第3話「僕だって好きなんだ」

【池上雄二】


 僕の名前は、池上雄二いけがみゆうじ

 公立札幌第二高校に通う高校一年生だ。


 どこにでもいる、静かで陰気な男子高校生————になるはずだった。


 中学生の頃は人の前に出るのが苦手であまり人と関わることも出来なくて、リア充やら陽キャラやらに虐げられてきたことだって数多。


 そんな自分を直したくて、頑張って勉強して進学校に受かった僕は高校デビューも果たした。


 信頼を勝ち取って学級委員長にもなり、将来は生徒会にも入ろうかとも考えているくらいにもなった。


 清々しいほどに熱烈に変わった高校デビューを果たした僕は、クラスにも恵まれ、中学の頃とは打って変わり多くの友達や、一緒に帰ったり遊びに行ったりする親友と呼べる友達も出来た。





 しかし、何よりも大きく変わったのは恋心の方だったと思う。





 委員会に行って、僕はとある先輩に出会ったのだ。


 その先輩は君塚森香きみづかもりかと言った。


 僕自身、かなり変わって、真面目になって、メンタル的な部分も強くなってカッコよくなったと思っていたのだが——それ以上に彼女は凄かった。


「先輩、私的には過去のデータから鑑みて、全校生徒の注目を集めるならこの方がいいかと思います」

「いえ、そこはこうした方がいいかなと」

「その書類は私がまとめてやっておくから、あなたは帰っても大丈夫よ? ほら、無理しなくても大丈夫っ」

「ほらほら、こうした方が楽にできない?」


 後輩には体を気遣ってアドバイスもくれる。

 先輩には意見を出し、自分の意思を曲げずに対等に話し合える。

 学年代表を軽々とこなし、普段の委員会では積極的に意見を出す。


 格好良くて、憧れで、雲のさらに上にいるような、高嶺の花。


 僕にとって、引く手数多な到底手の出せない先輩だった。


 そんな、いつも助けてくれる先輩の事を追いかけてきた。


 後ろをついて、背中を見て、見上げながら歩んできた道のり。自分のために頑張ってきたと思っていたがそれは、いつの間にか先輩のためになっていて、認めてもらうのに必死だった。


「いっつも頑張ってるね、私、感心してるよ」


 そんな言葉を掛けられたのは数日前の委員会。


 居残りも続け、生徒会に向けて秋から始まる文化祭についての案だしで僕はいつも以上に頑張った。


 それが、認められて――嬉しくて、ぐっと拳を握り締めて決意した。


 告白しよう。


 認められなくても、抱いた恋心には正直に真っ直ぐになろうと。

 これこそ誠意なんじゃないかと、親友にも相談して告白することを決めた。


 そして、その次の日。

 僕は先輩を特別に開けられた屋上に呼び出し、全力で告白した。








 それから————、一日。


 朝から、授業も委員会も全く集中できなくて、このまま失神してもおかしくないくらい心臓がバクバクなって、込み上げてくる緊張でどうにかなってしまった。


「その、私……昨日の告白の件で言いたいことがあるんだけど、今日は大丈夫かしら?」


 そして、先輩から一生に帰ろうというお話。


 光栄だ。


 こんな僕が憧れの先輩と一緒に帰ることが出来る。


 まあ多分、結果は決まっている。


 先輩には幼い頃を共にしてきた幼馴染がいる――そんなこともずっとそばで聞いてきたから知っている。


 だから、きっと、僕は振られる。


 先輩が幼馴染の男子と一緒に居るときの楽しそうな表情と言ったら、甘々イチャイチャヒロイン並みなんだ。


 最初から振られることは分かっている。


 でも、それでも、一緒に帰っていただける一生に一度の光栄。


 最初で最後を噛み締めなくてはならない。


 そんな心意気の中、先輩と二人。

 周りの視線に晒されながら僕達は帰路に着いた。


「あのっ————」






【君塚森香】


「あのっ————」


 そこで、私は切り出した。


 言うなら今しかない。明日に伸ばしたところで良いことなんて何もない。彼のためにも、私自身のためにも今言うんだ。


 憧れの的である私にだってそれなりの責任がある。


 心の中で何度も念じて、私は自らの硬い口を開いた。



 

