第4話「みんなは、誰がすきぃ?」


【星野夜空】


「——————ッ森香‼‼‼‼」


 彼女が後輩と帰る――その事に、どうしても抑えきれなくなっていた俺は帰り道を引き返していた。


「っ⁉」


 しかし、どうやら俺の嫌な予感は当たっていた。

 そう、告白されたという当の本人は道路の脇に独りでに座っていたのだ。


 周りに誰か――いや、誰もいない。

 もしかして、何かとられた、何かされたのか?


 沸々と込み上げてくる想像がどんどんと俺を蝕んでいく。


 まさか――後輩の奴が、森香に何かしたんじゃ。そんな最悪の想定も頭の中を過ぎる。


 そんな考えのせいか、人目の通る道ではなかったが思わず叫んでいた。


「そ、ら……」


「お、おい!? 大丈夫か、そんなとこ座ってっ——ほら、えっと、寒くないかっ」


「あ、ありがと――」


 少し震えていた森香を見て、俺はすぐに着ていた制服のブレザーを掛ける。


 季節はまだ春。

 ゴールデンウィークもまだ先のこの時期じゃ、夜は空気が寒く乾燥するし、森香のワイシャツ一枚の格好では寒すぎる。


 俺がゆっくりと手を添えて、彼女を立ち上がらせると呆気を取られたように目を丸めながらこちらを見つめていた。いつもの俺なら、ここで悶えてしまうの間違いないが状況が状況のためそうは思えなかった。


「ほんとに大丈夫か? 俺、飲み物とか買ってくるし——家でご飯たべていk——」


「い、いいのっ」


 近所のスーパーに向かおうと踵を返す寸前、彼女が制服の袖をがっしりと掴む。ぐいっ——と引っ張られて、襟が首に刺さり「げほっ」と空気が飛び出してしまう。


「あ、ごめ――そのっ」


「う、ごほごほっ……だ、大丈夫大丈夫っ……」


「……そ、ら」


「いや、だ、大丈夫だからっ」


 まったく、示しがつかん。かっこ悪いぞ、ほんと。

 幼馴染がピンチだったのに、俺が心配されてちゃ何もできない。


「……ごめん」


 咳ごんだ俺を見て、申し訳なさそうに俯く森香。

 なんで君がそんな顔をしているんだ、とそう口にしようとした瞬間。


 彼女は袖をさらに強く掴み、次にこうしゃべった。


「……私……振った、んだ……」


「……え」


 急、というより唐突だった。

 

「え?」


「い、いや……そのさっきまで彼といっしょで、その……振ったんだけど……ね」


「ふ、振った?」


「うん……そう、告白してきた後輩君のこと」


「え、ぁぁ……そうか」


 あまりにも急な言い様で何を言われたのか、一瞬見失っていたが冷静になってみると、彼女の言葉はすっと入って来た。


 振った。


 つまり、俺の心配は杞憂だったということだった。


「…………ふぅ」


 あ、と。


 思わず、本音の吐息が漏れた。


 今まで考え込んでいたことがすべて杞憂で、何も心配することなんて何もなかった。その事実から思わず、緩んだ口から漏れ出てしまう。


「ん?」


 案の定、森香が上目遣いも兼ねてこちらを見つめている。

 不思議そうな視線が少し痛かった。


「あ、いやぁ————なん、なんでもない」


「……?」


 ギロリ。

 そんな擬音が耳に届く。


「なんで、そらがビクッとしてるんだよぉ」


 しかし、どうやらそんなん心配も意味もなかったようで、彼女はよろけながらそう呟いた。


「え、いや……なんでもない」


「うそだぁ」


 ニヤリと微笑む彼女。


 先ほどまでの空虚な表情はどこに行ったのやら、俺の大きめなブレザーをぶかっと羽織りながらお腹当たりによっかかってきた。


「……っ」


 ぐにゅりと触れる柔らかい腕に、先程まで固まっていた意思など脆く溶け、いつの間にか普段通り彼女のペースに飲まれていた。


「……そら、ここまで来てくれたの?」


「え、うん……まぁな」


「えへへ……ありがと」


 ふにゃりとした笑みを見せ、俺の手を引いて彼女はゆっくりと俺の家の方角へ向かった。







「んで、なんで俺の家に来たんだよ……?」


「え、だめぇ?」


「いや、別に駄目とかじゃないけどなぁ……」


「じゃあいいじゃん、ほら続き続き~~」


 いやはやどうしてか、さっきまでの不安やら心配やらは夢のように思えるくらい。

 

