プロローグ「君塚森香の場合」
「およめしゃん……およめしゃん……およめ……しゃ、ん……んんっ!?」
バサリ――ッ
視界を覆う布団。
そして、差し込む朝陽。
陽炎のように揺れる霞んだ視界に映った何でもない部屋。
耳に入ったのは——誰かの小さな悲鳴だった。
あ、いや……私か。
我ながら恥ずかしいが変な夢を見ていた。
小さな可愛い女の子と、途轍もないくらいに可愛くて隣の女の子なんか霞む凄まじい男の子。
二人が密室で、談笑している。
そう、密室で。
二人きりで、談笑——というの名のプロポーズをしている、変な夢。
まあ、私と幼馴染なんだけどね。
実に懐かしい記憶だ。
当の本人はきっと、忘れているだろうに、私ときたらまだ覚えているんだから女々しさと言えば甚だしい。いや、私は女だから、どちらかと言えば男々しい、か。読み方は分からないけど。
「はぁ……起きるか」
結局のところ、私は彼が好きだということだ。
ただ、ただそれだけの話である。
~PROLOGUE【君塚森香】~
私こと、今が旬なぴっちぴちの高校二年生、
あざとい……というか、きっと本人は知らないんだろうけど、たまに見せる男らしい所が特に好きだ。
ん、あぁ、最も。
私は彼のことが好きだ。
十年以上の時を一緒に過ごしてきた幼馴染、
紛れもない、偽りも嘘もない。
本当の意味で、私は空の事が好きだ。
あ、空って言うのは愛称ね。愛をこめて、ぐへへへ。いいでしょぉ。なんか翼をください的な、旅立ちの日に的な感じがするんだけど……これがなかなか分かってくれる人がいないんだよねっ。
まったく、みんな空の事を何にも分かってないんだから。
見た目だって整えれば俳優さん顔負けのイケメンになるし、
ちょうどいい長さの黒髪に、きらきらと輝く漆黒の瞳。気持ちのいいくらいに黒色が似合うのが空君がカッコよく見える所以でもある。
あぁ、でも身長が少し大きい所とかも凄まじく良い。ほら、ね。見てみてよ。私が上目遣いしたら「ぷいっ」って顔赤くしてそっぽ向いちゃう! 可愛いったらありゃしない!
ぐへへぇ、すっごくすきぃ。
――しかし。
そんな彼と歩む幸せな日常に綻びが生じたのは昨日の放課後だった。
まあ綻ぶことの程じゃないけど、それでも少し私からしてみれば怖いことだったのは間違いない。
「あ、あのっ————ずっと、前から好きでした‼‼‼ 付き合ってください‼‼」
屋上、いつもは解放されていないその場所に呼び出された私は唐突にそんなことを言われた。
相手は隣のクラスの「池上雄二」君。
歳は一個下で、一年生。私との接点は放課後の学級委員長の集まりくらいであまり話を交わしたことはなかった。
それにしても、私は瞬時には動けなかった。
「えっ——ぁ」
驚いたも何も、告白されたことがこの16年と少しの人生で初めての出来事で何を言ったらいいか分からない。
口から洩れたのは言葉にもならない音。
みんなの前では清楚で真面目な委員長の姿でいようと思ってたのに——さすがにこれは反則だ。
……玉にきずってことにしてほしい。
「あ、あのっ……君塚先輩、だ、だいじょ、大丈夫……ですか?」
「っへぇ!? あ、あぁ、うんっ! 大丈夫、大丈夫っ——すっこしビックリしただけだよ、あははっ~~」
ああ、だめだ。告白された衝撃度で思考があんまりまとまらないし……。嬉しい気持ちと複雑な気持ちがぐちゃぐちゃで混乱してる。
私なんかが誰かに好かれている——そんな事実が嬉しい。でも、私の好きな人は幼馴染の空だし、それでも告白してくれた後輩の彼も凄くまじめでいい子だというのは知っている。
揺らいでいるわけではない。
もしも、空が私の事が好きじゃなかったとしても私は彼に告白したいし、気持ちは決まっている。
じゃあ、なんで悩んでいるのだろうか。
私でも、その理由はよく分からなかった。
「……そ、その……きみ、君塚先輩。お返事は……?」
「お、お返事ねっ、そうだったわね……そ、れじゃあさ、二日!」
「二日?」
すこし焦った私はいつの間にか適当なことをしゃべっていた。
「うんっ、二日‼‼ わ、私にも考えさせてほしいんだけど、いいかな?」
「え、まぁ……いいですけど」
「じゃ、よろしくね‼‼ また‼‼」
「え、せんぱ――っ」
そのまま私はその場を逃げ出してしまった。
