双子のこれから

「……まったく、どうすればいいんだ?」


 今さっきの暁の話を聞いている限り、雪真が暁の事を嫌っている訳ではなく、暁が雪真の事を嫌っているように感じた。

 ただ、二人の空白が長かっただけ。

 この事実が、二人に歪な亀裂を作ってしまっているのだ。

 今日のところは、暁を休ませておいてだ。


「もしもし、雪真か?」


「初めてだね、櫻坂君から電話を貰えるなんて」


 俺の電話の相手は暁の妹の雪真だ。今の暁の体調が悪い事を知らせる為に電話を掛けたわけだ。

 それともう一つ。雪真に聞きたいことがあった。


「雪真、暁はお前に嫌われたって思ってるらしいんだけど、本当なのか?」


「………………」


 俺の質問に無言でいる雪真。それが既に答えのような気がした。最初に出会った時は二人の仲は普通に見えた。ただ、暁に俺という、『男子の友達』が出来たからだ。中学の時にも男子とは仲が良かったとしても、それは自分の空手を受けてくれる人がいなかったから、無理やり殴り掛かっていたようなものだ。


 まぁ、今もそうだと思うけど……。


 電話の向こう、雪真は無言のまま数秒間が過ぎた。


「……雪真、大丈夫か?」


「…………うん、大丈夫だよ。私は大丈夫……大丈夫だから」


 声が途切れ途切れの雪真に多少の心配したが、


「もう少し俺の家で暁を休ませたら帰らせるから、帰って来てやったら少しだけ看病してやってくれないか?」


 今は二人の仲を元通りにする。これが俺の最終目標だ。


「わかった、暁が帰ってきたら少しだけ看病してみるね。櫻坂君はこういう出来事から切掛けを作ろうとする人なんだね」


「やっぱりバレてたか」


「もちろん、分かってますよ」


 人の心を見透かすことに長けた妹に、武術に長けている姉。

 心理戦と肉弾戦……例えると、こんな感じの交じりあう事のない二つ。昔までは、この二つが混ざり合っていたなんて、俺は少しだけ思えなくなった。


「それじゃあ、後で暁を家まで送るからその時に」


「はい、その時に会いましょう」


 通話はここで終わった……終わったのだが、俺は腑に落ちないことが芽生え始めた。


「本当に……やり直したいのか?」


 疑問が生まれた。暁は自分の素直な気持ちを雪真にぶつけていた。そう、怒りに任せてでも、自分の気持ちを吐いていたはずだ。

 ただ、雪真はどうなのか……。


「本当の気持ちを口にしたことはあるのか?」


 妹として、姉と仲良くする。そんなことが当たり前の世の中だ。上面だけでも仲良く見せようとしている兄弟姉妹は大勢だ。

 なら、雪真も暁も同じなんじゃないか?

 疑問による疑問……頭の中が混濁して、考える余裕が無くなってきた。


「今は何も考えなくていいか……一人になったら、考えよう」


 一階の冷蔵庫から御冷を持って、二階の扉の前。 


「入るぞ……?」


 ドアをノックして、中を覗きこめば、


「ふぅ……ふぅ……」


 と、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。


「暁……?」


 視線の先、ベッドの上には頬を赤くしながら寝息を立てている暁がいた。それは、嬉しそうな表情で、だ。


「暁もこんな表情になるんだな……普段から、こんな可愛い顔してればモテるのに……勿体ない奴だな」


「うるさいわねぇ……櫻坂ぁ……」


「…………起こしたか?」


「アンタなんか……こうして、こうやって……それで、私の物に……するんだからぁ……バカぁ……」


「あ、暁……?」


 顔を寄せて、起きているかを確認しようとした俺だが失敗だった。


「このぉおお!!」


「んんんん――!!」


 寝ぼけているのか、暁が顔を覗き込んでいた俺を抱き寄せて、ベッドへと横たわらせたのだ。それも、思いっ切り力を入れているせいで、逃げることも出来ない。そして、女の子特有のいい香りと、暁の普段とは違った可愛らしい表情が目と鼻の先にある。また、女の子の肌は柔らかい。俺はそう思った。


「……なんで、なんで服が肌蹴てるんだよ」


 俺は絶句する。

 いや、確かに寝る時に服を着ない人たちはいるだろう……。そして、暁もその一部らしい。

 眠りながら、服を脱いでいったのだろう。暁の服は胸元が覗けるようにボタンが外れている。


「……………………頑張れ、俺」


 俺は二人の仲を元通りにする仲介役みたいなもんだ。それが、二人の機嫌を悪くするようなことをする……。

 自分に問うように頭で思考し、理性を抑える。


「もう、寝るか……」


 諦めを決め、俺は寝ることにする。暁の力は異常な程に強い。抜け出せないのなら、このまま眠ってしまった方が得策だろう。おそらく、後で非常に危ない状況にはなるだろうが……。

 諦めたように目を瞑り、俺は暁と一緒に深い眠りに就いた。


 そして、俺は一時間後に顔面を二発……殴られた。

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