第37話 少年少女の戦争Ⅴ
『輸送機全機に通達。エンジェルクラス・三年勾坂優斗が敵地へと降下最中だ。これに続いて各機の乗組員は勾坂に続いて地上へと降下せよ』
輸送機の通信網から発せられた通信により、各機の学生たちは自分たちの装備を整えた途端に、勢いよくハッチから飛び降りていく。
百近くある大型の輸送機からは三十人と地上へ向けて降りていく生徒たちの姿が見える。
そんな彼らよりも先に降りていた勾坂は、一直線に地上へと降りながら自分愛用のアサルトライフルを両手で構えながら鼻歌を歌い、
「それじゃぁ、みんなも一気に攻めに行くよ」
風を切る音と共に勾坂の声が襟元の通信機から聞こえてくる。その声は、なんら緊張もしているようなことはなく、ただ楽しんでいるようにしか聞こえない。
地上へと近づくに連れて、大型の弾幕は無くなるが直接的な弾幕の嵐が勾坂を応酬する。
勾坂を襲ってくるゴム弾には特殊な力が宿っているようで、体に当たるか当たらないかのところで避け続けながら、姿勢を安定させてアサルトの一発だけを敵陣地へと送りつける。
その弾丸は赤い彗星のように尾を引きながら地面へと着弾すると、ドオォォォオオンといった大爆発を起こす。
「これって何発も打てるわけでもないから最初だけなんだよね~、能力付与にも時間が掛かるのは自分でも分かってるし、改善点なんだけどなかなか治らないなぁ」
着弾したところを見れば、半径十メートルはアサルトライフルの一発だけで吹き飛んでいた。単なるゴム弾がここまでの威力を持つことが出来るのは、天使の力の付与があるからだ。
それでも緑城の学生たちは数人たったの十数人しか倒れておらず、態勢を立て直した緑城生が勾坂目掛けて集中砲火を浴びせる。
銃声の嵐が陸地から轟々と鳴り響いてくるのと同時に弾丸を避ける為に水素型エンジンを点火させ、空中を自由自在に駆け回る。
「このままだと埒が明かないなぁ……一回離れようかな?」
空中で飛行をしている間に視線を森林へと逡巡させ、敵の数が少ない場所を探し出せば、
周りの生徒たちに指示を送りながら背中で火を噴いているエンジンの推進力と地球の重力により加速していく。地面へと垂直に落ちて行きながら、さっきと同じ弾丸を森林へと一発撃ち込む。一発の弾丸は地面へと着弾すると大きく爆風を発生させ、木々を薙ぎ倒していく。
勾坂は一目散に見開けた爆心地へと降下していき、それに続いて降下部隊としてハッチから出てきた学生たちも後を追うようにして降下していく。
自然の中に燃え滾るような赤一色の制服を肉眼で捉えれば、
『早めに空路を整えるから、少しの間だけそのまま飛んでてくれるかな?』
『……わかった。どうにかしてこっちも耐えてみるが、恐らく飛んでいられるのも数分と言ったところだ。早めに頼む』
『わかったよ。急いで造るから待っててね』
機内にはスピーカーと同時に、襟首に付けられている無線からも声が響いてきた。通信からの状況を鑑かんがみれば、勾坂は無事に陸へと着地できたようだ。
「私も手伝うとしようか……」
やれやれと言った感じに揮移が手を振りながら、端から一樹がいる中心点へと向かうと、
「私が今から障壁を造る。その間に勾坂は空路を整えて、栖偽はそのまま自分の操縦に集中していてくれ」
頼もしくも凛々しい声を放った赤城学園第一位の揮移狩亜は、瞳の色を黒から突如として真紅へと変貌させる。そして、瞳が真紅へと染まるのと同時に彼女の身体からは、大きな炎の波が明日奈達へと勢いよく流れてくる。
その光景に一瞬だけ体を強張らせた明日奈の目に映る光景は、怯えるような光景ではなかった。
明日奈達へと波のように流れてきた炎は、まるで明日奈達を守るかのように体に纏わり付く。その炎は体に直接付いているのに対して、まったくもって熱いとは思わせないものだ。
「もしも落ちた時は、この炎がみんなを守ってくれるから……」
轟々と体の周りを包んでいる炎は猛々しくも、その中に優しく包み込むようなものがある。由愛や幸は自分たちの仕事を着々と熟している中で、明日奈と憐矢は何もすることが無く、ただ呆然と目の前で起きている事象に捲き込まれるかのように身を委ねている。
「鷹野目君達は、後で出張って貰うから今のうちに休んでいてくれるか? 今のうちに休んでおかないと、休みたくても休めなくなるからな」
目の色が赤よりも少しだけ黒い真紅の色を宿している揮移は、そう言い残すと、
「栖偽、私はこれから全力で障壁を張る。その間は絶対に攻撃が当たることはないけど、持つのもほんの数分だけ。その後は貴方に任せるから、頼むよ」
『操縦なら任せろ。その為にしてきた訓練だ、ここで発揮できなかったら後悔しちまうからな!』
「それじゃあ、頼んだよ」
話に入ることすら出来ずにいる明日奈達はそのまま言われた通りに機内の両サイドに携えてある座席へと揺れる機内の中、腰を降ろして休憩を挟むとほんの数分だが眠りに就くことになった。
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