恋する乙女

翌日からは、生活なんか全部が変わった。

 学校に行けば、昨日のことが学校に噂となっていて、最終的には親も呼ばれての話し合い。だけど、結局は十伊や三城屋が雪真を襲ったという事実を私と雪真が口にすることで、男子二人の親が自分の息子の仕出かしたことを謝罪する破目になった。

 ただ、その事件は私が二人を殺し掛けたと言う尾鰭が着いて、学校を蹂躙した。

 ヒソヒソと学校の中で囁かれ、最後に守れたはずの雪真まで噂されるようになった。

 それが全部、嘘だという事はわかっている。私達が、被害者であるから。

 でも、そんなことは他人ごとになるんだ。学校の生徒達にとっては。

 毎日、学校に行けば蔑む視線と惨めなものを見る視線。噂は広がり、学校の外まで広まってしまった。

 そして、助けて以来、雪真は私に怯えたような視線を向けてくる。


「……………………」


 だから、私は朝食を食べるとしても、わざと雪真とは時間をずらしたり、話しかけられそうになれば、殺気なんかを出して話しかけられない様にした。

 そのおかげか、雪真は段々私に声を掛けなくなって、一緒に学校に行くことも無くなった。リビングで居る時でさえ、私達は話し掛けない。

 親達も、私達のことを理解しているのか、そっとしている。


 そんな生活も早くも二年……。


 険悪な仲である私たち二人が直面したのが、受験だ。

 雪真は頭が良いから、それなりの勉強をすれば合格するはず。だけど、勉強が苦手な私は、普通の人よりも多くしなくちゃいけない。

 昔までは、雪真が教えてくれる……そう、信じていたから安心していたが、自分の力で雪真と同じ高校に行かなければならない。

 本当だったら、この時に違う学校に行くっていう選択肢があったはずだけど、私自身、それに気づいてなかった。

 毎日のように、勉強をして疲れて寝て……。

 ただ、私が机に突っ伏したまま寝ていた時、誰かが私にカーディガンを掛けていてくれた。

 多分、お母さんだろう。

 私は納得させるようにしたけど、心のどこかで雪真かも……なんて期待をしていた。

 そして、受験当日。

 光陽学園で試験を受けた。

 そして、合格。

 なんだか、呆気ない終わりだった気がする。


「これで何か、変われるかな……」


 そして、学園生活が始まって、


「今、私がアンタの部屋にいるわけ」 


「…………まぁ、お前らしいって言ったら、お前らしいんだろうけど」


「何よ、文句ある?」


 食事が終わった後に、俺達は部屋へと上がっていた。ベットに腰掛けた暁と机の椅子へと腰を降ろした俺は相対した俺達。

 暁は鋭い眼光を俺に向け、何故か目元と口元を綻ばせた。


「いきなり、どうした?」


「……なんでもないわよ、なんでも」


 今の暁は少しおかしい。なんか、目も少し虚ろで、頬を少しだけ赤い。


「ちょっと、失礼」


 熱でもあるのかと心配して、額を暁のおでこへ触れさせる。ただ、その行動が突然だったからか、


「何すんのよッ!!」


 と、鳩尾へ正拳突きが飛んできた。

 だけど、俺はそんな痛みを気にせずに、額を当てて、


「やっぱり、熱があるみたいだな」


「―――――っ!!」


 暁の顔が林檎のように真っ赤に染まって行く。


「ちょっと、下に行って飲み物でも貰ってくるから待っててくれ」


「ちょ、いいわよっ!! 気にしなくて」


「病人は少し静かにしてなさい」


 昔、親にして貰ったように俺は暁をベッドに横にして、部屋から出て行く。


「もう……気にしなくていいのに……」


「何か言ったか?」


「何もいってませーん。飲み物取りに行くなら、とっとと取ってきなさいよ、バカっ!!」


 苦笑いをしながら、俺は暁を置いて、一階に飲み物を取りに行った。


 櫻坂が飲み物を取りに行ってくれた……。


 この行動にどんな意味があるのか、なんてことはわからない。ただ、私が思ったのが……。


「優しいなぁ……櫻坂」


 布団で綻んだ口元を隠すように、私は微笑んでいた。


「私も……恋、してるのかな」


 普段の強気な暁は、そこにはいない。

 そこにいたのは、一人の恋する乙女だった。

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