双子のこれからⅡ
「最低ッ!!」
暁の怒りが籠められた拳を顔面に二発と喰らっただけで済んだのは奇跡だ。本当だったら、もっと殴られてもおかしくないような状況だったが、
「……なんでよ、もう。もっとムードとか……あるでしょうが」
小言でボソボソと口にしていて分からないが、恥ずかしかったのかもしれない。おかげで、身体の傷は必要最低限で済んだわけだ。
「悪かったよ。でも、暁だって寝相が悪いから、今回みたいなことになったわけで、それに暁の寝顔が見れてよかったかな。普段、あんなに眼つきが悪いのに、寝てる間だけ凄く可愛らしい顔で寝てるんだから」
「寝てる間だけで、悪かったわね。馬鹿」
暁はそっぽを向いてしまったが、その耳が赤い事に気付いた。
「恥ずかしいのか?」
「恥ずかしくないわよッ!!」
茶化そうとすれば、激昂する暁がどこか可愛らしく思えてしまうのはどうしてだろうか。
暁と寝て一時間と経ち、今はもう夕方になっていた。今日のところは一旦、家まで送るとして、この歪な姉妹をどうやって元に戻そうか……これからが大変そうだ。
「家まで送るよ。体調も悪いようだから」
顔を熱のせいで赤く染めている暁にブレザーを手渡し、俺は玄関へ下りようとした時だ。
「ちょっと、待ってよ……」
俺の後ろにいた暁が俯きながら、手を握って来た。
小さくて、温かくて、柔らかくて……力を入れて握ったら、潰れてしまいそうな暁の手を、俺は優しく握り返す。
「また……あんたの家に来てもいい?」
心配そうに見つめてくる暁の瞳は捨てられた子猫のようで、俺は心臓をドギマギさせながら、
「いつでも来いよ。待ってるから」
ぎこちなく笑顔を作りながら、暁の鞄を手に持って家を出た。
俺の家から暁の家まで三十分と、案外近い事に驚きつつも家の前で別れ、家へと帰った。
ただ、最後に別れた時、
「……ありがとう」
「……何か言ったか?」
「…………ありがとうっ!! って言ったのっ!!」
大きな声を出して怒ったような表情を浮かべた暁だったが、最後に笑顔を見せた。その表情は寝ている時とは違った可愛らしさがあった。
ほんと、ああやっていたほうがモテるだろうに……。
少しだけ残念に思いながら、俺は歩いて帰った。
「やっぱり……私も恋してるんだ……」
櫻坂が離れていくと、どうも心の隅が悲しくなる。まるで離れたくないかのように。
私は櫻坂の姿が見えなくなれば、家へと足を踏み入れた。帰りたいとは思えない家に。
「……ただいま」
今さっきまでの嬉しさは消え失せ、すぐさま部屋へと駆けあがった。
雪真に会いたくない……。
頭の中で雪真の怯えた表情が浮かび上がり、私は逃げるように閉じ籠る。一階からはお母さんの声が聞こえて来る。ただ返事もせず、私は静かにベッドへ寝転んで天井を見つめる。
天井に写り込む雪真の顔。悪夢のように流れ込んでくる血に塗れた両拳。そして、鏡のように頭の中で私の顔が写り込む。
『…………ハハ』
楽しそうに口元を綻ばせた私。まるで、もう一人の自分がいるような違和感が心を蝕む。
「……やめてよ、もう……やめてよ……」
頭に流れ込んでくる記憶。見た覚えのない私の顔。人を殴って楽しそうに微笑む私の表情は、酷く怖かった。でも、心の底では安堵してしまう私もいた。
『スッキリしたかったんでしょ……?』
自分の欲望が話しかけてきたのが、耳に残った。
私は少しずつ、理解し始めたのかもしれない。
自分がどういう心を持って生まれたのかを……。
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