 強引に家に上がり込まれ、尚且つ押入れの奥底にしまっていたジェンガを引っ張り出され、俺たち二人は子供の頃の様に遊んでいた。


「ほら、次」


「はーい、よいしょっと」

 

 告白の話はもうしないのか?

 もしくはしてほしくないからこうやって俺の家で気を紛らわしているのか?


 そんな憶測が頭の中で飛び交う中、彼女は真ん中あたりから一本抜いて、俺に寄りかかる。


「な——急になんだよっ」


「えへへぇ、集中力落とす攻撃ぃ~~」


「なんだそれ……残念だが、今更俺はそんなんじゃうろたえないぞ」


 否。

 無論、当然のごとく嘘である。


 心臓が爆発しそうでやばいし、もはやその鼓動が聞こえているんじゃないかとさえ思う。


 しかし、そんな俺の心配はよそに彼女は楽しくジェンガを続けていた。


「……うへぇ、ほら、早くやらないと時間切れだよ?」


「時間切れ? なんでジェンガにそんなルールがあるんだよっ——て、あぁ!?」


 すると、小突いた肘が台に当たり、一気にタワーが崩れる。


「あぁ~~壊しちゃったぁ」


「お、いや、俺じゃないだろ」


「もしかして、言い訳? ダサいよ?」


「別に……そういうわけでもないけどさ……」


 ニヤリと笑みを見せる彼女。

 いつも見せてくる清楚さはそこにはなく、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している。


 濁さず言えば、少しだけエロかった。


 一体、告白で何があったんだ。

 そう思っていた俺は、静寂広がる自室で隣に座っている森香に問いてみた。


「なぁ……振ったって言ってたけど、大丈夫なのかよ……」


 口にすると、彼女の瞳が小刻みに揺れた。


「……いやぁ、それかぁ……」


「別に駄目なら聞かないけど、だって……全然何も言わないからさ」


「わざと言ってなかったし」


「……じゃあ、別に言わなくても」


「いや、言う」


「え?」


「言う」


「そ、そうか……」







 そして、その後。



 彼女の口から伝えられたのは後輩、池上雄二という男子の告白の流れだった。特に何とも言えない。でも、凄く頑張っていて、私の方が子供みたいだったと言う彼女。



 どこか煌びやかに美しく光る瞳にを見て、ふと思ってしまった。



 朝まで、告白しようと意気込んでいた俺の思いはどこに行ったのやら、と。

 

 ぐっと拳を握り締め、告白しようとした瞬間。


 ——その瞬間だった。


 またしても彼女が俺よりも先に口を開いたのだ。


「……私、(好きだから)……」


 え?

 思わず、固まった。


 聞こえたような、そんな風に聞こえてはいないような?

 今、森香は何を言ったんだ?


「……?」


 聞き間違いではないかと、自分の耳を窺った。まさか、そんなこと……はない。そう思った。


「うん、それじゃ、私帰るね……」


「え、いや——まっ」


「じゃあ、また明日っ——」


 そう言い残し、彼女は足早に帰っていく。

 どこか悲しそうな背中を俺は見つめていることしかできなかった。


 

 

<あとがき>


 日本サッカー男子、決勝T出場決定‼‼‼‼‼‼

 同い年の久保建英選手が3戦連続ゴールということで、カクヨム作家の僕も負けていられませんね(笑)


 今、息抜きで異世界ラブコメを試しに書いています。

 よかったら読んでみてくださいね!!

 


 




 


 

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