第34話 少年少女の戦争Ⅱ
適当に口にしたと思ったら、そのまま学園長は部屋から出て行き、どこかへと消えてしまった。今は自分の部屋にいるが、最初の頃はどこに行ったのかも分からず、行方不明になっていたのだ。
「これでも信じられないなら、明日奈は一樹君を苦しめるのが本当に好きなのかもね。本当の気持ちだって伝えてないのに、ああやって一樹君を傷つけて、自分の気持ちの裏返しでも見せているかのように暴力を振るって……そんなんじゃぁ、一樹君の近くにいるだけで不幸になるだけじゃない?」
発言が徐々に棘を持ち始めた幸はそのまま言葉を続け、
「明日奈は自分の気持ちに素直じゃないけど、私は一樹君に自分の気持ちは伝えるよ」
より体を殻へと密着させた幸は、小さく口を動かして何かを囁いた。その言葉は明日奈にはハッキリと聞こえてきて、自分の胸の内に秘めてきたものが締め付けられるような感覚が襲ってくる。
胸の奥が疼くように痛い……脈を打つたびにズキズキと痛みが走る。少しでも動こうとするなら、その痛みが体中を駆けずり回って、より一層の痛みが襲ってくる。
これまで感じてきた痛みとは違った痛み。初めて感じる痛みは、自分のことを殺すことが出来るんじゃないかと思うほどの痛みで、全身が締め付けられるようなものを感じる。
私だって、イッキのことがっ!
そう口を動かそうとした時に、運悪く、
「みんな、そろそろ準備をして緑城にいくからね。座った、座った」
長髪赤髪で瞳が燃えるような純赤色のミカエルが後方のハッチから機内へと入ってきたのだ。それに続くかのように、栖偽や斬時、勾坂に揮移と入ってきて、憐矢が目を細めながら機内に入り、最後には由愛が笑顔を振り撒きながら入ってきた。
「そうやっていがみ合ってないで早く自分の席に座って。私たちはこれから戦争に行くって言うのに、仲間同士でいがみ合ってどうするの」
いつでも冷静を保っている揮移が機内の右翼側のシートへと座りながら、感情が籠っているのかどうかの声音で言ってきたのだ。
「綺兎部君の目の前でいがみ合っても仕方がないよ……そんなことをするなら戦争に集中しなさい。今からが戦争なんだから」
周りにはいつもの賑やかな仲間はいない。代わりに、感覚を研ぎ澄まし始めている斬時と勾坂がいるのだ。
栖偽はと言うと、
『お前ら、そうやって一樹のことが好きなのはいいけど、時と場所を選んでくれな。揮移の言った通り、ここからが戦争なんだからな……』
と、機内に備わっているスピーカーから声が響いてくる。その声音も、いつもの気楽そうな声とは変わり、真剣という二文字が目に見える程の声音だった。
そんな雰囲気の中で場違いなのは、二人を合わせて三人。もう一人はと言うと……
「ミカエルちゃん、これから戦争するんだよね?」
「そうよ。今から世界を変えるための戦争に私たちは行くの。由愛ちゃんもその一人なのよ?」
「えへへ~」
頭を撫でなれながら由愛は絵顔でミカエルの顔を見つめている。由愛の視線の先にいるミカエルを見ると、明日奈は嫌気が指すがそれでも、イッキや自分たちをこのクラスへと入れてくれた彼女には感謝しなければならない。
「明日奈ちゃんも早く座らないと離陸できないわよ?」
なんの怪訝感も無しに話しかけてくるミカエルに殺気を向けるが、そんなもの痛くも痒くもないといった感じで流されてしまう。
苛立ちが募るが、確かに自分が立っていることで離陸が出来ないのは正論であるがために、渋々自分の近くにある座席へと腰を降ろせば、栖偽が操縦桿を握る『ANGEL―CLASS』改め特別専用輸送機は、緑城学園の誇る広大な敷地へと轟音を放ちながら離陸したのであった。
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