滅びた王国の最強老騎士、元奴隷の姫騎士エルフと国を作る

咲春藤華

第1話 老騎士と大きな国と旅の終わり

 

 砂塵が舞う辺り一面の砂漠地帯。

 

 その中を一人の老騎士が騎馬に騎って旅をしていた。

 老騎士は既に50を超えていたが全身鎧を着てマントを風にはためかせながら進んでいた。

 風は強いだろうし、騎馬に騎っているのに体の軸がブレることはない。


 その老騎士の名は、エドワード・フォン・ウィリアムス。

 彼は10年前に滅びた王国の王に仕えていた騎士であった。

 その騎士の中でも、騎士を従え、王、国、民を護る騎士長であった。

 

 10年前の戦争で王国は敗れ、王は自ら捕虜となり部下を逃がしたが、終戦後処刑された。

 

 彼も王に逃がされた部下のひとりだった。

 

 彼は今でも心の底で嘆いている。


 なぜ、騎士の自分が王も国も民も護れずに逃げ返ってしまったのか、と。

 自分こそ捕虜となり、王や民を逃がす役割を担うべきではなかったのか、と。

 自分を騎士に、と選んでくれた王を最後まで護り抜くことができなかったことを。

 

 その罪を償うためこの老騎士は、次こそは護るべきもののために死んでやるという意思を持ちながら、護るべきものとそれにふさわしい死に場所を求め彷徨っていた。



____________________


 砂塵が晴れた向こう、老騎士の目には頑丈そうな壁が見えた。

 老騎士はそこを目的地とし馬を進めた。



 今、老騎士の目の前に滅びた王国のものよりも大きな壁と門が建っている。

 彼は正直驚いていた。

 

 王国のものよりも大きな壁を初めて見たからだ。

 首をほぼ上に向けないと壁の上が見えないほどだった。

 老骨にはきつい角度だ。


 壁内に入るために門番に銀貨3枚を渡して、門をくぐる。

 この国でも言葉が通じたこととお金が使えたことに安堵したのは内緒だ。


 門をくぐってまずの印象は、もの凄い活気だということだった。

 門の外は砂漠だが、門の中は程よいくらいの緑があった。

 都市の中心に立派な城が建っており、その下に城下町がある。

 そこは買い物客や音楽隊、芸人などで賑わっており、皆がみな楽しそうであった。

 

 こちらも見ているだけで気分が躍る。長い旅の疲れがとれるようであった。

 

 城下町の商品を見て回り、見たことのない果物を数個買い、ついでに店主にいい宿を聞いた。

 教えてもらった宿は『緑のオアシス』という名の宿だった。

 旅人を癒すために設備は整っているらしい。


 その宿はデカかった。

 あまりの大きさに老騎士を目を丸くした。

 レンガ造りの五階建て、窓は鉄格子ではなく、ガラス、それもステンドグラスであった。

 中に入ると、そこはお城の中と言ってもいいのではないかと思うぐらい、装飾が派手なところだった。スタンドガラスや大理石、天井にはシャンデリアがついている。

 

 正面に受付場がある。


 全身鎧の騎士が入ってきたことで周りの空気が若干重くなる。

 彼もその空気に気づき、バイザーをとって顔を出す。

 顔を見せたおかげか重い空気も少し軽くなった。

 だがまだ全身鎧に帯剣、元騎士長としてのオーラのせいで従業員や宿に雇われている警備員は気が抜けなかった。


 彼は気づいていたが、どうすることもできないのでそのまま受付に向かった。


「こんにちは。初めてのご利用になられますか」

 

 受付嬢はこの空気に対しても、笑顔のまま聴いてきた。

 この受付嬢はベテランであることがわかった。


「ああ。10日ほど泊まる予定じゃ。一人なので部屋はどこでも良い」


「わかりました。それでは部屋は5階の三番室で宜しいでしょうか」


「ああ」


「かしこまりました。10日間でしたら、銀貨30枚となります。お食事はこの階の奥の食堂でされても構いません。食事代は別になっておりますのでその時にお支払い下さい。お風呂は一部屋に1つずつ据えてありますのでご利用ください」


 風呂がついているのか。ありがたい。


「ああ」


「こちらがお部屋の鍵になります」

 

 老騎士は宿泊代に金貨1枚を渡した。さすがに受付嬢も驚いていた。


「周りに迷惑をかけた。釣りは皆にあててくれ」


「あ、ありがとうございます!」



 部屋の鍵を開け入ってみると広すぎず、狭すぎずの丁度いい大きさの部屋があった。部屋の奥には町を覗ける大きな窓が1つ。絶景であった。これを望みながら酒を飲むのも一興だと思った。


 先に風呂に入って疲れを取ろうと思い、横にある扉を開くと人ひとり横になれるぐらい大きな風呂が。老騎士はほかの人よりも背が高く、肩まで浸かることができていなかったが、ここではできそうなので内心喜んでいた。


 湯に浸かるのは久しぶりで危うくそのまま寝てしまいそうだった。

 十分に堪能した後、食事をすることも忘れ、ベットに倒れこみ死んだように眠った。これからのことを考えることもなく……

 





 


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