 連ね、重ねた言葉。

 彼にとってはとても重く、そして酷く聞こえたのかもしれない。


 言い終わった後に、そんなことを考えてしまって凄く胸が苦しかった。


 ――しかし、数秒後。


「——そ、そうですかっ……へへっ、ありがとうございますっ‼‼」


 予想外、もしくは予想以上。

 とにかく、私には考えられないくらいに。

 返された言葉は私の不安も掻き消すほどに明るかった。


「先輩、どうしたんですか? そんなあっけを取られた顔して?」


「……え、だ……だいじょ、うぶ……な、の」


 あっけもなにも、オチも全部取られた気がする。

 彼のあまりにも堂々とした格好に、私は驚きを超えて、驚嘆していた。むしろ、冷静ですらある。


「あははっ……大丈夫です! 僕は全然!」


「そんな……でも」


 でも、だって。


「振られたのは、僕の方だって?」


「——え」


「先輩、図星ですか? 全部、顔に出ちゃってますし……ははっ、分かりやすいっ」


「べ、別に——そういう意味で言ったわけじゃっ」


「知ってますし、それに……振られたのが僕って言うのは間違ってないです」


「そ、そんなこと言ってない!!」


「冗談ですよっ……はははっ……」


「うぅ……意地悪ぅ……」


 もはや、私はその場の主導権を握っていなかった。


 彼の一生懸命な思いを受け止めて、考えて、それでも彼の気持ちは受け入れることは出来なくて……そんな波乱の展開をぶつけられたはずなのに彼はその場にツンと立っている。


 それが不思議でならなかった。


「でも先輩! そうやって改めて言うのは失礼ですよ? これでも、案外悲しいので……そのくらいは分かってほしいです!」


「あ、いや……っごめん」


「っ、ふふっ、はははっ――」


「へ?」


「いやいやぁ、なんか先輩の方がうろたえてて……僕が落ち込むのが馬鹿みたいで……ね、ほんと、ほんとにですよ? 先輩」


「ぁ……な、んで」


 もはや、私はさっきから言葉を反芻させることしかできていなかった。


「先輩、好きな人がいるんですよね?」


「——え?」


 ここまで来てもなお、私はまた虚を衝かれた衝かれた。

 好きな、人?


「な、なななな——なんでそれ、それを!?」


「やっぱりですか……ははっ」


「あ」


 はめられた。


「ややや、べB。…。ちあg、ちが、ちがうxもん‼‼」


 ニヤリと、彼が微笑んだ。

 虚勢を張ろうとしたのが裏目に出てしまった。


 というか、なんで彼がそれを知っているんだ? ほんと、なんで——!?


「噛みまくり……焦り過ぎです」


「仕方……ないし……」


「そうですね、仕方はないですね」


「……もう…………」


「そうですね、先輩。僕ですね、結構、先輩のこと見てたので割と知ってますよ?」


 何を知ってるんだ?


「え、どこで、でも私……何も言ってないし」


「いっつも帰ってるとき、楽しそうじゃなかったですか? 周りから見ても異質なほどに凄かったですよ?」


「え、いやそんな——」


「あのいちゃい付き具合と言ったらもう……ほんとに」


「——や、ほんとやめて‼‼」


「あはは~~、可愛いですね、先輩」


 調子が狂う。

 なんで、急にこうも変わったのこの子。


「でも、先輩……僕はですね、大丈夫なんですよ?」


「え」


「好きで、告白したら玉砕しましたけど…………また告白してもダメなんて誰も言ってませんし、頑張りますよ、僕!!」


「え——」


 もじもじしている私よりも、上から彼は霞む瞳を擦ってぐっと拳を握り込む。

 その拳が微かに震えているように見えたのは気のせいだろうか。


 しかし、そんな気のせいも気にする素振りなんか見せずに——彼は強く、こう叫んだ。


「先輩に認めてもらえるくらい頑張るので————そのときはまた、告白しますっ‼‼」


「か、勝手になんできめt——!?」


 温かい感触が両手に広がる。

 彼がその大きな手でがっしりと私の手を握っていた。


「その時は、また聞いてくれますか⁉」


「——っぁ」


「いいですか、先輩!?」


 輝く瞳。

 私と視線を合わせ、肩が震える。


 もうすでに、夕焼けが空を染めている中。

 彼のその目は太陽のように明るかった。


「……」


 あまりに急な出来事で何も言えない。というか、口がパクパクして声が出ていかない。


 しかし、彼はまだ止まらない。


「おっと、時間ですね……じゃ、また明日の委員会でよろしくです、先輩‼‼」


 止まらず、私の事は考えず、どこかおぼつかない走りで彼はその場を飛び出していった。


「え……まって……」


 零れた言葉も虚空に消え、伝わることはない。

 大きかった背中はいつの間にか、見えないほどに小さくなっていて、一気に時が進み始める。



 空気が肺に入ったのを感じ、一気に力が抜けていく。


 その場に取り残された私は消えゆく陽の光に合わせて、ばったりと座り込んでしまった。


 







 




 なんて、すごい。

 すごすぎる。


 委員長に向いてるとか、真面目ですごいとか……どうでもよくなる。

 そんなの関係なく、ぶっちぎれていたのがあまりにも次元が違って。


 おかしい、ほんと、おかしいよ。


「————っ‼‼」


 通学路を歩いていた私は路側帯の外側で塀に背中を預け、いつの間にか大粒の涙を流していた。


 失恋しているのは向こうなのに、泣いてしまうのはなぜなんだろうかと考える余裕もなく、声も挙げずに泣いてしまった。





「——————森香っ‼‼」







<あとがき>

 こんばんは~~、もうすぐ夏休み。

 待ちに待った二か月の夏休みがすぐそこでウキウキなふぁなおです。


 いやはや、第一章にしてはあまりにも早い修羅場のような分岐点の様な、告白の

間を描いてみました。個人的に、告白するシーンは好きなんですが書くとなると工も難しくなるのはなかなか慣れないですね(笑)


 さてさて、プロローグはこんなもんで、ここからが二人の物語の本番。絶対に付き合うことは決まっている二人の10万文字の青春プロローグをご覧ください。


 日間ラブコメ52位、週間ラブコメ110位ということで、かなり下がってしまいましたが星の割合が高いのでまだあきらめていません。なんとか、注目作に載ること。あそこでバーンと伸びて、えげつない程に伸びることを目標に頑張っていきます‼‼


 ☆評価、コメントレビューもぜひお願いします!!



 PS:絶賛天使様5巻読書中



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