第2話 老騎士と奴隷商とエルフ


 老騎士が目を覚ましたのは翌日のお昼時であった。

 久しぶりの宿での睡眠だったので周りを警戒することも忘れていたらしい。

 普段なら武器の剣はベットの左横に立てかけていたが、起きてから気づいたが立てかけていた剣は床に倒れていた。そのことにも気づかないとは……。

 自分の身体の老いと感覚の鈍りに危機感を抱いた。いざという時に護れるものも護れなくなってしまうと。


 そのために長年使ってボロボロになった今の剣をあたらしい剣に新調せねばな。長年使っていたため思い入れはあるが、それでは人は護れない。

 今日の予定が剣の買い替えになった。

 今まで着ていた鎧を脱ぎ、軍服姿になる。今はもうない国の服なのでバレることはないだろう。

 宿の従業員におすすめの武器屋を聞き、そこに向かった。


 教えてもらった武器屋はこの国で一番大きな武器屋らしく実際にとても大きかった。中に入るとそこは熱気に包まれていた。地下で武器でも作っているのだろう。入ってすぐのところの籠に入っているのは売れ残ったものだろう。部屋の横にも武器が並んでいる。売られているのは武器だけのようで鎧や服は見当たらない。だが武器の種類は多岐に渡った。大剣、小剣、細剣、短剣、槍、ハルバード、鎌、弓矢などから、ナックル、鉄扇、鉤爪、東洋の武器、メイス、トンファーなど。


 老騎士はこの武器の作りや選出の仕方を一度見たことがあった。

 気になって店の奥を覗くと、やはり見知った顔が。

 向こうもこちらに気づいたらしく、目を開いて驚いていた。

 老騎士は久しぶりの友とあって気が高ぶっていた。


「久しぶりだな! エドワード! 元気にしてたか?」


「ああ、ほんとに久しぶりじゃ、友と会話できるのは。今は見ての通りの老いぼれじゃ。できていたことが日に日にできなくなっていく。そちらは元気そうだな。さすが長命種だ」


「おかげさまでな。ドワーフは軽く100年は生きるからな!」


 そう、彼は老騎士の古き友、ヴォルフガング・ゲネルボルト。

 ドワーフは先祖に妖精族を持つため、人間より長く生きる。話しから、彼も既に100歳は越している。

 そのため知識、経験が豊富で物づくりが得意だ。

 そして彼はそれを生かし、元・王宮鍛冶師筆頭だった男だ。


「いろいろ話したいことがあるがその前に、お前を鍛冶師として相談がある」


「おう」


「わしの剣を作ってくれ。次こそは護りたいものを護れるように強い剣を」


「……おう、分かった。今ある最高の材料と最高な俺の技術を使って、お前の願い聞いてやる。……だがな、金は多めにもらうぜ?」


「ああ、ありがとう」


「5日はかかるぜ。それまで入口の籠に入っている剣を使ってくれや」


「助かる。それでは5日後に」


 こいつは5日はかかる、と言ったがそれは謙遜で5日後には終わっているだろう。

 ありがたく剣を借りて、町をぶらつくか。



 少し町を見て歩くと宿と変わらない大きさの店があった。

 どのような店なのだろうか。気になって彼は入ってしまった。

 門の前に立つ門番は反応しなかった。


 建物にはいると彼はすぐにここが奴隷商であることに気づいた。

 入ってすぐに長い通路があったのだが、通路の横が牢屋になっており、その中には獣の特徴を持った獣人、湾曲した角やコウモリのような羽を持った亜人、人間や子供などがいたからだ。


 王国にも奴隷制度はあったのだがそれでもこの雰囲気には慣れない。


「お客様、この度はどのようなご用件で?」


 突然の背後からの声に気づかなかった。だが彼はそれをおくびにも出さず、


「いや、ここにはどのようなものが売ってあるかとおもってな、案内してもらってかまわんか」

 

 と言う。

 得に理由はなかったのだが見ておかなければならないと思った。

 なにかが自分にそういっているようであった。


「かしこまりました。説明を交えながら案内させていただきたいと思います」


 案内しろ、と言ったが老騎士は話を聞いていなかった。

 奴隷に落ちるのは大抵罪を犯したものか、拉致か、家族に売られたものぐらいだ。

 

 そして、彼に『鑑定眼』というスキルがある。それを使い奴隷たちを見て回った。

 

 これが奴隷商人に案内させても話を聞かない理由だった。説明を聞くより細かい情報が得られる。鑑定眼では対象の名前、持っているスキル、称号などを見ることができ、それで昔は騎士のスカウトにも使わせてもらった。


 一通り見て回ると一番奥の牢屋の中にエルフの少女がいることに気が付いた。

 老騎士は少しスキルを使い覗いてみた。

 すると……

 

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