双子の過去Ⅶ
雪真の下駄箱に手紙が入れられてから三日。
期末テストが終わってから毎日、午前授業になった。そのおかげで、私は雪真と楽しく会話をしながら帰って、家では一緒のソファに座る雪真の視線が、どこか遠い場所を眺めるような物になっていて、
恋してるんだなぁ……。
なんて微笑ましく眺めるのが、普段の日常に加わった。
毎日が楽しくて、嬉しいことだらけだって思えた。
ただ、一つだけ心配だったのが、私も雪真も恋を知らない……。
恋愛漫画とかでは理解できているけど、結局のところは経験をしないことには分からない。
だから、初めてのことで右往左往するのもそうだし、もしも相手に嫌われたりなんかしたら大変。
初めてすることは怖い事だ。
私だって、初めて空手で組み手をした時は怖かった。
まぁ、恋愛と空手の組手だと怖いの種類も違うのかもしれないけど……。
雪真が傷つかない様にするのが、私の役目。
私の中で勝手に埋め込まれたような使命感。大切な彼女が傷つくのだけは避けたい。
お風呂に入っている時、学校で授業を受けている時、食事をしている時。
どんな状況でも、雪真の騎士でいるような感覚。
雪真を守ってる……。
自分の行動が全部、雪真の為に……。
ただ、そんな私とは裏腹に雪真は、
「今日ね、十伊君に放課後に話がしたいって言われてるから……先に帰っていいよ」
雪真から突き放される様な言葉に、私は動揺した。
これだけ私は雪真の事を思ってるのに……なんで、なんで突き放すの……?
頭の中で響く雪真の声に従うように帰路に就いた。
家に着いても、頭の中は雪真がどういう話をしているのか、傷つけられてないだろうか。心配、心配で堪らなかった。
ただ、そんな心配も杞憂に終わった。
日が暮れそうになった時、玄関から、
「ただいまぁ……ふぅ」
なにか、気が抜けたような声と溜息。聞き慣れた声が聞こえて走って迎えて、
「何か変な事されてない? キスなんかされてない?」
「されてないよ、心配し過ぎだって。暁は私のことが信用できない? 双子でしょ?」
「……ううぅん、信用してるけどさぁ、心配なんだよ。わかんない? 初めての恋なんだよ?」
「大丈夫だってば、恋って凄くいいよ。ドキドキするし、なんていうか……こう、嬉しい? 好きな人が一緒にいると安心するの。手も握りたくなるし……恋って楽しいッ!!」
雪真はまるでおとぎ話の世界にでも紛れ込んだ子供の様に、目を輝かせている。
その様子を見ていると、私は見守るだけでいいや。
なんて思えて来て、これからは一緒に帰ることを控えようと思えた。
「で、結局付き合えたの?」
「うんっ、十伊君に告白されて、私も告白したの。もう、嬉しいっ!!」
「よかった、よかった」
そこから始まった雪真の惚気話。長くて、途中でお風呂に逃げ込んだりしたわけで、要するに雪真は幸せになった。
この事実だけは、真実だと感じてた。
雪真と十伊が付き合い始めてから一週間。
雪真と十伊が付き合い始めたと言う噂が、校内に広がり始めた。一緒に学校から帰るようになったところを、誰かに見られたらしい。
雪真は女子達に質問攻め、十伊は男子から羨ましがられる。そんなことが始まり、二人は少しの間、一緒に帰ることを止めたらしい。
ただ、二人の恋愛話……そんな中に一つ、紛れ込んだ噂が私の耳に入って来たのだ。
誰かが、雪真を賭けの対象にしている……と。
ただ、そんなことは中学ではないだろうなんて、高を潜ってた私は、聞き流した。そんなことあるはずがないんだから。
雪真は幸せになる。
それだけを信じて、私は見守り続けた。
それと、もう一つ……。
誰かが、雪真に告白したと……。
雪真からそんな話はされてない。だから、そんなことはないと思った。
だけど、そこで少しは雪真の事を疑って、ちゃんと自分で考えていれば……。
雪真に依存していた私だから、疑う事を知らなかったんだ。
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