W・S・W《World・School・War》

将星 出流

第1話プロローグ

―――――――世界は変わった。


世界からは戦争と言う戦争が消えて行った。その中にはいろんな立役者たちがいるが、その中でも一番の影響力を誇っていたのが一つの存在だった。

その新たな存在がこの世の中に現れたことによって、世界からは奇異の視線を受けるものの、その存在の力が絶大過ぎた。たった一人の存在が周りの力を増幅させる。

それは魔法のような、非現実的なことを可能にしてしまった。

そして、今の国々の戦争を代理で行っている者たちがいる……。

これまでの戦争の形はそのまま受け継がれたが、戦争で人が死ぬことが極力減ったのだ。それがどれだけいいものなのか……。これまではそれが世間一般からいい印象を与えていたが、現状は、そんなに甘いものではなかった。どれだけ人が死ななくなったからと言って、相手は本気で殺すつもりで向かってくる。そうしないとならないのだ……。

そんなところへ少年たちは、たった今、その戦地へと向かおうとしているのだ。


「今回の相手はどの学校だっけ?」


「あぁ、確か……黄城おうじょう学園じゃなかったか?」


「本当に黄城なの?」


「多分、黄城のはずだ……」


「まぁ黄城だろうと関係ないさ。結局のところ、相手がどこだろうと俺たちは戦っていかなきゃいけないんだから」


 民間の飛行機ではない軍事飛行機。それに乗っているのは真紅に染められた制服を纏った少年少女、八人が機内から外の景色を見ながら話をしていた。

 この機体は雲を割くようにして空を飛んでいる。それも、この機内にいる赤い制服を着ているもう一人の学生が操縦している。そして、そんな彼らの手には、黒くズッシリとした光沢を持っている物が握られている。

 それは昔までの日本だったら警官や免許を持っている人しか持つことができない物だが、中身は特殊性のゴムで作られた弾丸が装填されている。少年たちは、それを自分が持っていることを確認するかのように絞りを軽く絞る仕草をする。


「これから戦争かぁ、また凄い量の弾が飛んでくんだろうな……」


「まぁ、仕方ないだろ。戦争なんだから飛んでくるのは当たり前だ……」


「そうだよな」


「それよりもお前は能力を使うなよ……俺たちの為にも……」


「分かってるけど……でも、危険な状況になったら使わせて貰うよ。そうじゃないと、俺たちの目標が達成できないからな」


「………………………………」


「一樹、それでも使わないで……私たちはこれからも一緒に戦う友達を失いたくないから」


 癖毛が激しい一人の女子は俺の名前を口にしながらも、外に広がる景色を見つめている。


「分かってるよ」


 周りの仲間たちは、これから戦争に行くと言うのに集中するどころか楽しく談笑をしていて、戦争に向かっていると言うことすら忘れているように見える。他の機内にいる生徒たちは談笑なんてする余裕すらないのに、このクラスだけは怠けているというか、なんというか……

戦争を楽しんでいるようだ。まぁ、そのうちの一人でもある俺がいうのもおかしいかもしれないけど。

 周りにいるのは、いつもさわやかスマイルの三年生に、何を考えているのか一切つかめない無表情な二年生。そして二年生はもう一人いる。学園位一位の座を有している二年生の女子。機内の端に背中を寄らせ、腕を組みながら何かを考えている。後は俺と同学年の一年が四人。

 窓の外をはしゃぎながら眺めている小さな女の子と、そんな彼女に母親のように付き添っている強気な表情の女子。俺の右隣にいる目が細い男子と、左隣にいる癖毛の強い女子。最後に説明した女子以外は中学からの同期だ。


「イッキっ! 外が凄く綺麗なのよさ!」


 窓に手を突きながら、アニメみたいに大きな瞳を持つ小さな彼女が可愛い顔を笑顔へと替えてこっちに微笑んでくる。それには堪らず笑顔になってしまう俺だ。


「わかったよ。今そっち行くから待ってて」


 揺れる機内を平然と歩きながら彼女の近くへと向かえば、


「イッキ、今日から戦争だけど、能力なんて使うんじゃないわよ! いいわねっ!」


 小さな彼女に付き添っている強気そうな女子は、見た目通りの強気な口調で命令してくる。それは昔からの事なので慣れている俺にとっては日常だ。


「わかってるって……みんな同じことを何度も言わなくていいって」


「そりゃ、言いたくなるわよ……」


「それよりも、早く一緒に見るのよさ。綺麗なのよ」


 窓に張り付いている彼女の隣の窓から外を覗けば、確かにそこには綺麗な湖が満ち満ちている光景が目に余る程ある。だけど、その中には金属の光沢を放っている何かがこちらに標準を合わせているのも確認できた。

 そんな確認ができると同時に、機内の中を長い赤髪の美女がこの場に会わない服装で歩いてくる。可愛らしく、豊満な胸の上のあたりに何かしらのキャラクターなのだろうか、そんな装飾を付けられている上着に、下はジーパンという姿で彼らの前に立ち止まれば、


「みんな! これから私たちは青城せいじょう学園と代理戦争をすることになるけど、これに勝てば次は決勝戦。みんなは勝つための訓練は私が直々に教えてきたから大丈夫なはず。これから四日ぐらいの長い代理戦争の真っただ中に行くけど、準備はいい?」


 ……………黄城じゃないの?


 頭の中にあった黄城の二文字が消え去ると、


「わかってるわよ、そんなの。それより早く私たちの拠点を築きに行きたいわね……」


「なら、今回はルーシィに二年生の斬時君。あとは司令官の三年、勾坂君に降下してもらおうかな?」


 そう口にした赤髪の女の人は指を順に俺、無表情の男子二年生、さわやかスマイルの三年生へと向けた。それからは問答無用だった。


「それじゃぁ、三人とも用意はいい? 下からはもう砲撃が来る頃だし」


「わかりましたよ」


 三人ともが同じように返事を返せば、機体の後方、荷物を運搬するためのハッチが開き始める。そこからは立っているのもやっとな風が吹き荒れてきた。


「三人は先に行って、拠点になる場所を確保してきて、そしたら私たちも降りるから」


 その言葉の後は簡単だ。斬時と勾坂と呼ばれた先輩たちは背中に水素エンジンを搭載したパラシュートを背負い、ハッチから勢いよく飛び降りていく。それに追従し俺も空中へと飛び出した。背中には何も背負うことなく、高度四千メートルから戦場になる青城学園の広大な敷地へと、漆黒の片翼を生やし、天使のように空を飛んで行ったのだ。

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