菅野文先生の『薔薇王の葬列』 イギリスの薔薇戦争を描いたダークファンタジー

『薔薇王の葬列』は白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家の王位を巡る戦い「薔薇戦争」を描いた作品。


 ウィリアム・シェイクスピアの史劇『ヘンリー六世』及び『リチャード三世』を原案としている。


 主人公のリチャードはヨーク家の三男で、実は両性具有。


 このことから悪魔の子だと母セシリーから疎まれているが、両性具有であることを知っている人物は数少なく、敬愛する父リチャードの名前をもらい、男として生きる。


 戦いに優れ、ヨーク軍の要として兄エドワードの王位獲得を助ける美しい人物で、女装をして危機を脱出することも。


 一方、リチャードの宿敵であるランカスターの王ヘンリー6世は敬虔なクリスチャンで、戦や殺戮を嫌い、羊飼いの生活に憧れている。


 王の仕事から逃げて、羊飼いになりきっているときに、偶然、森の中でリチャードと出会い、互いの素性を知らないまま二人は惹かれあっていく。


 ヘンリーはリチャードを男性だと思い、そんなリチャードを美しいと思ってしまう自分に(キリスト教では同性愛は禁止のため)自分はなんと淫乱な人間なのだと、リチャードに思いを告げることなく、苦悩する。


 やがて、戦いの最中に二人は敵同士であることを知り、互いに大きなショックを受ける。


 ヘンリーは幽閉され、記憶喪失に。


 兄のエドワードにヘンリーを殺せと命じられたリチャードは、涙を流しながら彼を切る。


 (※リチャードは自分がヘンリーが殺したと思っているが、実は記憶喪失のままヘンリーは生きている)


 昔、田村由美先生の『BASARA』にすごくハマっていて、これも主人公のタタラ(男装をした女の子)と敵である赤の王がお互いの素性を知らずに惹かれ合って……というストーリーでめっちゃ好きだった(脱線)。


 ヘンリーを刺し、ランカスター家を一蹴したあと、時代は流れ、リチャードは年下のバッキンガム公爵と手を組み、王の座を手に入れる道を歩み始める。


 バッキンガムはリチャードが両性具有である事実を知り、肉体関係を強要する代わりに、彼を王にさせると約束して協力するが、次第にビジネスパートナーではなく、恋人のようにリチャードのことを愛するようになる。


 バッキンガムはリチャードを王にしたが、彼が王になると自分だけのものにしたいと思うようになり、二人の思いはすれ違う……


 バッキンガムはリチャードを手に入れるために反逆を起こすが、殺される(切ない……)。


 リチャードは男として戦士として生きているのに、少年のような華奢な肉体と少女のような可憐な美しさで、本人は男を誘惑するつもりはないのにいろんな男を次々と虜にしていく←この設定にクラクラする……


 高校時代、世界史のテスト勉強で薔薇戦争の頃のイギリス史ってエドワードやらヘンリーやら似たような名前が何回もくるくる出てきて(父親や祖父が子や孫に自分の名前を与えることを良しとする文化があるため、同じ一族で同じ名前の人がごろごろと御登場)、覚えるの超ややこしーって思ってたけど、この漫画を読むと、相関性がサクッと感情移入とともに理解できる。


 まだ完結してなくて(ただいま15巻まで発売中)、でも作者である菅野文先生が史実に寄せて書くようなお話をしてくださっているので、リチャードは最終的に戦争で死ぬバッドエンドなのかなぁと切なくなるが(バッドエンドが見たくないチキン。記憶喪失なヘンリーと最後に逃げられないのか)……でも、どういう結末であれ魅力的に描いてくれそうで超ワクワクである。


 リチャード3世って今まで良いイメージがあまりなかった。


 シェイクスピアの作品『リチャード三世』(正式名称『リチャード三世の悲劇』)では巧みな話術と策略で政敵を次々と殺し、その女性たちを籠絡して王位に就く。


 その栄光もつかの間、ランカスター家のリッチモンド伯(後のヘンリー七世)が敵となり、ボズワースの戦いで討たれる。


 甥を手にかけて王座を奪うなど、『リチャード三世』はイギリス文学で極めて残忍な人物として描かれている。


 イングランド王リチャード3世の在位期間はわずか2年と47日。


 史実では先に息子も妻も死ぬ。


 遺体は当時の風習によって裸にして晒されたと言われている。


 シェイクスピア作品ではリチャード三世はせむしの病があるように描かれている。


 2012年に発掘されたリチャード三世の遺骨(駐車場の下で発見され、騒然となる)に脊柱後湾症(脊椎側彎症の一種)の痕跡が見られたことで、あながちハズれてなかったかもと。


 発見された頭蓋骨にコンピューター・モデリングで肉付けした樹脂製の模型が公開されると、彼の顔立ちはとても整っていて、「ハンサムな悪魔」と言う人もいたそう。


 シェイクスピアの作品を読むと、リチャード三世は「なかなかに頭いいけど悪い男だなぁ」って印象だけど、菅野文先生の『薔薇王の葬列』のリチャードは美しくて官能的。


 切なくも美しい展開に超キュンキュンしたり、戦争でこれからどうなるの? とハラハラしたり、忙しい。


 菅野文先生、魅力的なリチャードを描いてくださってありがとうございますm(__)m


 【追記】


 これを書いた後、友より「私の推しのことが一切書かれていないッ!!」と苦情が……


 サーセン。


 はしょりすぎた……


 友の推しはケイツビー(ハンサム)。


 従者で幼い頃より主人公リチャードのお世話をし、彼の両性具有の秘密を知る数少ない人物。


 「私にとって人生はリチャード様なのです」と言い切る男。


 しかし、身分違いを遠慮してか、もともと堅物なのか、ケイツビーの行動にはリチャード愛が溢れまくっているが、ケイツビーがリチャードに手を出すことはない。


 友はケイツビーとリチャードがどうにかなってほしいらしいが、リチャードが年下のバッキンガムにレイプまがいの行為で秘密を暴かれたとき「ケイツビー、出し抜かれたぞっ! 優しすぎてダメだー」と叫ぶ。


 近所迷惑だから漫画を静かに読んでくれっ……


 それともう一人、「エドワードのことも書いてくれ!」と。


 エドワードはヘンリーの息子。


 親子でリチャードのことを好きになるなんてすげー展開だなと思うが、菅野文先生の描くヘンリーがイケメンで、エドワードが美少年なので違和感がない……


 エドワードはリチャードの女性の部分を知って、彼に恋をしている。


 まっすぐでちょっとアホっぽいくらい純粋なのだが、敵なのでリチャードに殺されちゃう……(切ない)


 しかし、リチャード、年下のバッキンガムに少年の頃からロックオンされてたり、かと思えば、自分の父と年の変わらない男のヘンリーに恋をしたり、守備範囲が広すぎる……


 魅力的な男たちを虜にしちゃうリチャードが美しくて絵が好き過ぎる。

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