれ……」


「森香、大丈夫ぅ?」


「え、あ、あぁ……」


 ぼーっと机に座っている私に声を掛けてきたのは霧島魅音きりしまみおん。一年生から同じクラスの仲のいい友達だ。


 最近ではあまり少ない、三つ編み丸眼鏡美少女。と個人的には思っているのだが、醸し出される雰囲気が地味なのかあまり男子が寄り付かない。面倒見がいいし、彼氏の一人はいてもおかしくはないのだけれど。


「ほんとに大丈夫? 最近、疲れてない?」


「あ、あぁ……まあね」


「まぁねって……もう、そんなんで体調崩すとのとかはやめてよぉ~~」


「そんな、崩さないよ! だって文化祭だよ、張り切るやんね普通!」


「……それが張り切り過ぎだから言ってるんだよ、もう。どうせ、星野君が同たらって言うんでしょ?」


「——っんあ⁉ な、なわけないじゃん‼‼」


「……あからさまぁ、見え見えだよ?」


 うぐ。

 

 さすが冷静沈着な目を持つ彼女。将来は裁判官になりたいとか言っていたし、その言葉はあながち間違ってもいないほどに鋭い洞察力は伊達じゃない。


「……違うし、絶対」


「ほんと? 昨日とか何かあったんじゃないの?」


「ない」


「即答、か。ってことはもしかして、星野君がへましちゃったのかなぁ……」


 首を傾げながら考え込む姿はまるで探偵だ。


 それにしても、あっているのが怖い。あのヘタレが襲い掛かってこなかったのが————こう、なにかちょっと悔しいというか。男なんだから、もっと興奮してほしいt——って、違う‼‼


 危ない、いつの間にか彼女のペースに持ってかれていた。


「もううるさいしっ……私、行くから」


 私が唐突に言い捨てて、席を立つと彼女は見透かしたようにバイバイと手を振る。


「はいはぁ~~い、頑張ってねぇ~~」


 ほんと、気が狂う。

 私の心を読むのはやめてほしいものだ。


 


<あとがき>


 ほんと、昨日は投稿できなくてすんません!

 ありがたいことに100フォロワー突破しましたね。褒められるには結果が付かないのが悲しいですが次作の事も考えながら頑張っていきます!!


 PS:加藤純一のイナイレ2ブリザートが楽しみ。

 

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