第28話 カウントダウンⅤ
由愛と同様のことが出来る人間が目の前にいたのだ。
「誰の情報を言って欲しいですか?」
第一声はそんなことから始まり、「栖偽の情報でいいよね?」と、勾坂に釣られるようにして、斬時や揮移といった面子が頷いた。栖偽自体も、「そんなの無理だろ」と言って、流したのも束の間、
「栖偽南斗。学園第三位の三年生。実家は剣道場を開いている。そして、自身も剣道三段の実力を持っている。操縦なら何でもできる操縦士でもある」
と、淡々と言われていく言葉に、栖偽の顔色は蒼白になる。そして最後に、
「栖偽先輩の好みは…………」
視線を一巡させると、その視線は由愛へと止まり、
「巨乳か、ロリ。またはロリ巨乳」
「ひっ!」
小さく悲鳴を上げたのは由愛だ。由愛の身体は十六歳になっても、小学生としか言いようがない程の小ささだ。第二次成長期すら来ていないんじゃないかと思える程の身長であり、身体のなりのためにロリコンである栖偽からは、どんな視線を飛ばされているのか、という身を縮め上げる程の恐怖が襲ってきているのだ。
慌てた様子で身振り手振りの弁解しようとする栖偽ではあるが、顔色は蒼白のままであって、それが事実だと言っているようにしか見えなかったのだ。
生徒&教師からの痛い視線を浴びてしまった栖偽はというと、学園長室の窓際の端、学園が眺められる場所でふてくされてしまった。
「政府ってどこまで俺たちの情報知ってるんだ?」
「さぁ、そこまでは興味がないから調べてませんよ。とにかく、これから同じクラスでやっていくのでよろしくお願いします」
そして、自己紹介―栖偽がクラスから一時的に無視されるという状況作った―を終わらせたのだ。
そんな彼女の目が爛々と輝いているのだ……。またもや、大変なことになりそうだ。
明日奈も大変だけど、幸も大変なんだよな……。
勝手に人のプライバシーに手を出そうとしてしまう幸を止めるのも、また一樹の仕事でもある。
教えてもらう代わりに、やってはいけない行動をさせないようにする。それが今の関係でもあるのかもしれない。
「なぁ、幸。人のプライバシーは勝手に覗くなよ? 友達なんだから、直接聞けば教えてくれるかもしれないんだから」
「…………………………」
俺の話が一切聞こえてないっ!?
心中で大きく叫んだ一樹を尻目に、幸は携帯端末機をスカートの中から取り出すと、物凄い速さで何かをし始める。それは見ているだけでも分かった。
早速、始めやがったな……。
夢中になっているせいか、どれだけ声を掛けてもうんともすんとも言わずに、ひたすら携帯端末へと指を奔はしらせる。その速さは、通常の人では到底まねできない速さだ。そこらへんにいる女子高生の速さで比べるなら、あの速さの三倍はある。そんな速さでも足りないのか、チッと舌打ちをすると、もう片方の手を逆方向のポケットへと入れる。
今度は何を取り出すつもりだ?
そう思っていると、幸のポケットから出てきたのは折り畳み式のキーボードだ。それを携帯端末へと接続するなり一気に速度を上げる。
キーボードに繋がれている紐を両肩へと掛けると、ダダダダとキーボードが壊れるんじゃないかと思うほどの音を奏でる。尋常じゃない速度で端末の画面が入れ替わり立ち代わりで変わっていく。
明日奈が目の前にいるこの状況の中でよくもまぁ、堂々とやるな。
依然と内ポケットに仕舞われているハンドガンを取り出そうか、取り出さないかの瀬戸際で踏ん張っているようだ。
一樹はこの状況をどうしようか迷った。自分がこのまま二人を置いてスタスタとクラスである学園長室へと戻るか、二人を連れて一緒に行くのか。
数秒間の間が空いたが、それもすぐに終わる。
「幸も明日奈もいい加減にしろよ?」
明日奈の手首を左手で優しく握り、右手では幸が見つめている端末を持つ。明日奈は手首を握ってきた一樹へと視線を移すと、さっきまでハンドガンを握ろうかとしていた右手で一樹の左手を力強くはあったが握り返してくる。一方の幸はと言うと、ジト目で一樹の顔を見つめてきていた。その視線には「邪魔しないでほしい」といった感情が交じっている。
だけど、一樹は一歩も譲らない。
「明日奈も流石に俺のこと撃ち過ぎだし、幸はなに、人の個人情報を調べようとしてんだ?」
多少だが、怒気を孕ませた言葉を口にする。
普段はそんなことをしない一樹だが、体中は痛いし、目の前では人のプライバシーを興味本位で調べようとしている馬鹿がいるのだ。少し位は怒ってやらないといけない。でも、そこには多少、心から溢れてくる憤りもあった。
「少しは周りに気を使うってことをしてくれ。止める側の気にもなってくれ、頼むから。ただでさえ、俺は力が使えなくて苛立ってるんだからさ……」
そう言うと二人は黙りこくるしかない。自分たちが一樹の上に立っていることを自覚したのだろうか。明日奈達は必然的に一樹の上へと立ってしまう。それも、能力が使えるか使えないかでということだけで。
それを口にすれば、二人は黙るしかない。明日奈は知っている。一樹がどれだけ力が使えなくて苦しんでいるのかを。幸は推測ではあるが、彼がどんな存在なのかを知っている。
だからこそ、二人は黙るしかないのだ。
一樹たちの周りの空気は死に、そんな中を一樹は一人でスタスタと出口へと歩く。そして、それを追うような形で明日奈と幸もついてくる。そんな二人の表情は一樹に申し訳ないと言った感じだ。
射撃訓練場からは発砲音に続いて爆発音が轟き、この静かな廊下に大きな衝撃を伝える。そして、三人の空気は冷ややかなものとなり、学園全体を見渡せる自分たちのクラスへと戻って行く。
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