少年少女の戦争Ⅵ
木々が生い茂る樹海のような森の中、空中には数十の輸送機が飛び交い、陸地からはそんな輸送機へと弾幕が飛んで行く。それに連れて、戦火はより大きなものへと成長していく。
空を翔けていた明日奈達が乗る輸送機は、不自然に切り開かれた森林の中へと白い煙を立てながら降下していく。陸地へと近づくにつれて、弾幕はより多くなり強くなる。そんな中を平然と輸送機は降り立って行けば、輸送機の機体は大きな炎に包まれ、その姿はまるで鳳凰のように姿を変える。悠然と着陸態勢へと移行する姿を相手側も撃ち落とそうと弾幕をより多くしてくるが、機体へと着弾しそうになると纏っている炎によって弾丸や砲撃といったものは全て塵へと還される。
『あと三十秒で着陸する』
スピーカーから聞こえてくる栖偽の声に合わせて立っていた揮移が座席へと移動し、ベルトをきつく締める。それの十秒後に大きな振動が輸送機を襲いながらも、着陸に成功して減速していく。
ガタッ、というドアの開く音と、ハッチが開く音が同時に機内の中へと響き渡ると、
「お疲れ様、みんな大丈夫?」
「お疲れさん、みんなも外に出て少し休憩してこい。俺はこいつをもう少し先の方まで移動させるからもう少し時間が掛かる」
と、勾坂はみんなを心配し、栖偽は真面目に口を同時に開いた。この戦場に足を踏み入れているのに対して一切の変化を見せない勾坂。そして、一方の栖偽はと言うと、普段の遊び人の感覚が消え真面目に戦争へと身を投じている感じだ。
「二人とも起きてくれるか?」
明日奈と憐矢の肩をポンと叩いて目を覚まさせたのは揮移だ。さっきまでの風貌は消え失せ、髪や瞳の色はもとの黒へと戻っている。そんな揮移に連れられる様に由愛の後ろにミカエルが現れミカエルの後ろを明日奈に幸、それと憐矢がぞろぞろとハッチから自然豊かな戦場へと降りたった。
「由愛ちゃん、飛行機たくさん揺れちゃったけど大丈夫だった?」
「ミカエルちゃん、大丈夫だったよ! 逆にたくさん揺れてアトラクションだったもん。遊園地みたいで凄く楽しかったっ!」
「ならよかったわね…………勾坂君、現在の状況はどんな感じか分かる?」
由愛をあやしながら頭を撫でているミカエルは勾坂へと現状報告を催促し、それに促されるかのように勾坂は、
「今の状況は上々ってところですね。先に先行してきた部隊で周りを固めることで、第一歩として領地を獲得出来つつあるところです。そして、今現在は緑城の攻撃で墜落させられた輸送機は極少数の三機。これは上々の言葉以外では表したくないですね」
「今回は結構生き残ってるわね……これなら作戦の立てようも幅が広がる」
「地図を見る限りだと、僕たちがいる場所が戦場の東側十五キロの場所です。そして、敵本陣がある場所がこの地図のもっとも西側、僕たちの位置から四十キロ西に行ったところにあるのを確認できました。もしも、ここから敵本陣に近づきながら行くとなると最低でも三日は掛かるかもしれないですね……」
「そうね、ならまずは部隊を二つに編成するから全部の輸送機が着陸したら一度集合して貰ってもいい?」
「わかりました。それじゃぁ、僕はこれで失礼しますね」
ミカエルへと頭を下げたあと後ろへと振り向き、他の部隊へと通信をしながら立ち去って行く。
その姿は司令官と言える程の型の嵌りようで、正直言って似合っている。勾坂のような仁徳にも恵まれ、交友範囲が広いと他学年の者達からも慕われる。それが信頼と言う形で彼を成り立たせているようだ。
話を終えたミカエルの後ろを明日奈たち四人は、何も言わずについて行く。自分たちは初めての戦争で何をすればいいのか分からない。そんな状況下では彼女たちは指示をして貰わなければ何もできない初心者だ。だから、誰かの後ろをついて歩く事しか今はできない。
「鷹野目君たちは、今日はこのまま何もしなくていいわよ。明日から明日奈ちゃんに鷹野目君、それに斬時君と狩亜を混ぜた四人構成のチームで敵本陣に向かってもらうことになるんだから。今はのんびりしててね」
「……………今日一日、このまま時間を潰せって言うんですか?」
「そういうこと」
人間では到底あり得ない美しい笑顔を向けて来ては、スキップでどこかへと行ってしまったミカエルの後ろ姿を明日奈たち四人はその姿が見えなくなるまで見つめていた。
「…………どうするか」
「どうするかって言われても……私たちにはどうしようもないわよ」
憐矢が明日奈の方へと向き直りながら今日一日をどう過ごすのかを聞いてきた。そんなもの私に決めさせるんじゃないわよ、と付け加えたに次いで幸に由愛と質問は飛んで行く。
幸は何もすることはないんじゃないと言い、答えは由愛へと託され、そこは予想通りと言っておくべきか、
『鬼ごっこしたいのよさっ! 自然の中を思い―っきり走り回りたいのよ!』
しかし、それが休憩となるわけではない。逆に体を酷使させるだけであるのだが、今はなんだか走っていた方がいい気が明日奈達の心は感じた。
なんで走っていた方がいいのかは分からないが、ただそうしているだけで心の中が整理できるような気がしたからだ。
「わかったわよ。二人も鬼ごっこでいいわよね?」
先導して明日奈が口を開いて憐矢と幸へと問いかければ、二人は頭をコクリと頷かせて了承をする。二人の了承を得たことで、由愛は笑顔を振り撒こうと笑顔を作り始めるが、それは明日奈の手によって防がれた。なんで笑顔をさせまいとしたのかは、ご存じの通り。由愛の笑顔は人を昏倒させてしまう。揮移いわく、能力の形を変えている、のだそうだ。それがどういう原理でどんな風になっているのかは調べなければ分からないらしい。
そして、そんなものを戦時中に振り翳かざすわけにもいかない。力一杯に由愛の笑顔を変顔へと変えていけば、
「いだいのよざ、ばにずるのよ!」
と、変顔をしながら文句をかまけている由愛。それを見ていると微笑ましい空気が作られ、周りを慌ただしく走っていた兵士と化した学生たちは笑顔で仕事をし始める。
「由愛の力ってなんなんだろな……」
時に憐矢は流石にこれでは微笑まないらしく、いつものような無表情で由愛たちをみつめている。それに続いて幸も微笑むわけでもなく、由愛の変顔を見つつも横目で一樹がいる方向へと視線をズラしている。
その光景に多少ムスッとした感情が芽生えてくるが、それは無視しておくことにしておこう。今は敵陣の真っただ中……そして、私を含めた四人はこれから懐かしさを感じる遊びへと身を投じようした。
そんな時、由愛の口から不意に出て来てしまった言葉、
「イッキが最初に鬼役なの……よさ……」
いまだに変顔を維持させられている由愛が、殻の中で眠り続けているであろうイッキの名前を口にしてしまった。
ほんの一瞬、ほんの一瞬の気の緩みで名前が自然と出て来てしまう存在。
そんな存在が、今、隣にいない。仲間たちの近くにいない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます