W・S・W《World・School・War》

第2話学園生活

広大な敷地面積を誇る学園。日本には北海道と東北を合わせて一つ、関東、信越、北陸、東海、近畿、中国、四国地方に一つずつ、そして、九州と沖縄を合わせ一つの計九校ある。そのうちの一つである代理戦争専門の学園である赤城せきじょう学園。この学園のイメージカラーは赤。何故、イメージカラーが赤なのかと言うのにもいろいろと理由があるが、それはまたの機会に話すとしよう。

　そして、この赤城学園に通っている生徒の数は約三万人。この大規模の人数が必ずしも代理戦争に行けると言うわけではない。逆に行けるのはこの中のうち七千人。意外にも高い競争率を誇る。

　学校の施設は少なく分けると、狙撃場、運動場、道場、指令訓練室、教官室、武器弾薬保管室、試射室と少なく分ければ八個に分けられる。

　そして、そんな設備が豊富な学園内で競争をしていかなければならないのだ。そして、授業を受けなければならない生徒の一人であるが、やる気が一かけらも見受けられない赤城学園一年の絢兎部一樹あやとべいつきは同級生である鷹野目憐矢たかのめれんやという目が見えているのかと思うほどの細目をしている彼と授業が行われる場所へと広場を通じて向かっていた。

「憐矢、これから狙撃の訓練だな……いやだなぁ」

「そんな気にする必要はないだろ。ただ単に狙って撃つ、単純な作業だ」

俺の隣にいる憐矢は銃を扱うならハンドガンでなく、スナイパーライフルを自ら選ぶ。

集中力が皆無な一樹とは違い、憐矢の集中力はこの赤城学園の中でも上位五十人に入る程の集中力の持ち主。狙撃の手だってお手の物だ。

「そうは言っても……」

　憐矢と話をしているうちに第二狙撃室という標識が視界に入ってきた。今回の授業を受ける場所だ。

「それにもう狙撃場までは来たんだ。もう、授業受けなきゃだめだろ」

　第二狙撃場とは、長距離を想定した狙撃を訓練するための場所だ。

　第二狙撃場がある場所は、広大な敷地の中心である校舎から一キロほど東に歩いたところにある森林。

狙撃場は様々な環境が用意されていて、どんな環境でも対応して狙撃ができるようにならなければならない狙撃手の練習するための場所だ。

そして、狙撃場の手前の広場まで来てはいいものの、

「……うぅっ、急にお腹が痛くなってきた……ちょっとトイレ行ってくる」

「そう言って逃がすと思うか、バカ。もう授業も始まるからさっさと急ぐぞ」

「嫌だぁぁぁああああ」

　憐矢が一樹の肩を掴もうとした瞬間に、全力でこの場から走り去る。本気の本気で走り去ろうとするが……。

　パァァァン。

　音が鳴ると同時に俺は倒れてしまった。それも盛大に倒れてしまった。

　今の音は発砲音だよね……。

　その発砲音は後ろにいる憐矢からのものではなく、広場の右側から聞こえてきた。

「痛ったぁぁぁぁぁぁああああ！　死ぬっ！　本当に本気で死ぬ！　誰だよ、俺に撃ってきた奴！」

　足には激痛が走り、目には涙が溜まっている。俺は足を擦りながら、撃ってきた方向へと視線を向ければそこには見知った顔があったわけで、だけどその見知った顔には会いたくはなかった。会いたくないに決まっている。俺のことを見つければ必ず発砲してくる奴なんだ。そんな奴が目の前にいる。

「一樹ぃ、これから授業だっていうのに、どこに行くつもりよぉ……ねぇ？」

「トイレだよっ！　トイレに行くだけなのに何で撃ってくるんだよっ！　撃たれても死にはしないけど、本当に死ぬほど痛いんだぞっ！　自分で自分のこと撃ってみろよ！」

「自分で自分のことを撃つなんて馬鹿なこと私がすると思う？　それも考えられないくらいに一樹はバカだったかしら？」

「ウゼェェ！」

「ウザくて結構よ」

　俺の目の前にいる女子は天野明日奈あまのあすな。乱暴で短気で怒りっぽい凄く嫌な女子。彼女はストレートな黒髪で、自分では可愛くないと言ってはいるものの、俺たちの目からすれば、アイドル級なわけだ。そんな彼女の銃の腕前は実際、凄い腕前だ。俺が走って逃げようとしている時の足を狙って撃ってきているのだ。これ程の命中率を誇るのは明日奈のほかには指で数えられるほどしかいない。この学園の中でも上位ランクの友人を持っている俺。そして、その中で俺のランキングは一番目だ。もちろん、下から数えてだけど……。

「明日奈っ！　なんで俺の足を撃ったんだよ！」

「いやぁ、私も狙撃の授業なんだけどさ、私のちょうど目の前に一樹が走って来たから、ついつい撃っちゃったの。悪気はないんだけど、まぁ出来心からよ、出来心。でも、許さなくてもいいわよ？　一樹に許されなくったって結局は、私の方が優位に立つことなんて朝飯前なんだから」

　なんでこうもいちいち棘のある言葉で話しかけてくるんだ、明日奈は……。

「明日奈、流石に今のはやり過ぎだ。学内じゃ、発砲は禁止されてるんだ。それを堂々と無視してたら監視カメラに映っている映像で退学させられるぞ」

　そういった憐矢が指を指した方向には、何台もの監視カメラが一樹たちを映していた。

「気にしなくてもいいわよ。その辺は由愛ゆめにでもハッキングさせて編集させるから。本当にいい友達を持ったわよ、私。最高ね」

「…………そうか」

「それよりもこのままだと俺が授業を受けられないんだけど、どうするつもり？」

「授業受けないんじゃなかったのか？」

「流石に今の明日奈の行動で頭の中で何かが切れた音がしたよ。明日奈、俺と狙撃で賭けないか？」

「何を掛けるのよ？」

　意外にも賭けに載ってくれた明日奈は余裕といった表情で一樹を上から見下ろしているのが癪に障るが今は気にしない。

「そうだなぁ……なら、俺が勝ったら明日奈は俺に謝ってくれ。いい？」

「そんなことならいつでもいいわよ。なら、私が勝ったらこれから一か月の間、私に〟様〝を付けて呼んでもらうわよ。いいでしょ？」

「そんなことでいいなら全然いいよ。それじゃぁ、次のスナイプの授業で勝負しようよ」

「結果はもう見えてるけどね」

「それ、俺も混ざっていいか？」

「「ダメっ！」」

　一樹と明日奈の声が被さるように、勝負に参加しようとした憐矢へと飛んでいくと、この二人って仲が良いのか、悪いのか分からないんだよな……。

　憐矢は心の中で口にしたのだ。

　そこからは一樹と憐矢、そして明日奈と一緒に第二狙撃場へと入っていく。

　第二狙撃場へ行くためには、待合室で迷彩柄の服装に服を着替えなくてはいけないため、ここで一旦、明日奈と別れた。