第2話「告白への一歩、前に進めば前進する」
時は、昨夜まで遡る。
【君塚森香】
「……はぁぁ~~、つい逃げ出してきちゃったなぁ……」
後輩からの告白、そして幼馴染への気持ち。
気持ちの整理が付かない中、私は彼と別れ、帰宅したのだった。
こんなことで悩んでしまうとは我ながら情けない。
皆の前に立つ委員長として、次期生徒会長としてもっと自信をもって行動するべきなのになぁ。
「あぁ……もぅ、なさけなぁ~~い!」
くそぉ!
全部あの後輩君のせいだよ、まったく!
私に余計なことを考えさせやがって。
もしも私を自分で夢中にさせようとしているのなら、その作戦は成功している……大概の男子なら私に近づこうともしないのに、ひどいことしてくれるよ、ほんと。
「……ねぇちゃ~~ん、どうしたのぉ~~?」
ベットにうつぶせになり、大好きなうさちゃん(ぬいぐるみ)をぐりぐり抱きしめていると隣の部屋から聞き慣れた声がした。
「なんでもなぁ~~い」
「うそだぁ、ねぇちゃんがそうやってバタバタしてるときって悩んでる時でしょ?」
ガチャリ。
「……ち、違うし……ていうか、なんで勝手に入って来てるのよ!」
「え、だめなの?」
「だめだめ、だめ‼‼‼」
バッと起き上がり、抱きしめていたうさちゃんを寄せながら起き上がる。
しかし、振り返った時にはもう遅く、弟、
「——もう‼‼」
「ねえちゃん、もしかして好きな人に告白でもされたぁ?」
にやり、悪い笑みを浮かべる俊。
それに、半分当たっているのが本当に意地の悪い所だ。
これが小学六年生には見えないが、私と違って女の子にモテモテなのがその所以でもあるのだろう。
「……っちがうし」
「返答がすんごく遅かった気がするんだけど?」
「だから、もう違うの‼‼」
「うわぁ、どなっちゃって。顔真っ赤だよ?」
「へっ——!?」
バシっ。
思わず、顔を両手で覆った。
俊が言ったからか分からないが心なしか全身、主に顔が赤くなっていく気がする。
「ほら、焦ってるし」
「あ、焦ってないし!!」
「へぇ……そうなのかぁ……まぁ、ちゃんと返事言ってあげるんだよぉ~~?」
「よ、余計なお世話だしっ……」
さすが、我が弟。
私とはベクトルが全く違うが故に、少しだけ苦手でもある。
小学生でありながら同じ六年生の彼女がいて、毎年数人の女子から告白されるほどに魅力があるようには見えない。少なくとも私にはそうは見えない。
この不敵な笑みを浮かべる男のどこがいいんやら、理解に苦しむ。
最近の小学生は……ドMしかいないのかと不安になるくらいだ。
バタンと扉が閉まり、俊がいなくなったことを確認した私はもう一度ベットの上にうつ伏せになった。
「……にしても、本当にどうしようかしら」
結局、どんなに考えてもその悩みは解決することがなかった。
大好きな唐揚げの夕食を食べていてもふと頭を過ぎるし、鼻歌歌いながら湯船に浸かっていてもついつい思い出してしまう彼の言葉。
ここで私がとやかく言うのも違うが——真面目にかつ本気で言っているのは確かだった。
そこまで、好きなのかな? 何かしてるのかな? とあの時は嘘なんじゃないかと思ってしまっていたが冷静に考えてみるとそんなわけがない。
彼は自分の口で震えながらも叫んでいたのだから、そんなわけがない。
二日。
二日考えることができる。
でも、余り引き延ばすのもよくはない。
彼も当然、私と同じ立場だし、余計な時間を取らせるわけにもいかない。
気持ちは変わっていないし、ずっと昔から空の事が好きだし……そこだけは譲れないと分かっている。
それなら、しっかりしなきゃ。
「うん、そうだっ——」
べしッと乾いた音がお風呂場で響く。
「よぉ姉ちゃん、俺が慰め――ぐばぁ!?」
そんな音を聞いて、ここぞとばかりに小さい象さんぶら下げて俊が飛び込んできたが一発叩いてつまみ出す。
「よし、こいつくらい大胆でなければな!」
てか、あいつ。
まじでシスコン。私のこと好きとか……案外可愛いところあるのね。
そうして、あれから一日が経ち、委員会五分前。
「その、私……昨日の告白の件で言いたいことがあるんだけど、今日は大丈夫かしら?」
「え、あぁ……はいっ、全然大丈夫ですよ!」
「そっか、良かった。その……委員会終わった後でもいい?」
「いいですよ、今日は部活もオフですし! 何より先輩からそう言ってもらえるのなら歓迎です!」
「じゃ、じゃあ……委員会終わったらよろしくねっ」
「はい‼‼」
元気のいい返事。
まったく、私がここまで緊張しているのだというのに……告白の返答をされる本人がここまで活気溢れているのは少しどころか、かなり癪だ。
夜中に考え込んでいた私が馬鹿みたいだよ。
結局、その後の委員会も大して良い意見も言えず、頭の中には彼への返答でいっぱいいっぱいになっていた私に、その瞬間は意地悪なほど早く訪れた。
「じゃ、じゃぁ……帰りましょうか……池上君」
「はい、先輩‼‼」
満面の笑み。
迷いのない天真爛漫な表情が辛いが————ここで言わない理由はない。
もう夕日も沈んだ、真っ暗な下校道をゆっくりと歩く彼を前に、私は堂々と話を切り出した。
「あの——」
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