ほんと、これじゃあ清楚で真面目な女子高生の名も廃る。委員会では結構先人きって意見出したり、生徒会候補なんか言われちゃって。
うじうじしちゃって情けないよ。
「空、どうしたの……そんな気難しい顔してさ?」
その日の帰り、私はいつも通り空と二人で帰路に着いていた。
てくてくと夕暮れ時の道を下校中、隣を歩く彼の表情が少し硬かった気がして長い髪を揺らして話しかける。
「あぁ、いや、なんでもない」
「ふぅーん、そ?」
「……なぜ疑問形?」
「いやね、らしくない顔してるからさ。なんか、こう、にゃぁ――って顔してたよ」
「なんだよそれ……っ」
「へへっ、私も分からないっ」
ジトッとした目を向ける空。
一歩一歩と踏みしめて進んでいく中で表情が変わるのも好きなところの一つでもある。
「ははっ、なら言うんじゃねえ」
「えぇ、べつにいいじゃーん」
「よくない」
「うぅ、いじわる……」
「いじわるじゃないだろ」
「いじわるだもぉ~~ん!」
頬を赤くしてそっぽを向く空。
隙あり、そう思った私は彼の背中目がけて飛びついた。
揺れる視界、そしてめちゃくちゃに大きいと自負がある私の胸が彼の背中にぷるりと乗っかった。
気づいているのか、もしくは条件反射なのか。触れた瞬間、彼の肩がびくりと震える。
反応しちゃってる……もっとほらほら、ここかぁ?
そんな風に胸を擦ると空の震えはどんどんと大きくなっていく。
いやはや、最高の景色だ。好きな人に抱き着けて、可愛い反応も窺える。夢の国なんかよりも夢で最強なのは間違いない。
「お、おい……やめてくれ」
「えぇ、なんでぇ~~」
「……言えないが、だめだ」
「うぅ、けちんぼぉ~~」
女子のおっぱいで興奮気味。でもそれを出さないように必死に抑えて震えるその姿。可愛くてたまらなくて、余計に虐めたくなる。
そんな幼馴染の姿を寸前の距離で眺めていた私はもう少し、いたぶってやろうかと思ってしまった。
そう思って、口に出してしまった。
「あ、でもでも、さ!」
「ん?」
「私ねっ、今日……告白されたんだ」
瞬間、彼の顔が固まった。
文字通り、なんの嘘偽りなく固まった。
「え?」
「告白されたの……」
「はて?」
疑問符が口から飛び出ているかのように、目を点にしながら私の肩を掴んだ。
「だーかーらー、私。後輩の男の子から告白されたの」
一秒、二秒、三秒、そして十秒と時間が過ぎていく。
「ま、まじ……?」
「……うん、まじだよ?」
「……そ、そうか……で、どうしたんだ?」
「保留」
「え?」
「保留した」
「ほ、保留?」
「うん……。顔も名前も知らない子だったけど、凄く優しそうな子だったし、ね。付き合ったら好きになるかもしれないのかな~~って」
「や、やめとけよ……」
「むぅ、それは私が考える事だよぉ……関係ないでしょ?」
あ、もしかして嫉妬したのかな?
なんて、私は期待した。
少しうれしい、あとやっぱり可愛い。
「……っ」
「……」
そうして、何も言わなくなった空。
角を曲がるともう家に続く道。
何秒待っても答えが返ってこない。
「——っあ、家だ……それじゃ、また明日ねっ」
「え——まっ」
「でもま、明後日までには決めるしいろいろ考えてみるよ~~」
結局、私は夕立に染まったいつもの道を少し小走りで帰って行く。
この告白が私と空を少し気まづくしたということをこの時の私はまだ知らなかった。
それに、彼への返事も考えないといけないかもなぁ。
<あとがき>
なんとも両想いな幼馴染。
お互いの気持ちを分からないっていうのはさいっこうにエモいっすなぁ。
耳舐め小説が失敗したということでこれからは結局、幼馴染しか勝たん勢のクソビッチ読者に向けて書いていくので是非フォローしてくださいね!
ていうヤンデレムーブかましておきます。
そう、僕はヤンデレです。
君たちのことが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまりません。
あれ、どこ行くんですか?
次の話も読みに来ないと……あ、そっか、あの人の小説読みに行っちゃうんだ……。
分かった、分かったよ、分かりましたよ。
あの小説の作者がいなければいいんですよね?
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